出会いは必然的
昔趣味で書いていた小説を載せています。
文章、言葉、内容の変更を少しずつ変えていきます。
寒い夜。僕は泣いていた。
周りは、人が住んていたとは想像できない程に朽ち果てた家が。
何でこんな所に居るのかは覚えていない。それよりも僕は誰なのか、思い出せない。
忘れているだけないのか、それとも・・・・。
周りの音で目を覚ます。
薄明かりが部屋に入り、朝を知らせる。時計を見ると6:43を示している。
大体起きる頃だが、あの夢のせいでなのか身体が重い。
またあの嫌な夢。独りぼっちで廃家に取り残され、泣いている。
ふっと目を閉じ、何も考えずにまた眠りにつこうとすると頭に温かいものが触れる。
目を開けると、さっきまでの嫌なものが無くなるような気分になる。
「こら、目を覚ましたのなら起きなさい。いい歳して二度寝なんて贅沢だよ」
「智春だってたまにしてるじゃん」
「自分は朝が弱いから仕方ないんだよ」
「うわ、いい大人が言い訳していいの?」
あぁ、いつもと同じ朝だ。
下に降りると見覚えのある顔が見えてくる。
寝ぼけ気味の男の子に「おはよー」と声を掛ける。
「華っちゃん、今日は俺の方が早かったね。あの話忘れんなよ!」
「バーカ、あの話は「誰よりも早く起きる」こと。翔、立京に勝てた?」
「立京に勝てるわけ無いだろ!?出来ない事を賭けるとかキッタネー!」
「じゃぁ、あの話は無し」と捨て台詞のように言い残し洗面所に向かうと先客が居た。
「お?おはようさん」
「おじさん。ヒゲ剃るならさ、ご飯後にしてよ。ヒゲ剃るの下手で遅いんだからさ。いい加減、電動買えば?」
「手入れとかめんどくさいだろ?ズボラな俺にはこれが一・・・って!」喋っていると間違えて皮膚まで切ってしまったようだ。
「はぁー・・・不器用」
「華月が話しかけるからだろ!」
顔を洗い、ダイニングに戻ると階段から誰かが降りてくる音がした。するといきなり誰かが抱きつく。
「零、まだ寝ぼけてる?」
「寝ぼけてないよ、んー、やっぱり人肌に触れると安心する」と顔を擦り始める。
「朝から暑苦しいなぁ、まったくこれだからシスコンは」と椅子に座っていた翔が絡んでくる。
「大変!なら、あたしが冷ましてあげようか?」と零は手を上げる。
「お前の冷やすは、凍らせるだろうが!殺す気だろ!?」
「あんたの火で溶かすことできるでしょ?あ、でも制御出来ないんじゃ自分も危ないか?」とふざけていると台所から大きな音がした。
駆け寄ると智春が器具を落としてしまったようだ。
「智春!大丈夫!?怪我は?」思わず心配になり智春を見回す。
「大丈夫。だた重ねて置いてあった物が崩れただけだから。それより落ちた道具洗ってもらえるかな?」
落ちた調理器具を拾い、それらを流していると誰かが帰ってきた。
「ただいま」
「お帰り、立京。どうだった?」
「問題ない。智春が心配する事は起きないとは思うが、念のため昼も少し見回してみる」
「悪いね、疲れてないかい?」
「大丈夫だ」そう言うと立京は洗面所に向かって行った。
「何かあったのか?」
「ここ最近、近所で放火が何件もあってね。まだ犯人が捕まってないみたいで、悪戯で済むなら良いんだけど。万が一大きな事故になりかねないから立京に見回りを頼んだんだ」
「ふーん」そのとき僕は少しジェラシーを感じた。
「ほら、ご飯の用意して」
各自食事に必要な物を並べ、食事の準備をする。今日は和食。
魚、味噌汁、漬物、おかずが何品か。あと白いご飯。
量はかなり多め。男が多いのもあるが、畑で結構穫れるのもある。
最近はじゃがいも、玉ねぎが並ぶことが多い。
自分の椅子に座るとテレビのニュースが耳に入る。
『ここ最近になってから、超能力を使う人たちが増えていると専門家の中で話題になっているようですが、どうなんでしょう』
『突然、超能力が使えるようになった、以前から使えるなど人それぞれですが、あの事件から少しづつ増えてきているようですね』
そう、あの事件。僕がまだ3歳、20年前の事。
とある会社に勤めていた女性が何者かによって殺された。
死んでいたのを発見したのは同じ会社で働いている社員で、死後8時間以上経過していることが分かった。
最初はその第一発見者が怪しいとするが、証拠が見つからず、アリバイもあった為別の犯人を探す事になるが、何も進展が無いまま現在に至る。迷宮入りの事件だ。
その上、その死体は奇妙な殺され方をしていた。
首元には噛まれたような痕があり、体内の血液が致死量になるくらいまで無くなっていた。
吸血鬼の仕業かなどと噂されていた。架空の生物の仕業だと囁かれている中、警察は断固否定している。専門家も吸血鬼に見せかけた殺しだと言う。
だが傷は首元にしか無く、それ以外に外傷は見られなかった。死体の周りにも血液が流れたような痕跡は無く、大量の血液をどうやって抜き取り、殺したのか。
その事件と、不思議な能力が目覚めたかはどう関係しているのかは分からないが、それから増え続けている事は間違いない。
最初に能力者が現れたのは刑務所の囚人の一人であった。
死刑判決が確実だと言われていた男。何人もの無関係の女性を切り刻み、興奮と快感を味わっていた奇人。その死刑囚が奇妙な能力を使い、脱走したことが始まりだったそうだ。
