親友
駅前のカフェに制服姿はかなりいるが、恵輔と同じ高校の制服は見当たらなかった。このあたりの高校はブレザーにネクタイという制服は多いが、恵輔の高校は流行のものとは違っていて、上下とも紺色でネクタイは無地の臙脂色である。男女とも同じ色使いの制服で、女子の場合は膝丈のスカートとなっている。色だけ見れば特徴がないことが特徴だ。変わっているところと云えば、ジャケットの襟と袖に光沢のある生地(紺色)でラインが着いているところである。
カフェの窓際に座っている二人連れの高校生を店内にいる女性たちがちらちらと視線を送っている。中には声を掛ける女子高生もいるが、ほとんどは気後れしているようで遠巻きに見つめていた。
一人は茶色に染めた髪でアイドルのような外見をして楽しそう表情を浮かべている。一方のもう一人は漆黒の髪に凛とした雰囲気で少し不機嫌そうな様子である。眺めているだけでも充分目の保養になっている。
店内の視線よりも目の前の親友をどうしようかと恵輔は頭を悩ませていた。
「で、どんな子?いつ知り合ったんだ?」
興味津々の崇一に恵輔は呆れたようにため息をついた。
「なんで、そんなに食い付いてくるわけ?」
「そりゃ、堅物のお前が気にする女だろ。気になるに決まっている。で、名前は?」
ふんぞり返って偉そうな崇一である。恵輔は誰にも云わないことを条件に仕方なく話すことにした。
「名前は内緒だ。学年は一年生。顔はかなり可愛い。身長はかなり小柄だと思う。」
「ちっちゃくて可愛いのか。で、どんな子?」
恵輔は視線をそらして、彼女と話したときのことを思い出す。
「なんだかフワフワっとしていてすごく可愛いし、話していて飽きない。それに、一緒にいると気が楽。」
その回答に崇一はこっそり笑った。今の回答では、その子のことをどう思っているのか、バレバレである。本人は気づいていないようだが……。
このまま色々と聞き出したいところだが、今はそれどころではない。
「話を戻すけど、噂のほうはどうする?」
恵輔は右手の指先を形の良い唇にあてる。それを見て崇一は、何も言わず薄くなったアイスコーヒーを飲んだ。
「…僕が、斉藤に声をかければ、また噂が広がるからね。…だから、無視することにする。」
「いいのか?お前のこと変に誤解する奴もいるぞ。」
眉をひそめる崇一に対して、恵輔はニッコリと笑顔を見せる。
「そんなこと大丈夫。絶対に聞きに来る人はいるからね。一人でいればすぐだと思うよ。」
「でもなぁ、斉藤の奴人気あるし、三年も来るんじゃないか?本当のに大丈夫なのか?」
人の良い崇一が心配そうに恵輔を見やる。彼は口元に笑みを浮かべたまま崇一を見返した。
「直接来てくれた人には、本当のことを言うだけだよ。男子女子とも対応は同じ。噂を流した本人のことなんて僕には関係ない。その後で彼女がどう思われようとね。」
非の打ち所がない笑顔なのだが、漆黒の瞳が全く笑っていない。
個性的な生徒会役員の中で、一番敵に回してはいけないのが、一番温厚な恵輔なのである。ニッコリ笑って清濁あわせて飲みこむことができ、しかも相手が見落としている弱点を効果的な時に一気に攻める、そんなところを持っている。はじめは次年度の会長を見据えて、彼を副会長にという話があったのだが、本人が断ったのと裏の根回しのほうを担当してもらったほうが効果的ということで、書記になった。ちなみに次年度の会長は崇一になる予定である。
「ひとつ、この方法だと問題があるんだ。」
恵輔は視線をコーヒーカップに落とす。崇一は意味もなく前髪をいじりながら、あーそうかとつぶやく。
「斉藤本人が来たときだな。」
恵輔は顔をあげて、頷いた。
「そう、僕が無視をしていても向こうが来たら、噂を打ち消すことにならない。」
再び唇に指先をあてて考え込む恵輔に崇一は、あっけらかんと笑った。
「その時は、噂を流した理由を聞いてみれば良いじゃんか。ちょうどいいさ。」
恵輔は一瞬ポカンとしたあと、クスクス笑いだした。こういうところが崇一に叶わないと思う。物事に対する逆転の発想、思考の柔軟性を見習いたい。
「まぁとにかく、可愛い一年生に誤解されないようにしろよ。気づいたときには勘違いで振られました、なんてことにならないようにな。」
ニヤリとされて、恵輔は慌てる。ほんのり顔が赤らむのはわかっているがどうにもならない。
「な、何を言い出すんだ。彼女はただの後輩だよ。」
「そういうことにしておいてやるよ。俺がいるときに見かけたら、教えてくれよ。」
肩をすくめる崇一に念を押されて、恵輔はしぶしぶ頷いた。志穂にこともう少し秘密にしておきたかったと思い、そう思ったことに首をひねった。




