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COLORS☆MAGIC  作者: 朱月えみ
2章:リンゴと蜂蜜
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リンゴと蜂蜜1

山吹色の髪の少年は物陰に隠れていた。その手にはさっき盗んできた包丁。息を切らし、肩を上下に動かし、震える手で握りしめている包丁を睨んでいる。


「……やりたくない。やりたくない。やりたくない……」


小声でブツブツと呟く。脚の火傷がじくじくと痛む。


「……でも、やらないと、また、酷い目に合う」


怖い。怖い怖い怖い怖い怖い。


殺しだけは、やりたくない。

そこまで汚れたくない。


「──はっ」


コツコツと足音が聞こえた。来てしまった。あの人が来てしまった。


少年は足音の主の前に躍り出る。主は青年。長い黒髪を一つに束ねている。しかし、瞳は茶色だった。青年は驚いた顔をしたが、すぐに険しい顔付きになる。


「……ソレで、オレをどうする気?」


青年が言葉を発したので少年はビクッと身体が跳ねた。包丁の事を言っているのだろう。


「こ、殺せって、言われた」

「何故」

「じゃ、邪魔だからって」

「……そう、か」


思案顔になる青年。ブツブツと小声で独り言を言っている。少年は、どうしたらいいのかわからず戸惑っていると、青年はある言葉を発した。


「アブソルート院の差し金か」

「!?」


少年は包丁を構える。院長が「殺せ」って言うくらいだから、やっぱり孤児院の敵なんだろう。この孤児院の秘密がバレてしまったら、きっと、自分達は殺されてしまうに違いない。その前に、この人を殺さなければ。


でも、怖い。だって、殺しだよ?盗みとは違うんだよ?カラダを売るのとは違うんだよ?

こんな事になるんなら、あの時、壺の傍に居なければ良かった。あの壺を割ってしまったから、お仕置きとして熱くて痛い思いまでして、その上、殺しまでさせられる事になってしまったんだから。


「……脚。もしかして、火傷か?」

「え?」


青年の視線が少年の手元から脚に移動した。悲痛な顔になる。


「見せて。ちょうど、火傷に良く効く軟膏を手に入れたばかりなんだ」


青年は少年が持っている包丁など目もくれず、少年の傍へ駆け寄ると足元に屈み込み、鞄から軟膏を出し、脚に塗りだした。


「い、痛い!痛い痛い!」

「我慢だ」


青年は軟膏を塗り終えると、今度は鞄から包帯を出し、少年の脚に巻き始めた。


「……これでよし。跡は残ってしまうだろうけど、小まめに軟膏を塗り直して、包帯を巻き直せば治るよ」


そう言って、青年はいたずらっ子みたいな顔で笑った。


「殺されてあげたいのは山々なんだけどさ、オレ、やらなきゃならない事がいっぱいあって、まだ死ぬ訳にはいかないんだ」

「……でも、失敗したら、火傷、増える」

「そうか……」


青年は困った顔をした。こちらだって困ってるんだけど。


「……やらなきゃならない事って、何?」


少年は訊ねてみた。死ぬ訳にはいかないくらいの大切な事ってどんなのか気になった。だって、自分には何もない。ただ、死にたくないだけ。死ぬのが怖いだけ。


「色んな世界に飛び散った悪魔を全部捕まえて、兄貴と一緒に家族が待ってる家に帰る。って言ったら、信じる?」


再びいたずらっ子みたいな顔で笑う青年。それが嘘なのか本当なのかは、少年にはわからない。


「じゃあ、何で、アブソルート院に命を狙われてるの?」


質問を変えてみる。すると青年は優しい顔でこう言った。


「君みたいな子を助けようとしているからさ」

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