足取りは掴めず、当時全警察が24時間警備を強化し探していたが、その他にも別の能力を持った者達が現れ、あちこちで犯罪が増えていった。
死刑囚の捜索よりも増えた能力犯罪者を優先する形になり、段々と死刑囚の話題が薄れて行った。
未だにその死刑囚は捕まっていないどころか、今どこにいるか生きているかも分からないままだ。
「その能力者の中にも犯罪を食い止めようとする会社が何社もありますが、今日はその中でも新しく設立した「ゲネシス」の皆さんがお越し下さいました!」
拍手と共に現れたのは爽やかな、アイドルのような人であった。
「若くして「ゲネシス」の社長であり、自らも犯罪者を捕まえるため活躍されております「雨柱 晃」さんです」
爽やかな笑顔で返すと「私たち能力者は、自分の利益だけに力を使うため生まれてきたわけではないです。この能力を有効に使い、そして皆さんの安全・未来の為に私たちがいるのです。能力者と人と共存できる世界を創るために私たち「ゲネシス」がいるのです。今後とも私たち「ゲネシス」をよろしくお願いします。個人的なご相談も受けております。とはいっても、能力に関係する相談に限ります」と政治家のように理想論ばかり並べ、自分の会社の宣伝をしている。
顔は綺麗だが、頭の方は汚いように思える。大体テレビに出る人は胡散臭くて好きではない。
能力者があちこちに現れ、犯罪に手を出す者が増る一方、警察だけでは手に負えなくなり、ある方法を思いついた。
国で認められた能力者達が集まり、会社を設立し、犯罪者を捕まえると、国に貢献したとみなされ、その会社に報酬が貰えるのである。
その方法を取り入れたところ、あっという間に能力者による犯罪は激減した。
目には目を、歯には歯を、という具合だ。
会社に所属しないで個人で取り締まっている者もいるが、半分は遊びでやっている者もばかりだ。
僕は智春に誘われて「ファミリア」に入った。よく覚えてないけど、小さい頃に智春が現れて僕を引き取ってくれて育ててくれた、父親のような存在。
どこか抜けてるのだけど、まぁそこが良いと言ったら良いところなんだけど。
家族が居ない僕にとってこの「ファミリア」は僕の家そのものだ。
国に貢献して家計を支えている。特に僕と立京の二人だ。智春は「ファミリア」の管理、智春の幼馴染の護おじさんは、時々出掛けて帰ってくるだけ。何しに行ってるかは聞かない。聞いてもどうせはぐらかされるから。まぁ、たまには仕事を持ってきてくれるけど、あまり金にならない。煙草くさいのを何とかして欲しいと常々思う。
零と翔はまだ学生。この二人も身内が居ない。零は北国出身で、わざわざこの会社に入るために来たそうだ。その時の頃は覚えてる。服は汚れて、痩せ干せて今にも倒れそうな雰囲気だった。詳しい事情は聞かなかった。能力者の大体が批難されていた頃だった為、見放されるような人たちが後を絶たなかった。
零もきっと言えないようなことがあったのだろう。
翔は護おじさんが連れて来た男の子。今はすごい元気だけど、昔は無愛想で無口な子だった。護おじさんはそんな翔を我が子のように接し、時々喧嘩みたいな事をして家出をよくしてた。でもやっと此処にも慣れてきて、年の近い零も居たからかもしれないけど、明るい今の翔になった。
この二人とは5年くらいの付き合いだけど、立京とは10年くらいだ。
「ご馳走様でした」と自分の食器を下げ、出かける用意を始める。
後を追い「放火魔を探しに行くのか?」と問いかける。
「華月には関係ない。これは俺が頼まれた仕事だ」
「仕事って言っても智春に頼まれただけだろ?手伝ってあげてもいいけど?」
「いらない。俺だけで十分だ。だかが放火している奴を見つけて注意するだけだ」
「注意で済むなら警察に頼めよ。僕たち能力者がわざわざやることじゃない」
「家の近くだからやるんだ。もしもの事が起きたらじゃあ遅い」
その時の立京の顔、酷く悲しそうな顔をしていた気がした。
「・・・その放火魔が能力者の可能性がある、僕も行く」
「だから俺一人で・・・」
「行くって言っても別行動!立京の後をついて行かない。だから邪魔にはならない」
「あのな、そういう事じゃなくて・・・!」
「あのー」と声を掛けたのは零だった。
「出来れば廊下の真ん中で言い争わないで欲しいんだけど・・・」
「そうそう、朝から痴話喧嘩したって犬も食わないぞ」と護がずいっと押し退けながら玄関へ向かう。
「おじさんどこ行くの?」
「秘密ー」とさっさと出て行ってしまう。
「あたしも学校行ってくるね。華っちゃん、無理しないでね」
「大丈夫だって、いいから早く行っておいで」
零も出掛けると、その後を急いで追いかける姿が通り過ぎる。
「人がトイレ行ってる間に行くか普通!?」
「翔、零が待ってくれるはずないだろ?普段一緒になんて行ってないし」
「一声かけるとか、さー・・・。まぁいいや、自慢の脚で走れば追い越せるし!」と行き良いよく家を後にした。
家が静かになり、一瞬気まずい空気が漂う。立京は僕に対して何を言い出すのか、どんな行動をするのか待っているとひょこっと智春が近寄ってくる。
