表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
COLORS☆MAGIC  作者: 朱月えみ
2章:リンゴと蜂蜜
33/34

リンゴと蜂蜜2

▽空腹


何処かに向かっている馬車の荷台に座り込み、うとうととしていた。時々カーテンの隙間から差し込む朝日が眩しい。

此処、何処だろう……。ちゃんと港町に着いたかな……。ぼんやりと考えていたら、ぐるるるるると、お腹が鳴った。


「おなか、すいた……」


そう呟いたが、この荷台には食べ物は載っていない。右見ても左見ても本ばかりだった。


「おなか、すいた……」


再び呟く。二日も食べていないのだ。このまま食べ物にありつけなければ、流石に死ぬかもしれない。


「おなか、すいた……」


もう何度呟いたかわからなくなった頃、馬車が止まった。しかし、動く気力は無かったので、そのまま座り込んでいると、目の前のカーテンが勢い良く開いた。


「……え?な、何やってるんだ、お前は!」


カーテンを開けたおじさんが大声を上げる。しかし、そんなものに返事をする元気など無かった。空腹で死にそうだった。


「え?何?」

「何事だ?」

「なになに?」


人が集まって来ているのがわかる。しかし、逃げる元気など無かった。空腹で死にそうだった。


「どうしたんですか?」

「あ、アスカさん。実は、荷台に子どもが乗っていて……」


アスカと呼ばれた茶色の髪の男が荷台に乗り込む。


「君はどうして此処に?」

「…………」

「何処から来たんだい?」

「…………」


返事をする元気が無くて黙っていたら、アスカは「ちょっと失礼」と言って、髪の毛を一本抜いてきた。……痛い。

すると、急にアスカの掌に光輝く分厚い本が現れた。


「アナリシス」


アスカはそう言うと、本はパラパラとめくれ、先程抜いた髪の毛を吸収してしまった。次の瞬間、本の真上の空間に光の文字や数字が浮かび上がる。古語で書かれているのか、全く読めない。アスカは、その文字をじっと見つめた後、本を閉じ、少年を抱き上げて、荷台から降りた。


「低血糖だ!早く医者を呼んでくれ!」


てーけっとー?

なに?また、なんかの病気?


此処に着くまでに一度病院に連れていかれた事を思い出す。紫の髪をした医者に取っ捕まって、「風邪です」って言われて、甲斐甲斐しく世話までしてもらっちゃって。でも、早く逃げなきゃだったから、病院から抜け出してきちゃった。貰った薬はあと一錠。持つかな……、この身体……。


そうこうしているうちに、何処かの建物の中の狭い部屋のベットに寝かされてしまった。


「今に医者が来るから」


アスカは心配そうにこちらを見つめている。別にそこまでしてくれなくてもよかったのに……。


「君みたいな子どもが何故……。親はどうしたんだ?」


いないよ、そんなもん。物心ついた時には既に孤児院にいたんだから。


お茶を出されたから飲んで少し落ち着いて、暫くしたら眠ってしまっていたらしい。気が付くと、部屋が変わっていた。傍には誰もいない。起き上がろうとしたら、腕に痛みが走った。


「……なにこれ」


腕に何か付いている。管。それに、液体が入った袋。病院で見た事ある気がするぞ。しかし、腕を動かそうとすると痛くてうまく動かせない。管と腕に貼られたテープを剥がしてみると管に針が付いていて、それが腕に刺さっていた。痛い訳だ。こんなもん刺してどうするつもりだ。


「こら!触るんじゃない!」


引き抜こうとしたら、男の声が聞こえた。でも、髪の毛を引き抜いた奴とは違う声。少し年老いた、そんな感じの……。


「まったく……」


扉の傍に立つ声の主は声の通り年寄りだった。しかし、しっかりした足腰で、呆けてはいなさそう。


「これ、何?」

「あ?点滴も知らんのか?」


そう言ってこちらへ歩み寄る年寄り。呆れた顔をしている。


「てんてき?何でそんなものがオレの腕に刺さってるの?」

「お前の栄養が足りんからじゃ。ちゃんと飯は食っているのか?」

「……二日くらい食べてない」

「何故?」

「……いいじゃん、別に」


少年はそっぽを向いた。年寄りは溜め息をつくと、傍らにあった椅子に腰を掛けた。


「そうそう、ワシはこの村の村長のハルカ・バブーンじゃ。お前は?」

「……『M1-03(エムイチのゼロサン)』」

「は?」

「『M1-03(エムイチのゼロサン)』って言ったの」

「…………」


ハルカと名乗った年寄りは黙ってしまった。顔が徐々に険しくなる。


「……何処から来たんじゃ」

「教えない」

「黄色い髪はこの辺では珍しい。遠くから来たのか?」

「……そんなに遠くからは来てない。国内の筈」


最後に場所を聞いた時から二日しか経ってないんだから、まだ国内だろう。


「それより、港に行きたいんだ。ここ、港町?」


少年はハルカが何か質問出来ないように、先に質問した。此処が港町なら、さっさと脱走して船に乗らないとならない。


「……此処はディスターブ。どちらかというと、山の中じゃ」

「え?うそだあ……」

「嘘じゃない。ところで、何処から来たんじゃ?どの道を通って来たんじゃ?」

「……王都。通った道はわからない」

「王都から来たのか。なら、港町は通り過ぎた、という事になる」


そんな……。ここまで来て、道を間違えたなんて……。


「港に一体何の用事で行きたいんじゃ?」

「……アセンズに行きたくて」

「アセンズへ、亡命、という事か?」

「ぼーめー?」

「……亡命も知らんのか」


ハルカは悲しそうな顔でこちらを見ていた。そういえば、紫の医者も悲しそうな顔でこちらを見ていたな。


「とりあえず、暫くうちに居るといい。このままでは、すぐに野垂れ死ぬぞ」


「点滴は絶対に触るな」と言い残し、ハルカは部屋から去っていってしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