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COLORS☆MAGIC  作者: 朱月えみ
1章:始まりの唄
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始まりの唄27

▽あたたかい


アスカ宅に戻ったが、サトシが椅子に座ってぼーっとしていた。オポルトの話をしている間は青い顔をしていたが今は落ち着いている。ラインも「魔力も落ち着いてるし、そっとしておこう」と言っていたので、誰も近寄らなかった。多分、色々と考えているんだろう。


「……国は、大体の事は把握しているのか?」


アスカが小声で訪ねてきた。ヤマトは黙って頷く。


「ただ、サトシ目線の事までは把握していなかったので、これから報告するつもりです」

「そうか」


実は五年前のオポルトでの暴走の原因は本人に告げていないだけで既に判明している。だが、情緒不安定なサトシに告げて、どうなるのか見当がつかない為、秘密にしているのだった。


「ラインにも報告書書いてもらうからな」

「うえっ?!マジか……」


ラインが嫌そうな顔をする。書類関連の仕事を頼むとこんな顔をするから、書類を書くのが嫌いなんだろう。まあ、好きな奴はあまりいないだろうが。


「と、言う訳で、はい。ついさっき届いた」


ヤマトは胸元から手紙を出すとラインに手渡した。サトシの暴走が終わった直後、伝書鳩がこの手紙を寄越してくれたのだ。宛名はラインだったが先に読んどいた。


「何?……え」


手紙を受け取り中身を読んだラインは顔を青くする。そうだろうな。ヤマトも読んだ時に顔を青くしたのだから。


「どうしたんだ?」

「アスカ……。そろそろ、おいとまさせていただきますわ……」


そう言って、それっきりラインは暫く口を開かなかった。



「ほんっっとうに、御迷惑をおかけしました!!」


ヒカルは自分の世界から帰ってきたサトシの頭を無理矢理押し、頭を下げさせた。それを見てカオリは首を横に振る。


「元はと言えば、あたしが聞いてはいけない事を聞いてしまったから……。こちらこそ、すみませんでした」


そして、申し訳なさげに少し頭を下げた。少ししか下げられないのは眠っているエリナを抱いているからだ。


「……オレが、まだ受け入れられて無かったから。だから、カオリさんのせいじゃ、ないです」

「うん。でも、サトシくん本人に聞くべきじゃなかったね。ごめんね。まだ、辛かったよね……」


顔を上げてカオリは笑った。でも、カオリも辛そうだった。泣くのを我慢している顔だった。


「でもね、どうしてもサトシくん本人に聞きたい事があって」

「え?えっと……、何でしょうか?」

「サトシくんのお母さん……、ノリンの事」


ギシリと音を立てて胸が痛むのがわかる。まだ、痛い。でも、もう、逃げたくない。


「あたしね、今日、初めて、彼女が亡くなっていたのを知ったの。あたし達は、彼女は何処かで元気に暮らしていると、ずっと思ってた」

「…………」


だけど彼女は、もう居ない。


「──ねぇ、サトシくん。お母さんと過ごした日々は、幸せだった?」



母さんと、過ごした日々……。


異端者だってわかっていながらも、オレの事を愛してくれた。


父さんが居なくても、毎日が笑顔で溢れて、楽しかった。


そう、これを言葉で表すなら



「――幸せ、でした」

「良かった」


カオリは優しく微笑むと、そっとサトシの頬を撫でた。



──あたたかい



不思議と恐怖は無かった。だから、言わない。母さんが夜一人でこっそり泣いていた事は、絶対に。母さんは連れ去られたって言っていた。なら、母さんはきっと淋しかったに違いない。でも、そんな素振りは一切見せなかった。母さんは気の強い人。きっと親友のカオリもわかってる。だから、カオリには、この事は伝えない。笑顔で迎えてくれた、受け入れてくれたこの人達には笑顔のままでいて欲しいから。


「サトシくんに初めて会った時、青龍様に似てるなぁって思ってたの」

「……ラインとアスカさんにも言われました」

「うん。でも、お父さんの方がもっと似てるね」

「──え?」


初めて、父さんの話題が出て戸惑うサトシ。しかし、それに気にも止めずカオリは話す。


「お母さんと同じ髪色だからお母さん似に見えるんだけど、目付きとか仕草とかはお父さんそっくりで、もしかして二人の子どもかな?だったらいいな。って思っちゃったくらいだったから」

「あ、あの、サトシのお父さんって、どんな人ですか?!」


サトシが驚いて固まっている間に、興味を持ったヒカルが質問した。ヒカルはサトシの母親に会った事はあるが父親とは会った事は無い。前々から気にはなっていたが似ていると聞いたら余計に気になる。


「うーん……。面白い人、かな?そして、お料理上手、と言うよりお菓子を作ったり食べたりするのが好き。甘いモノが好きだから。でも、なによりもノリンの事が大好き。ただ、……ひとりぼっち」


──ひとり、ぼっち……?


父さんも、母さんがいなくて淋しいの?


「ごめんね。これ以上は教えてあげられないの」

「あ!いえ!無理に聞いてすみません!」

「もっと話してあげられたら、いくらでも話すんだけど……。そうだ!大人になったら、また遊びにおいで!その時はいっぱい話してあげる!」

「……ありがとうございます」


あまり父さんの事は知れなかったけれど、全く知れなかった訳じゃない。「目元とか仕草が似てる」って、少し照れ臭かったけど、なんだか嬉しかったりもした。顔も名前も所在もわからない、オレの父さん。何処かでひとりぼっちなんだろうか。何だか、泣いてるような、そんな気がした。


「サトシくん。あなたは一人じゃないよ。あなたの事を大切に思ってくれている人達がちゃんといる。そうだよね?」


そう言って、カオリはラインやヒカルに視線を移した。ラインはきょとんとした後、


「餓鬼は甘えたかったら甘えていーんだよ」

「そうそう。なんなら今から抱っこするー?」


ヒカルと一緒に意地悪な顔をして言った。サトシは顔をしかめる。


「……なんか、所々、苛ってした」

「くすくす。素直じゃないなー」

「このマセ餓鬼」


「……甘えるなら、エリナがいいです」


サトシは小声で呟いたつもりだったが、皆には聞こえていた。


「いいよー!」


エリナは起きてたのか、カオリから降りるとサトシに抱きついた。


「……逆、だな。どちらかと言えば、エリナちゃんがサトシに甘えてるみたいだ」



でも、なんだか

安らぎを感じる……



甘く締め付ける胸と、高鳴る鼓動と、髪から香る彼女の香りと、触れている体温が、とても、心地が良かった。



ずっと、こうしていたいな……



時が止まればいいのに。サトシはそんな事を思った。こんなにも心が安らぐのはいつ以来だろうか。


……そうだ。初めて姉貴に抱き締められた時だ……。

あの時とは少し違うけど、「嬉しい」という気持ちは一緒だった。


そして、しばらく二人は抱き合っていた。

暖かく、見守られながら……。

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