「さぁーて、自分の仕事をするとしますか。今日は家を綺麗にしないといけないなぁ・・・事務所も最近手をつけてないし、忙しくなるよー」と言いながら一階へ降りて行ってしまった。
何だか話が途切れてしまい、どうでも良くなってきてしまった。
「まぁいいや、とにかく立京の邪魔はしないよ」と言い残し自分の部屋に戻る。
とり残された立京は髪を欠きながら外へ行った。
ベットに横になり一息つき、時計に目をやる。最近になってから時間が短いように感じる。
気のせいだと思うが、ふと時計を見るとあっという間に時間が過ぎ、そしていつの間にか明日になっているのではないか。目を閉じている間にも小一時間過ぎていそうで怖い。そんなことは無いと分かっている。
だが、時々不安になる。あーしていれば、こーしていればとか。後悔も最近多い。
って、ベットに横になると余計な事を考えてしまいがちだ。
体を起こそうとするとノックする音がする。
「どうぞ」
「あ、華月予定とかあった?」智春が顔だけ見せこちらの様子をみている。
「有るように見える?」
「見えないねー、ちょっと頼みたい事があるんだけど大丈夫?」
「内容による」と言うと智春は紙を差し出してきた。
少し歩いた所にスーパーがある。品揃えはまぁまぁだが、値段が安いので良く利用している。今の時間帯はお年寄りの人たちばかりだ。その中で僕は智春に頼まれた食材を探している。
今日の晩御飯に使う物と、常備品の調達。買い物をするのは嫌いではない。色んな物を目にすると興味が湧いてくる。
「えーと、次は・・・」
ふと辺りを見回すと、香辛料コーナーで難しい顔で商品を睨みつけている人に視線を向ける。別におかしい光景では無いのだが、目を奪われてしまっていた。
髪はセミロングくらいか、それより短い。スーツを着ているのだが、あまり見かけた事のないセンスの持ち主のようだ。
視線に気づいたのか視線が合ってしまう。ゆっくりと視線を外し、わざと目ていないフリをしようとすると「あ!ちょっと!」と声を掛けられてしまった。
無視しようかと思ったけれど、それもそれで何だか悪い気がして仕方なくその人の方に向かう。
「どうかしたんですか?」と近づいてみると「オトコ?」思わず声に出してしまった。
「え?」
するとその人はニコッと笑い、僕の顔をじっと見て。
「よく分かったね。髪が長いから女として見られがちなんだよね。結局最後は声でバレちゃうんだけどね。でも見ただけで分かるなんて、いい目をしてるわね」
どういう意味の良いなのだろうか。
「急に声かけちゃってごめんね。私、天地×(あまちかける)。天気の天に地球の地でね、×って計算で使う時の記号ね。乗算よ。何でこんな名前なのかは分からないけど面白いでしょ?」
「は、はぁ・・・」よく喋る人だな。それよりもオネエって初めて見たかも。
顔も整っているし、目もおっきい。普通の女よりもきれ・・・。って何を考えてるんだ僕は!
「でさ、これなんだけど」と差し出された物はあまり見た事の無いものだった。
「えっと・・・?これが?」
「何に使う物なのかなぁ〜って思って」
普通店員に聞けば良いのに、どうして僕に話しかけたのだろう。
当然僕にも分からないので「さぁ・・・」としか答えられなかった。
するとタイミングよく店員の人が近くを通り掛り「あの、これって何に使うものなんですか?」と問いかけてみる。
「あぁ、これは容器の後ろに何に使うか書いてありますよ」
容器の裏を見てみると確かに何に使う物か書いてあった。手に取っていたものはお菓子に使うもののようだ。
店員さんに礼を言うと一つ一つ手に取り、何に使う物かを確かめながら何個かをカゴに入れていった。
「お菓子作るんですか?」と何気なく問いかける。
「うん、食べるのも好きだけど、作るのも好きなの。周りからは『作るなら一人分にしろ』ってよく言われるのよ。でも、お菓子作る時って大抵3〜4人分じゃない?それを一人で食べるなんて無理よ。まぁ食べても良いけど、太っちゃうじゃない?誰かと一緒に食べてこそその美味しさが分かると思うのよ。でも知り合い甘い物苦手な人ばっかりでね・・・」と長々続く。
本当にこの人喋るの好きなのかな。
「あなた、甘いもの好き?」
「え?あ、はい」
「じゃぁ今度作ってくるから食べてくれる?」
「え!?」
「ほら、作っても食べてくれる人周りに居なくてさ。食べてくれる人が居るなら作り甲斐があるし!」すごくキラキラした眼差しで見つめられる。
「は、はい」あんな目で見られたら断れないじゃないか・・・。まぁ悪い話じゃないから嫌では無い。
結局、天地さんとあれから仲良くなって一緒に買い物をした。天地さんはお菓子を食材をこれでもかってくらい買い、僕は頼まれた物を。
話して分かったけど、あの人何処かの管理会社の社員のようだ。珍しいスーツは趣味だそうで、特注で頼んでいるのだそう。
家族とは離れて暮らし、今は同僚の人と暮らしていると自分から話していた。
結構自分の事を話すのが好きなようで、だがその話の中身は自慢とか悪口とかは無く、自分がどういう事が好きとかそういうことばかり。
僕がどういう人間か聞こうとも、聞き出そうともしない。不思議な人だ。
逆に僕は自分の事を話すことはあまりしない。というよりも他人に気軽に話す事はしない。
