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裏野ハイツの住人(夏のホラー2016)

白鳥家

作者: 青木森羅

夏のホラー2016の設定を使っていますがホラーでは無いです(まぁ心霊要素はありますが)

「鏡の中、家族の仮面」と「金無し男の喜劇とその価値」に出てきた白鳥のおばさんの話です。

良かったら、読んでみて下さい。


 裏野ハイツ201号室、私がここに暮らし始めてかれこれ三十年ほど経つ。

 その時から欠かさず日課としてしていた事がある、それはここの掃除だった。


「おはよう」


 いつもの様に私が掃除をしていると、目の前に男の子が立っていた。


「……」


 彼は頭を下げる。


「おはようございます……」


 その隣に立つ、103号室の片切さんのご主人が返事をしてくれる。

 

「いってらっしゃい」


 彼等は会釈をして出て行った。


「白鳥さん、おはようございます」


「あら、佐竹さん」


 101号室の住人の佐竹さんだった。彼は怪訝な顔をしながら、


「最近、片切さんの様子おかしくないですか? なんか暗くなったっていうか」


「そうかもしれないですね、ただあんまり詮索するのもいけないですよ。あなたの怪我みたいに」


 最近の彼は体のどこかに、必ずと言っていいほどの頻度で傷を作っていた、その原因を聞いたのだけれど彼はあまり喋りたがらなかった、


「まぁ、それもそうですけどね」


 彼はばつの悪そうな顔をした。


「そういえば今日はお仕事?」


 私は話題を変えた。


「いえ」


 彼の顔に幸せそうな笑みが浮かぶ。


「ああ、デートなのね」


「はい」


「そう、行ってらっしゃい」


「いってきます」


 そう言って佐竹さんは駅の方に向かって行った。


 私は掃除を続けた。

 夏の暑さを和らげる様に爽やかな風が私の肌をなぞる。


「大丈夫ですよ」


 この時期になると彼との思い出が鮮明に蘇る。



 彼との出会いは、私が中学を卒業する年度の初めだった。


「今日からこのクラスの担任を務める事になった、池沢浩二いけざわけんじといいます。あと一年間しかないけど、よろしくお願いします」


 元々このクラスの担任だった佐々木先生は、年明けに妊娠が発覚し今年度からお休みしていた。

 その代わりで来たのが彼だった。


 きゃあきゃあとクラスのみんなが色めき立つ。

 それも当然だと思う、うちの学校は女子校で居る先生と言えば女の先生か既婚者の男性しかいない。


「ねぇねぇ、かずちゃん。彼ってかっこいいよね」


 隣の席のなっちゃんが耳打ちをする。


「そう?」


 私はそんなに良いとは思わなかった、というよりどんな男性がかっこいいのか私にはいまいち理解できなかった。

 元々そんなに男性との付き合いがなかった私の知っている男性といえば、お父様とお兄様、それと叔父様位で比べる物差しを持ち合わせて無かったのだと今なら理解できる。


「かずちゃんはほんとに恋とかに疎いよね」


「そうなの?」


 パンパンと手を叩く音で教室が静まり返る。


「ほら皆さん、静かにしてください。そろそろ勉強しますよ」


「はーい」


「では教科書を開いてください」


 彼との出会いは至って普通の出会いだった。



「白鳥さん、ちょっといいかな?」


 ある日の事、私は先生に呼び止められた。


「なんですか?」


「話したい事が有るんだけれど、放課後ちょっといいか」


 私は少し悩んだが、


「少しなら」


「ならよろしく頼む」


「はい」


 そして授業を終え、放課後になった。


「ごめんな、呼び出して」


「いえ」


 そこは実習室で私と先生以外は誰も居なかった。


「それで話ってのはなんですか?」


 私がそう切り出すと先生は、


「いや、話だがな」


「はい?」


 なんとなく先生は話しづらそうにしていたが意を決したように、


「なぁ、白鳥。お前いじめられていないか?」


 急な事に質問の意味を理解できなかった私は、


「はい?」


 と聞き返してしまった。


「いやな、ここ何ヶ月か見ていて気づいたんだけど、お前が奈津美以外と喋っているのを見た事が無いんだ」


 そう言う事かと私は納得がいった。


「違うんですよ、先生」


「そうなのか」


 私の家はこの辺りで一番大きな家だった。

 そんな家に生まれた私はお嬢様の様に扱われ、小学校に入るまでの間は常にお付きの人が居てそれを知っている皆は自然と私と距離を置く様になっていた。

 しかしそんな私でも分け隔てなく一緒に遊んでくれていたのがなっちゃん、宮藤奈津子みやふじなつこだった。

 小学生の時に越してきたなっちゃんは、私に声をかけて来てくれた。

 ただそれだけの事だったのだけれど、私達は自然と仲良くなっていった。


「そうだったのか」


 先生に説明し終えると黙って聞いていた彼は腕を組み、

 

