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体育祭

いつもありがとうございます。

今回は少し遅くなりました

 歓声が校庭いっぱいに響く。空は梅雨時らしくどんよりとしているが、色分けされた鉢巻とつけた生徒達はそんなことは気にしていない。目の前の競技に夢中である。

 この高校は中間試験と期末試験の間に体育祭が行われる。各学年そろって8クラスあるため、各学年2クラスずつで4色に分かれ点数を競うことになる。1年生は各クラス男女比が同じため、1・2組、3・4組という組み合わせだが、2年以上は選択科目によって男女比が異なるため、合計の男女比が同じになるように組み合わされる。鉢巻の色は紅・白・青・緑である。

 恵輔は来賓テントで三年の大塚美波書記と一緒に来賓者にお茶を出していた。毎年、生徒会役員は交代で来賓対応に当たっているためだ。日頃は女王様のような大塚だが、黙っていれば目の保養になる事は間違いない。『光源氏』の恵輔と二人でお茶を勧めれば、皆相好を崩してしまう。

 --……に参加する生徒は入場門へ集合してください。繰り返します……--

「あ、私行かなくちゃ。」

 放送を聞いて紙コップを片付けていた大塚が顔を上げた。恵輔はペットボトルをつぶしながら、行くように促した。

「頑張ってくださいね。あ、でも青組には負けてくださいよ。」

「青組だけには勝ってやる!」

 しれっと不遜なことをいう青の鉢巻をしている恵輔に向かって、言い返して笑いながら大塚は紅の鉢巻を翻して走り去った。

 

 片付けを終えてクラスのところに戻ると、同じクラスの薫が次の競技のためにその場を離れるところだった。

「あれ、もうクラスリレー?」

「ちげーよ、騎馬戦。うちの青組、今最下位だぜ。やっぱ生徒会長のいる紅組、強すぎだぜ。」

 肩をすくめながら、同じく騎馬戦に参加する男子生徒達とその場を離れていった。

 見送った恵輔は得点表を見上げる。確かに、今は紅組が一位で青組は最下位であった。

「恵輔、接待終わったか?」

 話しかけてきたのは、崇一である。二年五組の恵輔と七組の崇一は偶然同じ青組になった。崇一の彼女の範子は残念ながら緑組である。

 二人で一番後ろの椅子に腰を下ろすとチラチラと視線を感じた。遠巻きにしている女子にヒラヒラと手を振る崇一を横目で見て呆れる。

「相川に言いつけるよ。」

「範子はこんな事で慈愛の微笑みを崩さないよ。」

 のろける崇一に恵輔は頬杖をついて、クスリと笑う。

「心の中じゃ泣いてるかもよ。」

「大丈夫。俺の愛情でいつでも包んでいるから。」

 意味が良く解らない。が、少しうらやましいと思う。視線を校庭に向けると綱引きが終わり、騎馬戦が始まるところだった。サッカー部のエースの薫が騎手になっているのが遠くに見えた。

 騎馬戦は紅白戦である。青組は白組になり、緑組は紅組になる。紅組の対象は柏木生徒会長である。一方の白組は同じく三年生の生徒会役員の渡辺彰会計である。この人は派手ではないが、柏木と同じくらいにスポーツ万能であったりする。バレーボール部のレギュラー選手でもあるのだ。顔も平均以上だろう。ただいつも一緒にいる生徒会役員達が飛び抜けた外見のため、一見地味で大人しく見えるだけである。


「だー!!紅組強すぎたっつーの!反則の強さだぜー!」

 薫がクラス席に戻ってくると叫んだ。一緒に戻ってきた騎馬戦組は皆頷いている。

 騎馬戦では、薫自身は渡辺大将と一緒に最後まで残ったのだが、鉢巻きを取られないようにするので精一杯であり、紅の鉢巻きは一本しか取れなかった。白組が大将以下三騎しか残らなかったのに対して、紅組は大将を含めて八騎が残った。二回戦って二回とも同じ結果である。

「まあ仕方ない、無敵会長だからね。」

 ポンポンと恵輔は薫の肩を叩いた。

「そうだよな。会長はリレーに出るのか?」

「いや、確か出ないよね、崇一。」

「あぁ、前に陸上部の手伝いをしたからって聞いたな。」

 顎に手を当てて答える崇一に薫がよっしゃぁと拳をあげる。

「何、どうしたんだ?」

 顔を見合わせる二人に薫がにんまり笑った。

 この学校の体育祭では、陸上部員と高校陸上競技会に出場した者はリレー競技に参加は出来ないことになっている。得点に影響するリレー競技は学年ごとのクラス対抗リレーと縦割りの色別対抗リレーの二種類があり、どちらも一位になると高得点がもらえる。クラス対抗リレーの場合はクラスごとに順位が出るので、全ての学年で一位、二位に青組が入れば合計で二百四十点が青組に加算される。色別対抗リレーも一位になれば、百二十点がもらえるのだ。つまり紅組を逆転することもできるのだ。

「幸い、青組に陸上部のは少ないが、俺んとこのサッカー部のように走る部活が多い。期待できるんじゃないか?」

 恵輔は崇一と顔を見合わせた。言われてみれば、その通りである。恵輔のクラスに陸上部は一人もいないが、薫のように足が速い者はそれなりにいた。出場種目を決めるときも、実際にタイムを確認したぐらいである。

「俺のクラスも似たようなもんだな。二年のことしか判らないけど、紅組は陸上部が多いよな。あとは水泳部とバレー部ぐらいか。女子は…。」

「…陸上部が多いよ。あとはバトミントン部とかバレー部みたいだね。」

 赤組の様子を遠目にみて恵輔が言う。遠くからこちら見ている紅い鉢巻きの女子生徒に気付き、嫌な気分になった。

 噂は相変わらず収まらない。今週に入ってから、一度だけ志穂と帰りの時間が一緒になったので、声をかけようとしたのだが、前回と同じように逃げられてしまった。グッと無意識に手を握りしめる。

 絶対に紅組に勝ってやると思った。






一部修正しました。

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