どんな人物なのか分からない以上下手に自分のことは言わない。
でもこの人は見た目は怪しいが、何故か不思議と僕の中では信頼できる一人の人になりつつあった。
この人になら僕の事を話しても安心のような気がしてきた。だが、その話をするのはまだ・・・先の話だった。
歩いているとどこからか女性の悲鳴が聞こえてきた。少し進んだ先に慌てて携帯を取り出す女性がいた。
「どうしたんですか!?」声を掛けると女性は携帯を耳に当てながら「あ、ゴミ・・・ゴミに火が・・・!」と指した先にはゴミ袋が燃え始めていた。
もしかして朝話していた放火魔の仕業かと頭を過りつつ、今はまず火をどうにか消さなければ!そう思い立ち上着を脱ぎ、火を消そうとゴミに近づこうとすると、後ろから誰かに引かれた。
「っ!立京!?」まさか顔見知りの相手に会うとは思っていなく少し呆気にとられていると、手に持っていた服を火に向けて思いっきり降り被せ、それを何度かしているうちに火は段々小さくなっていき、最後は足で踏み消した。
「どうして立京がここに?」
「どうもこうも、俺は放火魔を捜していたんだから近所を歩いていて当たり前だ。と言うより、お前が何でここに居るのかが一番不思議なんだが・・・その人は誰だ?」
僕の後ろで、自分のと僕の荷物を持って立っている天地さんがいた。
火を消す事で頭いっぱいになっていたので荷物と天地さんの事を忘れていた。
「あ、えっと・・・さっき買い物している時に知り合った天地さん」
「この人はお兄さん?弟さん?」と耳元で小さく問いかけてきた。
「こいつとは血は繋がって無いですよ」と小声で話していた内容が聞こえていたのか立京が答える。
「あら、そうなの。何だか二人を見てると兄妹に見えちゃってね。仲が良いんだ」
「まぁ、悪くは無いですけど」
「おい」と立京が両頬を摘むようにこちらに顔を向けた。
「にゃぬよぉ!」頬を摘まれているせいで上手く話せない。
「なんだあの人、女の姿をしているが臭いが男みたいだぞ」
「みたいじゃなくて男の人だよ」
そう言うと天地さんの顔を二度見して「お前より女っぽいのにな」とため息まじりに言った。手を挙げてしまおうかと躊躇していると天地さんの笑い声が聞こえた。
「はははは、本当に仲良しね。羨ましい」
「羨ましい?」
「そうやって話せる人が居て良いなぁーって」
「確かに冗談を言えるような人が居れば・・・」
「俺はいつも本気で言ってるけど」
本当にこいつは・・・!くそ生意気で可愛く無い!まぁ、可愛くても嫌だけど。
「君は私の知り合いに似ているね。雰囲気と言うか喋り方も似てるんだけどね」
「ひねくれ者ですね」
「そいつがだろ」
「すみません、ここで放火があったと連絡があったのですが」と警察の人が小走りで向かって来た。先ほど携帯を持っていた女性が連絡したのだろう。
「もう鎮火しました。多分いつもの放火魔によるものだと思います」と冷静に状況を説明すると詳しい話をする為立京は警察と話し合っていると天地さんが「はい」と荷物を手渡して来た。
「有り難う御座います」
「ここ最近多いの?放火」
「そうみたいです。大きな火事にはなってないみたいですけど、なってからじゃ遅いって言って立京はその放火魔を捜しているんです」
「正義感が強いのね。普通なら警察とかに任せるのに」
「・・・」
「どうしたの?」
「いえ、何でも・・・」
その放火魔が普通の人間の仕業なら・・・と思った。
「そろそろ私戻らないと。付き合わせごめんなさいね、華月ちゃん」
「いえ、僕の方こそ色々巻き込んじゃって」
「今度お菓子持って来るわね。立京ちゃんも食べてくれるかな?」
「ああ見えて甘いもの好きですからきっと食べてくれますよ」
「都合が良い日とかある?」
「僕はいつでも大丈夫です」
「じゃあ、私が都合の良い日に連絡するけど無理に合わせなくてもいいからね」
「はい」
それを告げると天地さんは歩いて来た道をゆっくりとした足取りで帰っていった。
「ただいま」
「お帰り、あれ?立京も一緒だったの?」
「途中で会って連れて帰って来た」
「僕は犬かなにかか?」
「あ!買い物ありがとうね。コロッケにしようと思ってたんだけどひき肉なくてさ。ジャガイモは腐る程あるんだけど」
今日の晩ご飯を楽しそうに説明し始めた智春を聞き流しながら荷物を冷蔵庫にしまった。
冷蔵庫の中は確かに野菜ばっかり。室温で保存している野菜を合わせると凄い量だ。
今度は動物でも飼えば自給自足が出来るのではと思っているが、住宅地にそこまで作るわけにはいかないと薄々気づいている。
「あれ・・・?」袋に買った覚えの無い物が入っていた。
「もしかして天地さんが間違えて入れちゃったのか」そう思った僕は天地さんにメールをしてみた。返信はきっとすぐには返って来ない。一応それは無くさない為自分の部屋に置いておくことにした。
部屋を出ようとドアを開けようとすると二人の声が聞こえた。
「智春。放火魔の事なんだが、あれはきっと能力者の仕業だ。悪い予想が当たったな」
「そうか・・・。それじゃあ警察には任せるのは出来ないね。警察には自分が連絡しておくよ。立京は」
「見回りを強化しておく。晩ご飯はいらない」