「そんな事があるのか」


 と呟いた。


「ええ、ですのでいじめとかではないので大丈夫ですよ」


「うーん」


 しばらく彼はそう悩んでいたが、


「よし!」


 と言いながら立ち上がった。


「どうしたんですか?」


「いい事を思いついたんだよ」


「なんです?」


「今は秘密だ」


 彼は唇に人差し指を当て、いたずらっ子の様な笑みを浮かべながら言った。

 少し不安もあったが、先生を信じてみる事にした。



「えっ! 私ですか!?」


 その日は学園祭の出し物を決めるだったのだが、


「そうだ、白鳥がみんなの連絡役な」


 私たちの組では演劇をやろうという事になったのだけれど、先生がみんなのやる事を勝手に決めていた。

 

「白鳥さんが?」


「本当なの?」


 そんな声が漏れ聞こえる。


「いいかみんな、なにか分からない事があったら白鳥に言う事。いいな?」


「はーい」


 みんなは少し不安そうに返事をした。



「どうだった、文化祭」


 文化祭が無事終わりその放課後、先生に呼び出された。


「楽しかったです」


 本当に楽しかった。

 初めの内はみんなも少し遠慮しながら話しかけていたが、最終日近くにはみんなと好きな物の話や最近読んだ本の話をするまでの仲になっていた。

 これは後から聞いた話なのだけれど、みんなも話したかったみたいなのだけれどなんとなく話かけづらかったのだけで嫌いって訳でもなかったようだ。


「そうか、なら良かったよ」


「ええ、先生の……おかげです」


 ニコニコと笑いかけてくる彼。

 私は彼から顔を背けた。


 私はこの時に恋をしていると気づいた。



「どうしたんだ? こんな所に呼ぶだなんて」


  いつもの実習室。


「すみません、急に呼んでしまって」


 卒業式が終わり、同じクラスのみんなは帰った後。


「いいよ」


 私はここに先生を呼び出された。


「それで? なんの用だい?」


 生徒と教師ではなく。


「先生」


 男と女として。


「私はあなたのことをお慕い申しております」


 この言葉を伝えるかどうか迷っていた、けど私は止められなかった。

 私の思いを聞いた彼は、困った顔をしていた、そして。


「本気なのか?」


「ええ」


 沈黙。


「君の気持ちは嬉しい」


 私の鼓動は高鳴った。


「だけどな」


 その先の言葉は聞きたくないと思った。


「僕達は教師と生徒なんだぞ?」


「それは今日まですよ!」


 無意識に口調が強くなってしまう。


「確かにそうだけど」


「先生は私の事が嫌いなんですか?」


 先生は口ごもる。


「どうなんですか?」


「白鳥、君は確かに聡明でいい子だ。だけど……」


「それは生徒としてですよね」


 私の目から涙が溢れそうなのを耐えていた。


「女としては、どうなんですか!?」


 先生は無言だった。


「先生……」


 無言に耐えられなくなった私は答えを促してしまった、すごく後悔するかもしれないのに。


「白鳥」


「……はい」


「私は」


「はい」


「君を愛している」


 その言葉は私が思っていたのとは、違った。


「え?」


「男として君を愛しているんだ、白鳥」


 私たちの交際はそうして始まった。


 ただその幸せも長くは続かなかった。



「何故ですか! お父様!」


「あの男は駄目に決まっているだろう! お前は白鳥の娘なんだぞ!」


 私には小さい時から許嫁がいる。

 彼は普通の女の子から見たらかっこいい人で頭もよく家柄も良かった、けれども私の心は彼に動く事は無かった。


「なんで、あの男じゃないといけないんだ!」


 お父様のあの時の顔は今でも覚えている。


「私はあの人を愛してしまったのです!」


「そんな事は許さん!」


 父の右手が私の頬をぶった。


「あなた!」


 お父様の隣に居たお母様が声を上げる。


「お父様なんて知らない! こんな家なんて滅んでしまえばいいんだわ」


 そう言い放ち、家を飛び出した。


「和子! 待ちなさい!」


 そんなお母様の制止も聞かずに。



