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COLORS☆MAGIC  作者: 朱月えみ
1章:始まりの唄
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始まりの唄10

▽痣


「あ!お洗濯物畳んでくれたの?ありがとう」


畳まれた洗濯物を見付けたカオリは喜んでいた。アスカは「えっ?!」と驚愕で固まっているが。アスカの反応の方が当然だと思う。とりあえず、タンスを物色して畳み方の研究をした事は言わないでおこう。


「あ、トイレ借りていい?」


その上ラインはこれである。ヒカルもラインも変わり者な気がする。遠慮とか知らないのか。ラインはアスカにトイレの場所を聞き出すとこの場から去っていった。

ラインの姿が見えなくなった途端、アスカが急にお道具箱を出してきた。そこはクレヨンが入っていた所だ。今は入っていない。ヒカルが持っているからだ。

お道具箱を開けた次の瞬間、アスカが首を傾げた。クレヨンが無い事に気付いたんだろう。どうしよう。どう伝えたらいいかな……。


「あ、もしかして、クレヨンですか?」


ヒカルがアスカの様子に気付いてくれた。この場はヒカルに任せた方がいいかもしれない。


「え?……ああ。ラインがいないうちにクレヨンを隠しておこうと思って」

「クレヨンなら、あたしが預かってます。……やっぱりアスカさんもラインの病気知ってるんですね?」

「ああ。知らずにクレヨンを出してしまってな。あの時はすまない事をしてしまった。クレヨンが無くても症状が出る事もあるらしいんだが、クレヨンは確実に症状が出てしまう引き金のようだから……」


そう言って少し悲しい顔をした。あまり、よくない病気なのかな……。それなのに、まるでお通夜みたいな空気になってしまったこの状況など知りもしないラインはスッキリとした顔で帰ってきた。


「たっだいま~」

「お前はもう少し周りに気を使ったらどうなんだ?」

「は?」


サトシの突っ込みにラインはアホ面で首を傾げる。本当にラインって、変なヤツ。

サトシが大きな溜め息をついていると、いつの間にか洗濯物を片付ける為に退出していたカオリが戻ってきた。


「エリナ、お風呂行こうね」


此処のお家は先にお風呂にするのか。そう思っていたら、急にエリナがサトシに抱き付いてきた。いきなりだったので、鼓動が大きく跳ねた。


「サトシくんとはいる!」

「えっ?!」


お風呂のお誘いですか?!


「サトシくんだけで大丈夫かな……」


子どもに幼児のお風呂を任せるのだ。親としては心配だろう。しかし、こんな事ではエリナは諦めなかった。


「サトシくんとはいる!」

「う~ん……」

「えっと、オレ、大丈夫です。ちゃんと見てます」


もうすぐ九歳のお兄さんなのだ。小さい子のお風呂くらい面倒見れる気がする。ようは、ちゃんと洗ってあげて、溺れないように見張り、のぼせないうちに出てきて、冷える前に拭いてあげて、服を着せればいいんだろ?出来る。多分。


「駄目だと思ったらちゃんと呼びます」


保険を掛けといた。これでどうだ。


「……わかった。サトシ、エリナをよろしくな」


アスカが許可を出してくれた。「やったー!」とエリナは喜び跳ねている。よし、頑張ろう。


「じゃあ、二人とも、いってらっしゃい」

「?!」


ラインはそう言うないなや、サトシの顔面向けて着替えを投げ付けてきた。避ける事も出来ずもろに当たる。


「――ライン。後で、覚えとけよ……」


サトシはラインを睨み付けると、エリナと共に風呂場へと駆け出していった。


「……って言われてもねぇ、オレに勝った事無いでしょ~?」


ラインのデカイ独り言が聞こえる。ムカつく!いつか絶対に倒してやる!何度目かわからない決意を決めた。


そして、お風呂場。いや、脱衣場に着く。だが、サトシは服を脱ぐのに躊躇っていた。別に風呂が嫌いな訳でも人と一緒に入るのが嫌でもない。旅に出る前は、姉と毎日一緒に入っていたし、他の人と一緒に入った事だってある。

ただ、あまり人に見せたくないモノがあるので、なかなか一歩が踏み出せずにいた。しかし、お風呂に誘われ、しかも自分で面倒を見ると断言までしてきて、ノコノコと此処まで来てしまった以上、脱がねばならない。


「……サトシくん、どうしたの?」


サトシが躊躇っている間に、エリナは既に脱衣を終わらせていた。一人で出来るんだな、えらい。しかも、湯船に浮かばせるであろう木製のアヒルを沢山両手で抱えていた。それ、全部浮かばせたら水面見えなくなりそうだね。


「ご、ごめん。ちょっと考え事してた」


とりあえず謝罪を口にしてから、急いで服を脱いだ。と言っても薄着なので、すぐに終わるのだが。


「わあ……」


湯の温度を確認しようと先に脱衣場を出たサトシの背中を見て、エリナは目を丸くして声を漏らした。


――想像通りの反応。だから嫌なんだ。サトシが人に見せたくないモノ。それは、背中いっぱいに描かれた『青い龍』の『痣』だった。刺青にも見えるコレは、とても目立つ。公共の入浴施設には絶対に入れない。

サトシは溜め息を無理矢理押さえ込んだ。自分の後ろ姿は自分では見れない。だからこそ、サトシは背中の痣が嫌いだった。


――コレが本当のオマエの姿だ。


そう言っているみたいで。


『――すまない』


頭の中で声が聴こえた。


『――すまない』


ああ、まただ。何で謝るの?やめてよ。


たまに聴こえるこの声は男の声だ。いつも、謝罪の言葉を言っている。


『――すまない』


やめてよ。オレが欲しいのは謝罪じゃない。


『――すまない』


やめてくれ。アンタは一体誰なんだ!


「かっこいい……」


ぽつりとエリナが呟いた。その言葉でサトシは我にかえる。サトシはエリナを恐る恐る見ると、あろう事か、エリナは瞳を輝かせていた。


「……え?」


うっかりときめきそうになってしまったが、今はそれどころじゃない。何か聞き捨てならない言葉をエリナが口走った気がする。


「……かっこいい?」

「うん。かっこいい!」


聞き間違いじゃないかと思ったが、間違いじゃなかったらしい。エリナの素敵な笑顔にサトシは戸惑ってしまった。


「こ、こんな痣、普通は無いし、変だろ?」

「かっこいいよ?とびだしてきそう」


と、飛び出してきそうって何だ……。っていうか、かっこいいって恥ずかしい……。


「あたしのちいさい」


サイズは関係あるのか……って、ん?


「ほら」


そう言ってエリナはアヒルを全部湯船に浮かべると、自分の胸元を指差した。そこには、小さな、ハートに羽根が付いたような、痣があった。


「ね。ちいさい」


サトシは驚いた。色んな場所を旅してきたが、痣のある異端者は自分以外、見た事も聞いた事もなかった。それだけに、エリナの痣の存在が衝撃的だった。この子は自分と何か関係があるのだろうか。それとも偶然……?う~ん。わからない。


「サトシくん、先に頭洗おう」


サトシがあれやこれやと考えている間に、エリナは石鹸を持っていた。手桶まで持っている。


「あ、はい……」


悩んでも解決しないモノはほっとこう。サトシは考えるのを止めて、石鹸を受け取るのだった。

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