「食べてから行けばいいのに。お腹空いてるでしょ?」
「半日食べてなくても死にはしない。お腹空いたら何か買って食べる」
そう言って玄関のドアを開け、外へ出て行く音がした後に部屋を出た。
立京が何をそんなに焦ってるのか僕には分かる。家族を無くした事を思い出してしまっているのだと思う。
きっと今の立京は誰の言葉も耳に入らない。放火魔を捕まえなければきっと安心できない。自分も。
晩ご飯の時間になっても、立京が返って来る事は無かった。
大きなマンションの屋上に一人の男が立ち、明かりがつき始める街を眺めている。
車の走る音。うるさく鳴り響くサイレン。大きな液晶に映る映像。
この街は美しい様に見えるが、本当は汚れて汚染されている。人が生きやすい様に変わり自然を排除し続けている。それは仕方ないと人間は都合の良い考えで自分達の領地を広げていっている。
この世界で一番危険な生物こそ人間だ。人間がこの星を壊している生物。貪り、破壊し、汚している。生きていく為だと解釈し何しても良いと考えている勘違い生物。
「それも俺と一緒か、汚い人間なのは」
「どうしたの?−(ひき)。また独り言?風邪引くよ、そろそろ中に入ろうよ」
「×(かける)。その喋り方止めろと言ったはずだ」
「えー。結構こっちの方が楽なんだけど。しょうがないなー。−(ひき)の前でこの喋り方やめるね。で、何考えてた?」
トーンが低くなり、本来の声に変わった。
「この景色を見てるといつも考えてしまう。俺たちもこの汚い世界で生まれて、育って、生きているのかと。この世界の人間と同じで汚れてしまって星を汚しているのかと思うと」
「苦しい?お前は相変わらず自意識過剰。お前一人何かしたらって世界は変わるわけないだろうに。もう少し楽に生きれば?」
「お前は逆に楽天すぎないか?」
「人生楽しんだもん勝ちだ。うじうじ悩んでたって苦しいし、悲しくなるだけ。だったら楽しく楽に生きた方が利口じゃないか?」
「俺はきっとその生き方は出来ない」
×(かける)はゆっくり近づいていき後ろから抱きしめた。
「家族の事か?自分から捨てたのにな。後悔か?未練か?お前はそういうのは気にしない奴だと思ってたけど、結構繊細なんだな」
「そんなんじゃない。俺はこの星を綺麗にする為に生きている。楽しいとかそんな事、感じられない」
−(ひき)から離れ「必死だね。まぁ、俺は俺なりに楽しみながら生きるよ。今日は珍しく気になる子にも会えたし」とドアの方へ歩いていく。
「普通の人間か?」−(ひき)は振り向き×(かける)を見つめる。
「そうだと思う?」ニコッと笑い屋上を後にした。
時間は20時を周り皆テレビに夢中になっている間、僕は立京を考えていた。
帰って来ない事は珍しく無い事だが、今回は違う。能力者相手だ。立京が強いのは分かっているが、一人で無理をするのではと嫌な事ばかり考えてしまう。
僕の悪い癖だ。悪い事を考えてしまうとなかなか頭から離れなくなる。
忘れようとするけど、そこは器用じゃない。
「ねぇ!この芸人面白いよ華っちゃん!」突然話し掛けられてビクッと体が反応した。
「そ、そうだね」
「そうか?何か一発だけっぽいぞ?今だけで後々消えてっちゃう系だな」
「翔よりは面白いよ」
「俺はお笑い芸人じゃねーから。人を笑わせるなんて誰でも出来るし」
「じゃああたしを笑わせてよ」
「は?お前って笑うの?」
あっちはあっちで賑やかで微笑ましい。家族ってこんな感じなのかな。立京は僕たちの事家族だと思ってるのかな。無理してつき合っているのでは・・・あぁ!何でそんな事ばかり考えるんだ僕!自分が何でそんな事気にしてるんだ。
僕が悩み抱えている所に智春がコーヒーを差し出してきた。
「智春?」
「心配なんでしょ?立京の事」
「・・・心配と言うより、立京今寂しくないのかなって」
「立京は表情を表に出さないからね。分かりにく子だけど」
「だけど?」
「寂しく無い人間なんて居ない。自分はそう思うけどね」
「・・・そう、だよな」頭の中が軽くなった気がした。
「僕、少し出かける」体が思わず立ち上がる。
「あ、じゃあこれ」智春が渡したのはアルミホイルに包まれたおにぎりだった。
「これ渡してあげて、きっとお腹空いてると思うし」
「智春って見かけによらず、策略家だよね」
「機転がきくって言って欲しいな」ニコッと笑いながら飲み物も手渡した。
人気の少ない所を偵察しているがこれといって変わった様子は見られない。
いつどこで放火をするのかは放火魔にしか分からない。放火をする前に確保したいところだ。
いや、もしかすると人気の無い所を狙っているのではなく、燃えるものを探して燃やそうとしているのでは。
色んな想定が出てくるが、確信は無い。仕方ない。
地面に四つん這いになると体が段々小さくなっていくと、良く見かける犬の姿になっていた。鼻の効くモノになればわずかな火の臭いなどに敏感に反応できる。それに素早く動ける。
この時間に人の姿で歩いているのも怪しいが、犬の姿なら自由に歩いていても何も言われない。この姿が今一番有効だ。
すると何処からか誰かの足音が聞こえてくる。これは女性のようだが・・・。この時間に何故。