「うぅ……」


 雨が降り続く中、泣きながら私は浩二さんの部屋に向い歩いていた。


「どうしたんだい、お嬢さん?」


 そこには行商人なのか物売りが立っていた、その誰とも知らない人に警戒心を抱いたが、


「なにか悲しい事でもあったのかい?」


 そう聞かれた私は、涙が止まらなっか。


「そうかそうか。それは大変だな」


 おじさんは私の話を真摯に聞いてくれた、私を不安にさせない様に常に微笑みながら。


「なら、これをお嬢ちゃんにあげよう」


 それはお守りだった。


「そのお守りは、ただのお守りじゃないんだよ」


「え?」


「君の願いを叶えてくれるんだよ


「本当?」


「ああ、本当さ」


「けど、そんな良い物を貰えません」


「いいって、袖振り合うも他生の縁って奴さ」


「本当に良いんですか?」


「ああ、いいさ」


「ありがとうございます」


「ああ、それじゃあね」


 私はおじさんと別れ、彼の家に走った。


※※


 私と彼はそれから駆け落ちをした。

 白鳥の家の影響力が届かない遠くの街に引っ越して十年が以上が経った頃だ。


「あれ? もしかしてかずちゃん?」


 振り返るとそこには見た覚えのある女性が立っていた。


「え!? もしかしてなっちゃん?」


「やっぱり、かずちゃんなんだ! 久しぶり!」


 彼女とは街を離れて以来、一度も会うことが無かった。


「そうしてここに?」


 そう尋ねると、


「私の旦那様の勤務先がこっちなんだよ」


「え? かずちゃん結婚したの?」


 ニコニコと彼女は笑いながら、


「それどころか子供もいるんだよ、二人も」


「ほんとに? 凄いね」


「でしょ?」


 それから私達は立ち話もなんだからと、喫茶店に移動した。


「それで今までどうしてたの?」


 かずちゃんが心配そうに聞いてくる。


「街の噂だと、あなたは死んだ事になってるのよ。先生は急な移動だとか」


 まぁ、私は信じてなかったけどと彼女は付け加える。


「先生と駆け落ちしたんだ」


「やっぱり、そうだと思ったわよ」


 彼女には私の先生に対する思いを告げていたので、すぐ分かったのだろう。


「それでどうなの? 今は幸せ?」


 彼女はアイスコーヒーの氷をカラカラと音を立てながら聞いた。


「うん」


 短くそう告げた。


「そう、なら良かった」


 私はあの街を出てから気になっていた事があった。


「ねぇ、かずちゃん?」


「なに?」


「私の家ってどうなってるか、知ってる?」


 彼女の動きが止まる。


「ああ、それ、ね」


「ええ」


「最近大変みたいよ、あんまり経営が上手くいってないとかって噂で聞いたわ」


「そう」


「ただ、あなたの両親と弟さんは元気みたいよ」


 それを聞いて少しだけ安心した。


「なら良かった」


 そう言った私に、


「凄いね、かずちゃん」


「え?」


「だった、自分を追い出した人達だよ。それを心配するだなんて」


「色々あったけど、家族、だったからね」


「そっか」


「うん」


「じゃあ、そろそろ行くね。子供も待ってるし」


「うん、またね」


「またね」


 私と彼女はそういって別れた。


※※


 それから五年ほどが過ぎた頃、私達には子供が出来ていた。


はじめ、ほらこっちだぞ」


「おとーさん」


 三歳になった息子はトタトタと歩き、浩二さんに掴まる。


「ほら、高い高い!」


「あはは」


「もう、気をつけて下さいね」


「大丈夫だって」


「うん、大丈夫だよ」


「もう、うふふ」


 家族が増え、私達の暮らしは順調で幸せいっぱいだった。


 ピンポーン。


 彼が来るまでは。


「はい」


 ガチャリと扉を開けるとそこには、私の家に用心棒としていた男が立っていた。


「お久しぶりです、お嬢様」


 私は扉を閉めようとしたが、彼が差し入れた足で閉められなかった。


「なんですか!」


「少しだけお話を」


「嫌です」


「どうしても聞いてもらいたいのです」


 彼は乱暴に扉を開け、部屋の中に入って来た。


