始まりの唄8
▽お父さんは図書館司書さん
お父さんを捜しに出たエリナとカオリは、ひとまず公園に向かった。たまたますれ違った人が「司書さんが公園に居た」と言っていたからだ。エリナのお父さんは隣の街の図書館司書だった。
「カオリ!エリナ!」
公園の近くまで来ると、茶色の髪の男の人が走ってやってきた。お父さんだ。
「おとうさん!」
エリナも走り出すと、お父さんに抱き付いた。お父さんは疲れたような、安心したような顔をしている。
「アスカ。お疲れ様です」
追い付いてきたカオリはニッコリとしている。「アスカ」とはお父さんの名前だ。ちなみに本人は女の子みたいな名前だと気に入らないらしい。
「これ以上見つからなかったら魔術で捜そうかと思っていたんだが、結局、自分で家に戻ってきたんだな?」
「うん。可愛い男の子連れて、ね」
カオリは小さく溜め息をつく。心配し過ぎて疲れていた。そんな事など知らないエリナはニコニコとごきげんに喋りだした。
「おとうさん、あのね!おともだちができたの。サトシくんっていうの」
「……サトシ?」
アスカは眉を寄せる。その「サトシ」という名前に何かあるみたいだ。
「蒼い髪の男の子。なんか、ノリンの事思い出しちゃった」
そう言って、少し寂しそうな顔をするカオリ。アスカは更に眉を寄せる。
「よく似てたの。ノリンと、青龍様と、……壊れてしまった、あの人に」
「そうか……。そういえば、此処でラインに会ったが」
「ラインくんとサトシくんは一緒に旅をしているって言ってたよ」
「……何かありそうだな」
アスカが思案顔しているとエリナが心配そうに見ていた。アスカは身を屈み込み、エリナと視線を合わせると微笑んだ。
「……エリナ、お友達と遊んでいたのかい?」
「うんっ!サトシくんにこれもらったの!」
エリナはワンピースのポケットから紙切れを取り出すとアスカに手渡した。紙切れには簡単に世界地図が描かれていた。
「でも、ちょぴり、暗い、悲しい眼をしていたよ……」
「そうか……」
アスカは紙切れをエリナに返す。エリナは大事そうにポケットに仕舞った。
「アスカ。今日はラインくん達が泊まるからご飯どうしよう」
思い出したかのように言い出したカオリは首を傾げる。
「サトシくんとー、おにいさんとー、おねえさんがー、おとまりー」
「三人泊まるのか。このまま買い物へ行った方がいいな」
「わーい、おかいものー!」
「何食べたいか聞いてきたら良かったねー」
そういって、市場へと三人で歩き出した。
「ラインに聞いたら闇鍋になるかもしれないから駄目だ」
「闇鍋楽しかったよねー」
「ゲテモノ食わされた挙げ句、カレーに変身しただけじゃないか……」
思い出したのか、アスカはげんなりと顔をしかめた。
「かれーたべたーい」
「……カレーか」
カレーの話題が出たおかげか、カレーが食べたくなった三人。カレーなら人数増えても大丈夫。今夜はカレーになりました。
「じゃがいもー」
「にんじんー」
「たまねぎー」
エリナが一人で歌っている。
「お肉は何にしようかな」
「にんじんは、おほしさまがいいー!」
「お星様か、わかった」
「サトシくん、よろこぶかなー?」
エリナは空を見上げた。まだまだ空は明るいが、もう、夕方の四時である。急がないと夕食が遅くなってしまう。だが、エリナの心は、サトシと一緒にご飯が食べられる楽しみでいっぱいだった。