足音の方を覗いてみると見覚えのある奴が歩いていた。
「何してるんだ、お前は」
「あ、立京。何で犬なんかになって・・・」
「質問に答えろ」
「一人じゃ心細いじゃないかと思って。あと夜食を差し入れ。感謝しろ」
「誰もそんな事頼んで無いだろ」
本当にこいつは素直じゃないと言うか、表情を表に出さない奴だ。
「智春が心配してた。ほら、おにぎり」
「だから、腹なんか!」と言った後に小さな音がなった。僕ではない。
「・・・・」
「・・・・」
人の姿に戻った立京は公園のブランコに座りながらおにぎりを食べている。
僕はすぐそばにあるスプリング遊具で揺れていた。無言で食べているが、昔っから智春のおにぎりは大好物の一つだ。
おにぎりを食べ終わり、飲み物を飲み干すと一息吐いた。
「で、お前は何で此処に来た。これを届けに来ただけじゃないだろ」
「・・・立京が寂しがってるんじゃないかと思ったから」
「はあ?何それ。誰も寂しいとか思ってないし。誰かと一緒にいるよりも自分の時間を過ごす方が俺は良いけどな」
「時間はさ、戻って来ないんだ。後悔しても遅いんだ。だから僕は思った事はなるべくするようにする」
「何言ってんだお前は」
「家でさ、皆楽しそうに話してるのにさ、立京が居なくてふと思ったんだ。立京が居ないと僕は楽しくないって」
「・・・・」
立京が家に居なくても寂しく無いし、皆が居るから大丈夫だ。そう思ってた。でも違った。皆居なきゃ、立京も居ないと駄目なんだと。
家族が一人でも欠けてしまうと寂しいんだ。
「俺が居ない事なんてしょっちゅうだろ。出かける度に子供みたいな事言われるのは迷惑だ」
「ずっと一緒は無理だって分かってる。でも家族、家族だよな・・・僕たち。急に居なくなったり、帰って来ないとかないよな」
他人から見ると僕たちは家族では無い。ただの他人の集団としか見えない。
皆似てないし、血も繋がっていない。ただ住んでいる所が一緒。集団生活をしているにしか見えてない。
でも、それでも僕は家族だと思ってる。皆がそう思っているかは分からない。だから、それがいつ消えてしまうのか、形だけのモノはすぐに壊れるように・・・。
「俺も帰る場所はあそこにしかない。だから俺は帰る場所を守る」
「それを何で一人でしようとするわけ?」
「何度も言うけど俺一人で十分だ。捕まえるくらいなら」
「相手がどんな奴か分からないのにか?クリミナルかもしれないのに」
「まだ分からない。犯罪はまだ犯してない」
能力者を二つに分けている。能力者で犯罪を犯していない者を”ハークライム”、その逆を”クリミナル”と呼んでいる。
そもそも誰がそんな事を決めたのかは誰にも分からない。気づいたらそう呼ばれていた。
「でも危険な事には変わらない。だろ?」
「はあー、危険だって分かっていてどうして首を突っ込む?」
「一人で危険な事をするより二人でする方が安全だろ?」
「安全ね・・・。逆に不安だ」
「どこがだよ!」
それを合図のように近くのゴミ捨て場から火の手が上がる。前に見た時よりも火の上がり方が激しい。
「火が!」
「近くに居るのか!?」そう言うと立京は姿を変え、犬になり辺りを探し回る。
僕は公園の辺りを見回していると不審な動きをする影を見た。
「立京!電灯の近くに・・・!」
「おい!そこを動くなお前!」電灯に駆け寄り、相手に噛み付こうとするが立京の動きが止まる。それを見て僕も目を疑った。
「あの時の、女性?」そう、そこにいたのは今日に出会ったあの女性。
ゴミが燃えているのを最初に発見し、携帯で通報しようとしていた女性だった。まさか。
「きゃあ!吃驚した・・・。犬が急に飛び出してくるなんて」
女性は驚いた表情をした後、僕の顔を見つめた。
「貴女は確か火を消そうとしてくれた・・・」
「どうして貴女が此処に?」
「どうしてって、近所で散歩をしたら可笑しいかしら?最近蒸し暑くなってきたし、気分転換もかねて・・・」
「にしては服装はあの時のままなんだな」
「え!?誰?どこから声が・・・」
「散歩だけなら普通私服か、ジャージとかかだ。だがあんたは今朝と同じスーツでそのヒールの高い靴のまま。散歩をしているようには見えないが」
喋っているのが犬だと気づくと驚いた様子で見つめた。
「い、犬が喋った!?」
「正直答えろ。お前、能力者なんだろ?俺は嗅ぎ分けられるんだよ」
すると驚いた顔から一変。彼女の顔は喜んでいるかの様にニコッと笑った。
「まさか貴方たちも能力者だとは思わなかったわ」
「放火をしていたのはお前だったのか?」立京は人間の姿に戻ると、女性は思い出したかのように指を鳴らす。
「ああ、火を消してくれた男の子。姿を変える事が出来るのね。面白い」
「そうなのか?」質問に答えない女性に少しイライラし始めている。
「まぁ落ち着いて聞いてよ。放火をしたくてしたんじゃないわ。勝手に使える様になったのよ」
「勝手に?」
「そう・・・。先週かしら、父が亡くなったのは。それからと言うもの何かを見つめていると、いきなりそれが発火するようになったの。最初は何か燃えるものを近くに置いていたのかと思った。でも違った。外に綺麗に咲いていた花を見ていたら、その花が急に燃えだしたの。最初は自分がおかしな幻覚に見舞わさせていると思った。でも、最近のニュースを見て思ったの。私も能力者になってしまったんだって」
