始まりの唄22
▽買い物
昼食後、買い物の為に再び隣町にやってきたサトシ。約束通り、ヤマトも一緒だ。ラインとヒカルも。
「……何をあげたら、喜ぶかな?」
「さあ?」
忍者ではなく甚平みたいな格好のヤマトもわからないらしい。ここは、女のヒカルに聞いてみるか。
「女の子がプレゼントに欲しい物~?」
「現金?」
「そうそう!それそれ!って、ラインんんんん!」
「あはははは!冗談、冗談。でも、女の子って、アクセサリーとか好きなイメージあるけど、ヒカルちゃんもアクセサリー貰いたい?」
「そうだね~。ネックレス、指輪、ピアス、チョーカーにリボン……。どれも、あたしには似合わないだろうけど、女の子はオシャレが好きだから、アクセサリー貰ったら嬉しいよ~」
「アクセサリー……」
と、店の中で見渡したら、キラリと光る物が視界に入った。近付いて見てみると、それは小さな紅玉のペンダントだった。
「あ、これ、可愛い~。ハートの形だね~」
ヒカルも可愛いと思うか。そして、反射的に値札を見て、サトシは絶句した。お小遣い三年分くらいの値段。こんな小さな宝石なのに、こんな恐ろしい値段をするのか。
「子どものお小遣いじゃ、無理だね~。あたしも買おうとは思わないかなぁ」
「そもそも、宝石のペンダントなんて、子どもが身に付ける物じゃないと思うんやけど」
……そうなのか。可愛かったから「いいな」と思ったんだけど残念。
「……あれ?ヤマト?」
いつの間にかヤマトの姿が無い。店内を探してみるとお土産コーナーにいた。そこにはお土産用の食べ物がいっぱい置いてある。
「……おはぎが無い」
サトシが傍に来た事に気付いたヤマトは口を開いた。
「おはぎ?」
「あんこと餅米のお菓子だ」
「……此処からアセンズまで持って帰っていたら腐ると思うんだけど」
「……それもそうだ」
ヤマトは肩を落とした。そんなに残念がるなんて、「おはぎ」はそんなに美味しい物なのか?気になる。
「サトシ~。包帯と薬草って、どんだけ残ってたっけ~?」
少し離れた所からラインに声を掛けられた。包帯と薬草はサトシが一番よく使うのでサトシが管理を任されているのだ。
「……どっちもまだ沢山ある」
最近買ったばかりだし、使う程の怪我はあまりしてない。と、今度はヒカルに声を掛けられた。
「サトシ~。ぬいぐるみはどう?これならそんなに前借りしなくても買えるよ~」
「……何故そんな不細工なぬいぐるみを持ってくるんだ」
そのぬいぐるみの趣味はお前の趣味なのか?と聞きたいくらいだ。
「サトシ。おはぎのぬいぐるみって無いだろうか」
「……おはぎのぬいぐるみって何なの」
今度はヤマトが真剣な顔で聞いてきた。確かにぬいぐるみなら腐らないだろうが、どうしておはぎなんだ?
「サトシ~!見て見て!剣!これ、カッコ良くね?」
「……カッコいいけど、すごい値段するし、誰の為の剣だよ」
っていうか、何故オレに見せに来るんだ。
「サトシ~?普段お世話になってるあたしには何もないの?」
「……ねえよ」
エリナの誕生日プレゼントだって言ってるだろうが。
「サトシ。おはぎの柄の服とか無いだろうか」
「……おはぎどんだけ好きなのさ」
それより、おはぎへの執着がおかしいよ?
「サトシ……。トイレ行ってくる」
「……勝手に行ってこい」
だから、何故オレに言うんだ!
「サトシ!見て見て!この服どう?」
「……可愛いけど、旅には向いてない」
だから、何故オレに見せに来るんだ!
「サトシ。おはぎのマスコットを作る事にする」
「う、うん。……作る?」
「作る。手作り」
おはぎへの執着がすごい……のは一旦置いといて、そうか。成る程。手作りか。
「……ペンダントって、作れないかな?」
「ヘッドだけなら作れるんじゃないのか?チェーンとか紐は買うしかないが」
「ヘッド、か……」
あの宝石が付いてた部分だよな。
「木とか石とかを加工するのが早いと思うが」
「……オレ、すっごく不器用なんだよな」
小枝や鉛筆を切ったり削ったりするだけで毎回大怪我をするし、望んだ形には全くならない。魔法で石を加工してみようと試みた事もあるが、水圧の調整が難しく、かなり魔力も気力も体力も持っていかれる。そもそもサトシにとって「手作り」自体が難しいのであった。
「……自分の持ち物で、あげられる物があればいいのにな」
ふと、ヤマトが呟いた。自分の持ち物なら、作らなくてもいいし、お金もかからないもんな。自分の持ち物で、あげられる物……。
鞄の中身を思い出してみる。まず、着替え。ヒカルに貰った短剣。これはあげれない。メモ帳と筆記用具。あげても仕方ないし、エリナは要らないと思う。ロープと毛布と食器。旅の必需品なので無いと困る。あとは……。
――サトシ。
これは、特別な石。
「あ!」
「どうした?」
「オレの持ってる物であげられる物、あった!しかも、不器用なオレでも加工の出来るやつが!」
「もしかして、長老に貰ったやつか?」
サトシは「うん」と頷くと、紐だけを買って店を出た。プレゼントは決まった。




