好き
学校からの帰り道、今日は悶々とした気持ちで家路につきました。
玄関のドアを開けて中に入って靴を脱いで、意識してはやっていませんでしたが、気が付けばランドセルを背負ったままリビングに来ていました。
「お帰り妹ちゃん」
まだ大学は休みらしくリビングのソファの上でねぇねがとても寛ぎながらそう声をかけてくれました。
「ただいまです」
でも、ねぇねが居ることに少し驚いて変な返しになってしまいます。それから何故かキッチンにある椅子に座って本を読んでいたお兄ちゃんからも「お帰り」と声を掛けられます。
それに「ただいま」と返してから思い切って尋ねてみることにします。
「ねぇねは好きなことってありますか?」
とりあえず読書の邪魔をしないようにねぇねに尋ねてみると、ねぇねは首をかしげます。
「あの……えっと……」
それで慌てて何か付け加えなくてはと思い口を開きましたがうまく言葉にすることができませんでした。
ねぇねはすぐにクスクスと笑うと「ごめんね」と謝ってきます。
「急にそんなことを聞いてくるから何かあったんじゃないかなと思ってね」
そう言われて漸く言葉を見つけることができたので改めて口を開きます。
「えっと、学校で貴方の好きなことはなんですかって聞かれたんですけど、改めて考えてみるとよくわからなくて……」
それだけ言うとねぇねは納得したような表情を作り話し始めます。
「そうね。好きな事とか楽しい事っていうのはそれをやっているときに割と無意識になっていると思うんだよね」
ねぇねは一度そこまで言うと少し照れたような顔を見せます。
「私も小説を書いている時なんかはちゃんと考えてはいるんだけど、それでも意識して考えている感じはしなくってね」
「うーん……言葉にするのは難しいな……」とねぇねが言い淀んでしまったところでお兄ちゃんが姿を見せました。
「その理屈で行くと、玄関で靴を脱ぐとか、家の鍵をかけるなんてことも好きな事になるよな」
「ま、そう言われたらそうなんだけどね」
ねぇねの言葉を台無しにするようなお兄ちゃんの言葉でしたが、何故かねぇねも怒ることはなく笑っていました。
時系列<ネタ