「なんですか、あなたは」


 浩二さんが尋ねる。


「私は白鳥家の使用人です」


 それだけで何か感じたのか、彼は一を庇う様に背中に隠した。


「お嬢様、そして池沢様、冷静に聞いて下さい。ご主人様が危篤状態です」


 私は雷が落ちた様な衝撃を受けた。


「たぶんもう何ヶ月とは持たないでしょう」


「ほんとに?」


 私の声は震えていた。


「はい、残念ですが」


「そして奥様もそのショックで病床にせっております」


「えぇ!」


「会社の経営自体は貴方の弟様、洋二さまがなされているので問題は無いのですが、他の事がありまして」


 なんとなく嫌な予感がした、女の勘と言う奴なのだろう。


「洋二様には跡目がおりません、洋二様の奥様も非常に出来た方なのですがどうにも運が悪く……」


「それで?」


 恐る恐る聞いてみる。


「一様を、洋二様のご養子にと旦那様が」


 そんな言葉を聞き、戦々恐々となった。


「なん、で、すって?」


「申し訳ありません」


「いや、待ってくれ。なんで一が」


 浩二さんが聞く。


「旦那様が、せめて家の血を継ぐ者を後継者にしたいと」


「だからって」


「申し訳ありません」


 気づくと扉の外には、他に人が立っていた。


「では、失礼します」


 一人が私の腕を後ろ回しで、もう一人が浩二を突き飛ばす。

 そして話をしていた彼が、一を抱え上げた。


「申し訳ありません、お嬢様」


「だめっ! 返して! お願い! 一を、一を返して!」


 その声はただ虚しく響いた。


※※


 それから私たち夫婦は三人での思い出が残る部屋を出て、新築の裏野ハイツの201号室引っ越してきていた。


「ただいま」


「おかえりまさい、浩二さん」


 彼も定年間際になり、髪の毛が白くなっていたが今も変わらず私を愛してくれていた。

 私は衣替えをしようと部屋の整理をしていたのだが、その中置かれた服の中に彼は気になる物を見つけた様だった。


「これはなんだい?」


 私は片付ける手を止め、


「なんですか?」


 と彼に振り向く。


「ほら、これだよ」


 そう言った彼の手には、何十年も昔のお守りが握られていた。


「ああ、それですか。それは貴方と駆け落ちした時に貰ったんですよ」


「そうなのか」


「ええ、なんでも願いを叶えるんだとか」


 そう言った時にふと思い出した。

 そういえば、貰った時に白鳥家なんて無くなればいいと願った事を。

 それが発端で落ちぶれたのではないかと。

 しかし、いくらなんでも考え過ぎだろうそう思っていた。


 浩二さんが亡くなるまでは。



「浩二さん!」


「な……つみ……」


 私は彼の手を握った。


「ここにいますよ……」


 彼は笑った。


「ごめんな……」


「なにも謝る事なんてないじゃないですか」


 ゴホゴホと彼が咳き込む。


「なぁ……なつみ……」


「なんですか、浩二さん?」


 私は泣きそうになるのをこらえながら聞き返した。


「私と一緒で……幸せだったかい……」


「……はい、とても」


 彼の手が私の顔に伸びる。


「泣かなくていいよ」


 また彼が咳をする。


「そういえば……あのお守りは……?」


 何故か彼は、自分の余命が少ないと知ってからあのお守りを見たいとよく言っていた。


「ほら、ここにありますよ」


 私はポケットからお守りを出し、彼に見える様に右手に乗せた。

 その上に彼の右手が乗せられる。


「私はいつまでも君と一緒に居たい」


 今まで途切れ途切れだったのが不思議な程に、そう言った。


「私もですよ」


 私達は微笑みあった、瞬間。


 彼の手がするりと落ちた。



 彼の葬式は身内だけで行われた。

 といっても彼も家族や親戚は亡くなっていたので、数人の仲の良い友人だけの葬式だった。


 そんな葬式の数日後、予想外の来訪者が訪ねてきた。


「お久しぶりです、姉さん」


 彼はそう言った。


「どうぞ、お入り下さい」


 私は彼と隣に居た女性を招いた。

 重々しい音を立てて、扉が閉まる。


「和子姉さんは、本当にこんな所に住んでいたんだね」


