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COLORS☆MAGIC  作者: 朱月えみ
1章:始まりの唄
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始まりの唄18

▽魔法戦の練習


「偉大なる氷の精霊フラウよ。彼の者を射る槍となりて、我に真の力を見せよ。ヤクラーティオー!」


魔導書らしき本を左手に持っているアスカの足元に魔法陣が現れた。空中に氷の槍が無数に出現し、サトシに向かって飛んでくる。サトシは、同じような氷の槍を魔法で出すと、自分に向かってくる氷の槍を自分の氷の槍をぶつけて相殺した。


早朝。普段、サトシとラインは組み手をするのだが、今回はアスカに魔法戦の練習に付き合って貰う事にした。ラインの言う通り、確かにこれはいい機会だとサトシが自分で考えて、自分で頼みに行った。魔法はどちらかと言うと遠距離攻撃に向いている。魔法が使えるのに使わないのは、後々困る可能性もあると思ったからだった。


「偉大なる樹木の精霊ドライアードよ。彼の者を捕える戒めの鎖となりて、我に真の力を見せよ。ウィンクルム・ヘーデラエ!」


今度は足元から木のつたが現れ、サトシを襲う。サトシは蔦を凍らせるが数が多過ぎて全部は凍らせる事が出来ず、蔦に捕まってしまった。蔦は身動きの取れなくなったサトシに更に巻き付き、サトシの姿が見えなくなる。


「――ううううううらっ!」


サトシが叫んだ瞬間、蔦が細かく千切れる。


「うわ、何したんだ?」

「水分奪ってから短剣作って切り刻んだ」

「ほう。考えたな。じゃあ、これはどうかな」


アスカが持っている本が触っていないのにページがパラパラとめくれていく。魔術を使う時にこうなるみたいだ。次は何を仕掛けてくるつもりだろうか。サトシは身構えていると、


「偉大なる大地の精霊ノームよ。火炎の精霊サラマンダーよ。彼の者に降り注ぐ燃えるテフラとなりて、我に真の力を見せよ。エリュプシオン!」


空に燃える火山弾が現れ、サトシに向かって降り注いだ。



炎が、こちらに向かってくる。

身体が、動かない。

熱い。身体が燃えている。

声が出ない。喉が痛い。

声が聞こえる。


――死んで償え、って……。



「イミテート・エレメンタルナンバー、ツー!彼の者を守れ!」


「木遁『迷彩・こがらし』の術」



炎に心を奪われたサトシには、二人の声が聞こえなかった。


サトシの目の前にラインが躍り出て、火炎弾に向けて魔双銃の引き金を引いた。銃口に魔法陣が現れ、魔双銃の横に『2』と文字が浮き出る。魔法陣から水流が出てくると、急に目の前に沢山の木の葉が現れ、ラインもろとも何も見えなくなった。


「――サトシ」


炎が見えなくなったからか、正気に戻ったサトシの耳に、聞き覚えのある声が聞こえる。サトシは声がした方へ視線を移すと、奇妙な格好の少年がすぐ隣にいた。少年は額当てをし、布で口を覆っている。灰色の髪と瞳が僅かに揺れていた。


「……ヤマト」


ヤマトと呼ばれた少年は黙って頷いた。瞬間、二人を覆隠していた木の葉が消え去る。消えた木の葉の先には、難しい顔をしたラインとアスカが立っていた。


「……『火』が怖いのか」

「ごめん。前もって言っておけば良かったんだけど、すっかり忘れてた」


アスカは首を横に振ると、サトシの元へと歩み寄った。


「……大丈夫か?知らなかったとはいえ、すまない事をした」


サトシは首を横に振る。魔法戦の練習を頼んだのは自分なのだ。火の魔術を使う事を予測出来なかった自分にも非があるとアスカに説明したが、アスカは難しい顔をしたままだった。


「それより、ヤマト。さっきの、何?」


サトシは火の事は一旦置いといて、先程起きた現象に疑問を抱いた。ラインのはわかる。魔双銃で魔術みたいな術を使っただけだ。「イミテート・エレメンタル」と言われる『人工エレメンタルカートリッジ』を銃に充填し、簡単な呪文を詠唱しながら引き金を引くと誰でも魔術みたいな術を使う事が出来る。ただし、魔双銃もカートリッジも、お値段がとっても高い。


「忍術だ」


ヤマトは口元の布をずらすと、そう言った。『にんじゅつ』って何だ?


「その格好と関係あるの?」

「一応、な」

「その格好は、何なの?」

「忍者だ」

「……にんじゃ?」


何だ、それは。ヤマトはサトシの幼馴染みだ。その幼馴染みがよくわからない事を言っているので、サトシは混乱しそうになった。


「好きでこんな格好している訳じゃないからな?」

「あ、そうなの?」

「訳有って、こんな格好をさせられている」


しかも、嫌々らしい。


「そんな事より、やっとサトシとまともに喋れた」


そう言って、ヤマトは顔を綻ばせた。そうだ。最後に話しをしたのは四才の誕生日前だった。それから何年も離ればなれになった。その後は、せっかくわざわざ探しに来てくれたのに、自分は鬱で誰とも喋りたくなくて、今の今まで全く会話をしなかった。


「……ごめん」


申し訳ない気持ちと情けない気持ちで、サトシは俯いてしまう。旅に出てから、ヤマトは影でサトシを見守っていた。決して姿を現さず、沈黙を貫いていた。サトシの望まない事はしないよう……。

ヤマトは首を横に振ると、サトシの手を握った。


「俺には何も出来なかったけど、サトシが元気になってくれて、本当に良かった」


……胸が痛い。ぎゅうって締め付けられる。エリナを想って締め付けられる胸の痛みとは違う。嬉しい気持ちと切ない気持ちが一緒になって、苦しくなる。


――大事にされているって、こういう事なんだ。

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