この人もある意味被害者なのだろう。なりたくも無かった能力者になってしまい、その力を制御出来ないでいる。
周りの人間を困らせたく無いはず。きっと話し合えば何か良い方法が見つかるはず。
「でも、ある日。同じ能力者の人に会ったの。『貴女も能力を持ってしまったのだな』って。最初は変な人だと思ったけど、でもその人と会ってから能力がコントロールできる様になったの」
「コントロールが?」確か翔も能力を制御できないはずなのに、その能力者は女性に何をしたのだ。コントロールが出来る様になる能力とかか。
ぜひその人にあってみたいと思っていると、女性は何か遠くを見つめていた。
それに反応したのが立京だった。
「そこから離れろ!華月!!」その言葉が聞こえた瞬間。後ろにあった木が燃え、こちらの方へ倒れて来た。
避ける隙も無いまま、僕は木の下敷きになってしまった。
「華月!!」
「ごめんなさい。わざとでは無いのよ、無意識に木に視線を向けてしまって・・・。彼女、大丈夫かしら。でも木の下敷きになってしまったら軽傷では済まないわね」
「そうだね、僕じゃなかったらな」
「え?」
そこには無傷であるはずが無い姿の華月が立っていた。
「な、何で?直撃したはずじゃあ・・・」
「木を良く見てみな」
倒れた木を見てみると普通の力では折れるはずのない太さをした木が、見事に折れていた。
女性は思った、この女は力を操る能力者だと。この場を退けるのは難しいと悟った。
「僕たちは貴女をどうこうするつもりは無い。ただ、放火を止めて欲しいだけなんだ。一般の人を巻き込むのは貴女も本望ではないはずだ」
「そうよ、人を傷つけようとはしてない。ただ、私の能力は無意識に起こってしまうこと。だからその約束は出来ないわ」
「コントロールできるんじゃないのか」立京が気づかれない様に女性の後ろに回った。
「コントロールは出来る。でもね、感情が高まるとどうしても制御できないの。今みたいに」と言うとまた何かを見つめていた。
これ以上何かを燃やされるのは危険だと思った華月は女性に飛びかかろうとした。
しかし、女性はそれを狙っていたかのように鞄から何かを取り出し、華月にそれをかけた。
「うっ!」
「かけたのは発火しやすい液体よ。燃やされたく無かったらここは大人しく帰って。私も何もしないで帰るわ。分かった?」
「貴女は自分の能力をコントロール出来てない。そのままの生活を続けてるのは危険だ。警察に行けばなんとかしてくれるはず」
「見逃す気は無いって事ね」
「そうだね」
「じゃあ、仕方ないわ。綺麗に燃えて」それを言い終えるのと同時に華月が燃える。はずだった。
燃えない。燃えて良いはずなのに何故?
「何をしたの!?」
「何って、僕の能力を使っただけ」
「能力って・・・力を操るんじゃ・・・」
女性が戸惑っている間に華月は女性との距離を詰め、お腹に重い一撃を食らわせた。
「ぐぇ・・・あっ・・・!」苦痛で意識が飛びそうなギリギリを保っていた。
「本当は力任せに解決したくなかったんだけど、これ以上被害を増やしたく無いんだ」
「くぅ・・・はぁ!はぁ・・・」
「お前って容赦ない時は本当に容赦無いよな」ゆっくり近づいて女性の意識を確認する。お腹を抱え、苦しみ悶えている。立ち上がるのは無理だ。
そう判断するとポケットから携帯を取り出し、どこかに連絡をする。
「あ、もしもし。ファミリアの立京です。はい。刑事局の能力者対策部の本真さんを・・・」
能力者を管理、指導、取締をしている能力者対策部の取締役の本真さんと言う人に電話をしているようだ。
能力者を警察に引き渡す時は必ず連絡をしなければならない。能力者は何をするか分からない為、特殊な車で警察署まで運ばれ、特殊な所へ収監されるのだ。ずっとそこで過ごすわけではない。多分。
「はい。お願いします」と携帯をしまい、こちらに歩いて来た。
「本真さん今留守にしてるらしい。その代わりにアイツが来るみたいだ」
「アイツ?」
「あの能天気野郎だ」
「もしかしてみっちーの事?」
「良い歳してまだ・・・あだ名みっちーかよ」
道葉修市。本真さんの部下にあたる。少し抜けている所があるが、身体能力は高く、格闘技を得意としている。女性に免疫が無く、揶揄われているのをよく見る。悪い人では無いのは確か。
しばらくすると一台の車がやってきた。普通のパトカーなら上が白、下は黒が普通だが、能力者用は上が白、下が赤になっている。危険性を表しているそうだ。
車から一人の男性が降りてこちらへ駆け寄って来た。見覚えのある姿だ。
「いやーナビ使っても道に迷う時は迷うね。ここ住宅街だから結構複雑で・・・」
「前置きが長いな、いつも。さっさと能力者を確保してくれ」
「能力者って、そこの倒れている女性の事かい?あ、華月ちゃん!」
女性の側でしゃがんでいた僕に気づき駆け足で寄って来た。
「みっちー。悪い、急に呼んじゃって」
「これが仕事だから。気にしないで」
車のドアが閉まる音がし、そちらを見てみると見覚えの無い人が立っていた。
「あの人は?」
「あぁ、新しく配属された織田さんって言うんだ。あの人も能力者なんだ」
