nameless bird
「ブッポウソウはブッポウソウとは鳴かないんだよ」
『すいません。ブッポウソウってなんですか?植物ですか?』
「確かに、植物だったら鳴くわけないよね。鳥だよ。ブッポウソウって鳴くから、ブッポウソウって名前になった鳥だ。」
『さっき、ブッポウソウはブッポウソウって鳴かないって言ったばかりじゃないですか。』
「そこなんだよ!実は、ブッポウソウって鳴くのはミミズクなんだ。」
『へえ、そうなんですか。まあ、ミミズクがミミズクって鳴いても気持ち悪いですけどね。』
「君は、すべての鳥の名前の由来が鳴き声だと思っているのか?まあ、そんなことはどうでもいい。大事なのは、ブッポウソウの鳴き声だと思われていたのが、実はミミズクのものだったということだ。」
『はあ。』
「ブッポウソウという名前は、鳴き声から名付けられた。けれど、それはミミズクのものだというのが後になって判明した。つまり、その『ブッポウソウ』と名付けられた鳥が『ブッポウソウ』であるためのアイデンティティが失われてしまったんだ。」
『そんなことないですよ。私たちが勝手に名前をつけただけで。その名前を失った鳥も、アイデンティティは失われてなんかいないし、そんなこと気にしていませんよ。』
「・・・・・・君はつくづくつまらない人だね。作家には向いてないな。大事なのは、ブッポウソウがアイデンティティを失って悲しんでいるかどうかじゃなくて、そこから物語が生まれそうだということじゃないかね。」
『そうですか。だったら、早く新作を仕上げてくださいね。そのブッポウソウの物語を書くためにも。』
「やれやれ。何のために私が君にこんな話をしているのか、分かってくれないのか。」
『私は書きませんから。』