始まりの唄3
▽市場
「で、三択問題だ」
少しボロボロになったラインが指を三本立てた。三択?そんなにも選択肢あったか?サトシは疑問に思ったが大人しくラインが喋るのを待った。
「では一。公園で野宿」
うんうん。一昨日も野宿だったもんな。納得。
「二。優しそうな人を見付けて泊めてもらう」
うむ、なるほど。たまに親切な人が泊めてくれたりするし。納得。
「三。広くて寝れそうなお家でも探して夜中に忍び込む」
「何でだあああああ!」
何故?!何故そこで、ヒカルの提案になった?!
「あからさまに三はおかしいだろぉおが!」
そう叫んだサトシは胸の前で、両手で何かを包むような格好をした。瞬間、サトシの瞳が金色に輝く。すると、両手の間から青白い光の玉が表れた。それは徐々に大きくなると、棒状へと変わる。そして、光は身の丈の合わない、大きな剣に姿を変え、光を失った。
「うおっと、危ね!」
サトシは大きな剣をしっかりと握り締め、振り回しながらラインに迫る。
「さ、サトシ!せめて、剣は仕舞え!」
「ええい、煩い!一遍死ね!」
ラインの制止などサトシは(普段から)聞く耳も持たない。その上、ヒカルは止めようとするどころか笑顔で眺めている。
「サトシ!一応、此処は、市場だぞ?!」
「――え?」
サトシは剣を下ろすと周囲を見渡した。様々な屋台が並んでいる所を見ると、此処はラインの言う通り市場らしい。人はまばらだが、さっきの騒ぎで市場の人達は皆、サトシ達の方を凝視していた。
「あ……、あ、あわわわわわっ!」
サアアアッと血の気が引く音が聴こえる。面倒を起こしたくないのに自分自ら起こしてしまった。サトシは慌てて剣を光に戻して消すと、逃げるように回れ右をしようとした。が、
ドンッ
「きゃっ!」
そばに誰かが居たらしい。ぶつかってしまった。マズイ。とりあえず助けなきゃ。サトシは小さな悲鳴目掛けて手を伸ばしたが間に合わず、二人共、尻餅をついてしまった。
「二人共、大丈夫?」
「……オレは大丈夫」
ヒカルに無事を伝えるとサトシはぶつかった相手を確認した。身長はサトシより遥かに低い。幼児みたいだ。ただ、夏なのにポンチョを羽織り、フードを深く被っていた。ポンチョの下から薄い桃色のワンピースが見える。
――女の子?
サトシは顔を見る為にフードの中を覗き込もうとした瞬間、フードから僅かに、女の子の瞳が見えた。
血の塊のような、真っ赤な瞳が。
一気に背筋が凍り付く。
ち
チ
血
血……?
「大丈夫?」
ラインの声でサトシは我にかえった。違う。これは血じゃない。サトシは立ち上がると、女の子を立ち上がらせた。ワンピースやポンチョに付いた砂を払い、手を握ると歩き出す。とりあえず此処から離れよう。騒ぎも起こしちゃった事だし、長居はしたくない。何処か……、公園とか落ち着ける場所を探そう。
「ぶつかってごめんね。痛い所とか無い?」
手を引きながらサトシは声を掛けた。しかし、女の子は俯いて首を横に振るだけで何も言わない。怪我とかはしてないみたいだし、泣かなかったから大丈夫、かな?サトシはそう思い込む事にした。