クラスの立ち位置
いつもありがとうございます。
今回はとっても遅くなりました。ごめんなさい。
お盆が過ぎればあっという間に夏休みは終わる。
しかし、まだまだ暑い日が続くのだろう。
始業式のあとは、ホームルームである。文化祭のクラスの出し物を決めるらしい。
この学校では、三年生のクラスは自由参加であるが、一、二年生はクラス参加は必須である。あと一ヶ月はあるので、よほどの物でない限りは何とかなるだろう。文化部所属の者は部を優先するため、運動部所属の者が中心となる。恵輔の場合は、生徒会役員だからといって除外されたりはしない。何をやるにしても忙しくなることは決定だろう。
恵輔は窓側の一番前の席でぼんやりとしていた。
「じゃあ、喫茶店に決定しました。実行委員会に審査にかけますが例年通り競争率は高いと思われます。なにかテーマを決めた方が企画が通りやすいと考えられます。何かありますか?」
クラス委員が壇上でいうと、何人かが手を上げた。
「今流行のメイド喫茶は?」
「いや、執事で決めた方が客が入りやすいと思う。」
「両方やれば?」
「衣装よりも味にこだわった方が」
「文化祭で出せるメニューなんて限られているだろ。」
わいわいとそれぞれが勝手に話し出したところで、恵輔は手を上げた。
「学校側からの注意事項はどうなっていますか?」
良く通る声に、潮が引くようにクラスが静かになる。
クラス委員が慌てて手元の紙に目を通す。
「えーと、服装については『華美にならず、学生らしい物を着用のこと』です。たぶん、メイドの衣装は露出が多い物は却下になるかと思われます。あとは、当日の調理は教室では不可のようです。飲み物の用意については許可された場合のみ可能です。」
「えぇー!!」
クラスの何人かから不服の声が上がった。
「せっかくの文化祭なのにぃ」
恵輔はすぐ目の前にいる担任教師に目をやった。
教師もこちらを見ていたため、目が合う。クイと顎で指図された。少しむっとする。
恵輔はカタリと椅子をさげて、立ち上がる。
視線が集まった。
「生徒会の見解です。数年前の文化祭当日に一部の女子生徒が、外部から来た人に絡まれて警察を呼ぶ騒ぎになった事がありました。服装についての注意事項は、それが理由と思われます。また、教室内での調理禁止については、他校において食中毒を発生させたことがあるためではないでしょうか。ついでに言えば、教室内は当然のごとく火気厳禁になっています。先生、付け足すことがあれば、どうぞ。」
恵輔が担任にだけ判るように口端をあげると、担任は苦虫を噛みつぶしたような表情を浮かべた。
面倒だからといって一人で部外者のような顔をしているからだ。
恵輔が元通りに座ると、担任は教卓に近づいた。
「あー、学校側からの注意事項の理由は四条の言うとおりだ。楽しい文化祭に水を差すことは避けるべきだろう。ちょっとした注意でトラブルを避けられるのなら、それに超したことは無い。そういうことだ。クラス委員続きを。」
担任は恵輔の目の前のパイプ椅子に腰を下ろすと、だらしなく足を組み、恵輔の机に肘をかけて頬杖をついた。小声で話しかけてくる。
「四条、お前は何か案は無いのか?お前が云えばそれで決まりだろ。おれ、長引くのは嫌なんだけど。」
「……先生は僕をなんだと思っているんですか?」
恵輔は呆れたように苦く笑った。
「んー、このクラスのドン?」
「……何ですそれ?先生こそ、経験で何か提案してください。」
「俺がコウコウセイだったのって何十年前だと思っているんだ?今時の若者が何を求めているかなんて解らないって。」
恵輔はクスリと笑った。
「何十年って十年もないでしょう、二十六歳なんだから。それに見かけましたよ、銀座のライオン像の近くでお茶してましたね。噂の……」
言葉を止めたのは手で口を塞がれたためである。教室の中はワイワイと話し合いが進み、こちらに注目している者はいないようである。
担任は手を外すとさらに小声で尋ねてきた。
「……誰かに話したか?」
恵輔は首を振った。
夏休みに偶々東京で母親の買い物に付き合っていたときに、担任教師とその恋人らしき女性が一緒にいるのを見ただけである。その女性はどう見ても二十歳を越えているようには見えなかった。「高校生と付き合っているらしい」という噂は夏休み前から聞いたことがあったが、本当の事とは思っていなかったので、かなり驚いたのである。
「話す訳無いでしょう。人の秘密を話したりしたら、信用を無くしますから。」
ホッとしたように息を吐く担任を見つめた。
「まあ、コーヒーぐらいはごちそうしてくれるんですよね。」
悪戯っぽく笑うと担任は恵輔の額を小突いた。
恵輔はクラスの中でも一目置かれています。
クラスのドン……陰の実力者のような存在?
一部修正しました。