「能力者・・・。良く本真さんが許したね」
本真さんは能力者を嫌っている。娘さんを殺されたと言う話を聞いた事はあった。自分の周りに能力者を近づけたがらない人だったはず。
「本当は本真さんも本心じゃなかったんだけど、特別捜査員って言う形で許可したみたいだよ」
「特別捜査員?」
「それは私から説明しますよ。クリミナルさん」
そこにいたのは背の高いほっそりした男性がいた。見た目は理数系の教師が似合うような優秀匂がする。
「僕たちはハークライムだ」
「とりあえず女性を車に運びましょうか」そう言うと織田は女性の頭に手を乗せると、さっきまで苦しんでいた声が聞こえなくなる。
「何を?」
「意識を少し飛ばしました。暴れるのも困りますし」女性を軽々に抱きかかえ、車まで運んだ。
言葉は敬語を使ってはいるが、内心はきっと皆を見下している。そう、さっきの会話で何となく解釈した。
僕はあいつが嫌いだ。いや、初めて会った人にそれは失礼か。苦手な人にしておこう。
車に女性を乗せた後、一息つきタバコを吸い始めようとした。
「僕、タバコ嫌いなんだけど」
「おっと、失礼。一仕事終えたらタバコを吸う様に習慣付けているもので」タバコを箱に戻すと自分の事を喋りだす。
「一応特別捜査員と言う名前で能力者を監視している者なのですが、本部にはあまり顔を出さない様にしています」
「本真さんがいるから?」僕の話を聞かなかった様に話を進める。
「なるべく能力者側に付く様にしています。監視もしやすいし、何かあったらすぐに対処できる。素晴らしい役職だ。それに」
この人は少し変わっている人なのかもしれない。危険な意味で。
「はあ、思ったより呆気ない終わりで逆に疲れた。俺は帰る」大きな欠伸をし、ゆっくりと公園から去って行く。
「じゃあ、後の事は頼むね。みっちー」
「うん、彼女が変な事をしなければね」
「変な事言ってないで行くぞ。道葉」急に敬語では無く、タメ口になった事に僕は敏感に反応してしまう。
「あ!報酬は女性の意識が戻って動機が分かってから振り込むよ」そういうと道葉は車に急いで乗り込んだ。
何か視線を感じると思っているとこちらをじっと織田が見ていた。
「な、なんですか」
「いや、最初は男の人かと思っていたのですが、女性だったんですね」と捨て台詞のように吐いて車へ乗り込みさっさと行ってしまった。
言わなくても良いような事を何故言ったのか分からないがはっきりした事がある。
必ずアイツに痛い目をみせてやると言うことだ。
「ただいま」家に着くと同時に電話が鳴る。
「はい、真城です。はい。あぁ、今帰ってきたばかりで・・・。はい、変わりますね」と声が聞こえる。
「華月。警察から電話だよ」
「分かった。はい、変わりました」
『あ!華月ちゃん?こんなに早く連絡するとは思ってなかったけど、連絡は早い方が良いよね?』
電話の相手は先ほどの件についての事だとすぐに分かった。
「うん。で、彼女は?」
『車の中で目を覚まして混乱するかと思ってたんだけど、彼女冷静でさ。自分の状況を理解した後すぐに色々話してくれたよ。自分なりに力を抑えようとしてたみたいなんだけどね。逆に悪化していった結果、近くにあった燃えやすい物が燃えてしまったみたい。大きな事故にはなってないけれど、このまま彼女を放置しておくのは危ないと言う判断になって能力留置所に送ることになったんだ』
「そうなんだ、彼女には悪いけどそれが一番だね」
『で、報酬なんだけど。クリミナルでは無かったけれど、被害が起こる前に発見する事が出来たから5千円』
「はぁ!?ご、5千円!?中学生のお小遣いか!?」思わず受話器に力が入る。
『いや、僕に言われても困るよ!金額を決めてる機関に言ってよ』
私情で金額を支払う事が出来ないように、危険性・対処・状況など色々配慮しつつそれにあった金額を決める機関がある。
国で構成されている機関の為、変える事は難しい。
「僕たちの事、道具としか見てない奴らだもんな。貰えるだけでも良いと思えってか・・・」
『それは考えすぎじゃないかな?』
『おい、報告だけにどんだけ電話してんだ!』と受話器の遠くの方から聞き覚えのある声が聞こえた。
「あれ?本真さんいるんだ」
『うん、別件が終わって報告書を作ってるよ』
『ベラベラ喋ってる暇があるなら仕事終わってるんだよな!』と怒鳴った声が聞こえる。
『す、すみません!ごめん!切るね!』と言われ切られる。
受話器を戻し、ベランダに行くと風呂上がりでテレビを見ている立京がいた。
「あいつ何だって?」
「被害が出る前に確保できたから5千円だってさ」
「まぁ、そんなもんだろうな。お小遣い貰えて良かったな」
「僕は子供か」
「何?またクリミナル捕まえて給料入ったの?」と横から零が割り込んでくる。
「そ、でも大した金額じゃないよ。てかご飯はー?」
今帰ってきたばかりでお腹が限界に近い。
「今日は肉じゃかと、焼き魚!トモに教えてもらいながら作ったの!」
智春がキッチンから電子レンジで温めた肉じゃがを持ってきて「ほら、座って」と食事の準備をしていた。
この生活が僕にとって一番充実していて、すごく好きだ。
家の前に変な集団が引っ越してくるまでは。