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COLORS☆MAGIC  作者: 朱月えみ
1章:始まりの唄
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始まりの唄23

▽フランボワーズ


「サトシくん、おかえりー!」


アスカ宅に戻ると、お昼寝から起きたエリナが出迎えてくれた。ご機嫌なのか、笑顔のエリナは「はやく、はやく」とサトシの手を引っ張る。仕草がとっても可愛いし、朝と違って更に可愛い服も着てるしリボンまでつけちゃって余計に可愛いけど、何を急いでいるんだ?


「じゃーん!」


連れていかれた部屋は、豪華とまではいかないが飾り付けがされていて、木苺ラズベリーのホールケーキが置いてあった。ホールケーキにはチョコレートのプレートが乗っており「エリナHappyBirthday」の文字が。火の付いた蝋燭も四本立っている。


「あたしたちね、たんじょうびなの!よんさい!」


エリナは嬉しそうに話す。なのに、サトシは何故か喜べなかった。



――サトシ。誕生日なのに、ケーキ無くてごめんね。


いいよ。お金無いの知ってるもん。


――プレゼントも、買ってあげられなくてごめんね。


いいよ。欲しい物なんかないもん。


――ごめんね……。


謝らなくていいよ。母さんがいればいいもん。



――たんじょうび、おいわいできなくて、ごめん。


いいよ。ヤマトは早くお母さんの所へ行ってあげて。


――ごめん……。


大丈夫だよ。オレは、大丈夫……。



「サトシ」


気が付いたら、アスカが顔を覗き込んでいた。心配そうな顔をしている。


「……火が駄目なら早めに消すが」

「あれくらいなら大丈夫です」

「無理とか我慢とかしてないか?」

「大丈夫です。あれくらいで怖がってたら生きていけないです」

「なら、いいが……」


心配させてしまった。「辛くなってきたら、すぐに言うように」と念まで押されて。


「ねえ、サトシ。ケーキって、食べた事ある?」


急にヒカルが尋ねてきた。「何を言ってんの、ヒカルちゃんは~」とラインは笑っている。


「……食べた事、無い」

「ええ?!食べた事無いの?!」


正直に言ったら、すごく驚かれた。


「悪いか」

「いや、そうじゃないけど、何で?」


どうやら、ラインにとってはケーキは特別な物では無いらしい。うちは、すごく貧乏な家庭だったから、ケーキを買うお金もケーキを作るお金も無かったのだ。プレゼントなんか、一才の誕生日に産院から貰った靴くらいだし。幼稚園で月に一回お誕生日会があったが、一年もあったお誕生日会に体調不良で全部休んだから、おやつのケーキにありつけなかった。


「……いいじゃん、別に」


それより、ケーキの事情まで根掘り葉掘り聞かないで欲しい。どうしても知りたかったら、ヒカルか長老にでも聞け。


「そっかぁ、サトシくんはケーキ食べた事無いのかぁ」


サトシ達の会話を聞いていたカオリはうんうんと頷く。そして、にっこりと笑った。


「初めてのケーキが、あたしとアスカの手作りだなんて、何だか嬉しいな」


な、んですと?


「そう……、そうだな。初めてのケーキが私達の手作りだとは、光栄だ」

「口に合うといいんだけど。一応、お料理上手の人に教わったレシピだから、美味しいとは思うんだけどね」


そう話すアスカとカオリに、サトシはどういう顔をしていいのかわからなくなって、俯いてしまった。この人達は、とても優しい。温かい言葉を掛けてくれる。だから、胸が熱くなって苦しくなるんだ。自分がこの温かさを受け入れてもいいのか、怖くて、不安で、堪らないから。


「サトシくん。ケーキって、とってもあまくて、おいしいんだよ。いっしょにたべよう?」


エリナが笑顔で手を握ってくれた。だから、サトシは今出来る精一杯の笑顔で答えた。


「うん。すごく楽しみ」

「じゃあ、お誕生日会始めよう!」


誕生日ケーキの蝋燭は年齢分立てるらしい。そして、誕生日の人が蝋燭の火を吹き消すのだが、その時に願い事をし、一発で全部消す事が出来れば、願い事が叶うんだとか。うんちく好きのラインが教えてくれた。


「かわいい、およめさんになりたいです」


エリナはそう言ってから息をいっぱい吸ってから思いっきり吹いた。蝋燭の火はゆらゆらと揺れて二本だけ消えた。


「……おねがい、かなわなかった」

「来年、また頑張ればいいよ」

「うん!」


残りの火も吹き消したら、皆で拍手をした。「おめでとう!」「お誕生日おめでとう」って声を掛け合って。


「サトシくん。どうぞ」


切り分けられたケーキを受け取ると、皆がサトシをじっと見ていた。早く食べて欲しいみたいだ。そんなに見られてると恥ずかしくて食べづらいじゃんか。だが、いつまでも食べない訳にもいかないので、勇気を出して一口食べてみた。


「どう?美味しい?」


カオリの問いかけにサトシは黙って頷く。木苺ラズベリーが飾りのようにちょんと乗っているだけと思いきや、スポンジケーキの中に木苺ラズベリーのジャムが入っていて、それの酸味が甘いホイップクリームとスポンジケーキによく合うのだ。


「良かった」


アスカとカオリは顔を見合わせて微笑むと、それぞれ皆も食べ始めた。


「ケーキって、ストロベリーのイメージしか無いんだけど、これは何で木苺ラズベリー?」


絵本でしかケーキを見た事が無いサトシの素朴な疑問。それを茶化す事なくアスカは答えてくれる。


ストロベリーは旬が終わってしまったから何処にも売ってないんだ。今の旬は木苺ラズベリー。もう少ししたら桃やメロンも食べられるな」


成る程。でも、せっかく髪の色がストロベリーなのにストロベリーの旬では無いなんて、少し残念だな。これはこれで美味しいけど。

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