 お腹が出て髪の毛は無いその男性の目元は、確かに父に似ていた。


「本当にまことなの?」


 彼は首を縦に振った。


「その女性は?」


「私の妻だよ」


「はじめまして」


 その品のある女性は頭を深々と下げた。


「それで……今日はどうしたんですか?」


「義兄さんが亡くなったのでお線香をあげに、それと」


 彼は言い出しにくそうに、


「母が亡くなりましたので、その報告を」


「え? お母様が」


「はい。父が亡くなってからずっと床にせっていたのですが、一昨日息を引き取りました」


「そう……ですか、お母様が」


「ええ、姉さんの事、ずっと心配してましたよ」


「そうなのですか」


「はい。それと今日は会ってもらいたい人が居るのですが、呼んでもいいですか?」


 彼の顔は昔見た、苦渋の選択をする時のお父様の顔に似ていた。


「……はい」


「では」


 そういって彼は携帯電話を取り出し、誰かに連絡していた。


「ああ、入ってくれ」


 ガチャと扉の開く音がした。


「失礼します」


 利発そうな男性がそこには立っていた、そして私には彼が誰なのか一目で分かった。


「は、じめ?」


 彼はゆっくりと微笑み、


「そうだよ、お母さん」


 と短く言った。

 私は無意識に駆けだし、そして彼を抱きしめ泣いた。


「久しぶりだね、母さん」


 彼の声もどこか鼻声だった。


「姉さん、紹介したいのははじめだけじゃないんだ」


 泣いてる私の肩に手を置いて、玄関の向こうを指差す。

 そこにはスラッとした若い女性が立っていた。


「初めまして、お母さん。はじめの妻のアリサです」


 そう言った。


「実はね、母さん。俺、結婚したんだよ」


「そう……そうなの」


 その後、何故今訪ねてきたのかを弟に聞いてみた所、なんでもお父様とお母様の遺言だったと言っていた。

 それと、今の白鳥家は昔ほど裕福ではないが食べるに困らない程度ではあるそうだ。


「また、会いに来ます」


 別れ際にはじめはそう言った。

 弟ははじめに私と一緒に住んでもいいんだぞと言ってくれたけど彼は、白鳥の家を継ぎたい意志があるそうで残ると言っていた。

 少し寂しかったが私はその意思を尊重した。


「ええ、またね」


 そう言って彼等は帰って行った。

 

「浩二さん似のいい男性に成長してたわね」


 そう言った。



 彼とここに越してきた時に、私はある約束をした。

 

「ここに今住んでいるのは、僕達夫婦だけだろ?」


「ええ」


「ここを私達二人で綺麗な庭にしないか?」


 そう約束した日から私は掃除を、彼は花壇の花の世話を日課にしていた。

 それは今でも続いている。


 彼が亡くなってからは花の世話も私の日課になったけど、彼がどう世話をすればいいか教えてくれるから難しくは無かった。


「今年もひまわりが綺麗に咲きましたね」


 そう話す。


「あぁ、ひまわりを見ていると和子を見ている様な気になるんだ。だから一番好きなんだよ」


「ありがとう、浩二さん」


 彼は死んだ今でも私の隣に居てくれる。

彼がが私の妄想なのかどうかは分からないけど彼は私が亡くなるまでの間、そしてそれから先も一緒だと分かっていた。


「来年も見ましょうね」


「もちろんだよ」

どうでしたでしょうか?

あまり女性を主人公にしないのと、なおかつ年配で恋愛という初めて尽くしだったので色々気にしながら書きました。


ホラー企画でこういうジャンルなのは何ですがきちんととり憑かれているので、たまに見るホラーの感動物だと思って頂ければと思います。


ちなみにあのお守りですが、本当に願いが叶うお守りという設定でして、浩二さんが亡くなってから霊としてとり憑いたのもお守りの能力で、家の没落と父の危篤もその影響です。

一種の呪いだったりします。


ここまで読んで頂きまして、ありがとうございます。

もし良ければ、評価、感想、ブクマ等々お願いします。

本当にありがとうございました。

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