始まりの唄1
夜。月は真っ黒な厚い雲に覆われ姿が見えず、辺りは真っ暗闇。そんな、いかにも何か出そうな真夜中の墓場に、人影が二つあった。
一つは青年。
茶髪黒眼の彼は、まだ僅かに幼さが残る顔立ちをしており、悪戯でも思い付いたかのような笑みを浮かべている。
彼の両手には、この世界では超レア物の魔双銃が握られていた。これは、彼が長い年月を掛けて働いて働いて働いて働いて働いて稼いだお金でようやく手に入れた代物だ。
体術だけでは身を守れないこの世界では、この魔双銃のような『魔術』を使う為の道具が必要だった。
そして、もう一つの影。これは少年。
紺青の綺麗な髪とは対照的に、金色の獣のような瞳をしている。ただでさえ不機嫌そうな顔をしているのに、釣り眼のせいで睨んでいるみたいだった。
そんな少年の左手には、剣が握られていた。身の丈に合わない、とても大きな剣は、どう見たって重たい。切れ味はともかく、鈍器としても使えそうだった。
「――オレを餌にしようとか思ってんだろ、クソバカ」
ふと、少年が口を開いた。二人っきりなので多少声が小さくても、よく聞こえる。
そして、「クソバカ」と罵られた青年は少年の問いに答えるべく口を開く。
「餌とは人聞きの悪い。……囮だよ?」
「……変わんねーよ」と少年は呟いた後、深い溜め息をついた。
別にこれが初めてではない。今まで、この青年とやってきた仕事のほとんどが囮扱いだった。まあ、子どもの方が新鮮で美味しいだろうし、大人より弱いって理由だろうが、あまり納得はしたくない。
それに子どもがいいのならば、この青年だって大人に成り立てな子どものようなもんだ。毎回毎回、自分だけが囮だなんて不公平過ぎる。
しかし、この不満は当の昔に一蹴され、今回もまた、囮役をやるのだった。
しばらくすると、一陣の冷たい風が二人の間を通った。もう七月とはいえ、雨上がりの夜は冷える。それを知ってか知らずか、半袖半ズボンという、かなりの薄着をしている少年の曝け出された腕に鳥肌がたった。
「――そろそろ、来るかな?」
何かを感じ取った青年が銃を構え始めた。それに合わせて少年も剣を構える。
「今日こそ全部ぶっ倒すつもりで行くぞ、サトシ」
少年は黙ったまま頷いた。
サトシ・ドラゴン。これが、もうすぐ九歳になる、この少年の名前だった。
地面からズブズブという湿った音が聞こえ始める。それだけでなく、墓の方からも。
「敵キャラのご登場~」
陽気な声で青年は呟くと、左手に握っていた銃を空へと掲げ、ニコリと笑った。
「……やっぱりラインはクソバカだった」
「ん?何か言ったかな、サトシ君?」
サトシは小声で呟いたつもりだったが聞こえていたらしい。青年がわざとらしく聞き返す。
ライン。先程からサトシに罵られている青年がそうだった。
自称「永遠の二十歳」な彼は小声で何か呪文を唱えると、掲げた銃の引き金を引いた。バンッと重たい発砲音の後、銃口から魔方陣が現れ、そこから光の玉が出てくる。それは四メートル程上空へ上がると拡散し、周囲を明るく照らしていった。
「……どーやら、囲まれてるみたいだねぇ」
「囮、要らないな」
「しゃーないか」と少々変わった発音で呟くラインの目にはゾンビのような生物が沢山写っていた。二十、三十……。いや、まだ沢山居るかも。
そして、お互いの姿がはっきりと確認出来た次の瞬間、二人はゾンビ(みたいな生物)の方へ、駆け出して行った――。