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妹と兄、ぷらすあるふぁ  作者: 姫崎しう
いちねんめ
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嫉妬と信頼

「そう言えば、あーにぃとねぇねはどういった関係なんですか?」


 ふと気になったので聞いてみます。よく考えたらお兄ちゃんの友達というのも初めて聞いた気がしますし。


 話は少しそれてしまいますが、今あたしは何故かねぇねに後ろから抱きつかれるような態勢で座っています。どういうわけでしょう?


「まあ、大学でな」


 お兄ちゃんがそれだけ言うと、ねぇねが笑いながら続けます。


「貴女のお兄ちゃんはね、文芸サークルの体験入部に来てたんだよ」


「おい」


 そういってお兄ちゃんがねぇねの話を止めさせようとしますが、ねぇねは「いーじゃない」と言って取り合いません。それを見てお兄ちゃんが諦めたような溜息をつきました。


「で、私が書いた小説を読んで『先輩ですか?』って聞いてきたから『新入生です』って返したら、ショックを受けたような顔をして出て行って。私はそれが忘れられなくて、ちょっと探してみたら同じ学部でね」


 ねぇねが楽しそうに話します。たぶんお話しするのが好きなのでしょう、聞いているあたしも楽しくなってきますが、内容が内容なだけに複雑な心境です。


 下手な反応をしてお兄ちゃんに嫌な思いをさせないように気を付けなければなりません。


「こっちから話しかけて『あの時の感想聞かせてくれない?』って聞いたらすっごい細かいところまで駄目だしされてね」


「悪かったな」


 この場合感想を聞いたねぇねの方に非があるように思うのですが、どうなんでしょう?


 あたしが首をかしげると、ねぇねがあたしの頭に手を乗せて撫で始めたので、少しだけくすぐったいです。


「でも、それならなんで毎回俺に書いた作品見せてくるんだよ」


「そりゃ、むきになるお兄ちゃんが面白いから」


 ねぇねが笑いながら言うと、お兄ちゃんは深いため息をつきます。むきになるお兄ちゃんというのも想像ができませんが、お兄ちゃんの将来の夢は漫画の原作と言っていたこともありますし、それがまぎれもなく本当だったのだとしたらなんとなくお兄ちゃんがむきになるのもわかる気がします。


 むきになるというよりも『嫉妬』というやつでしょうか?


「お兄ちゃんお腹空いた~」


 急にねぇねが両手を挙げて駄々をこねるようにそんなことを言いました。


 お兄ちゃんの表情が一気に嫌そうになり、今日何度目かの溜息をつきます。


「何が食べたいんだ?」


「おいしいカレー」


「時間かかるぞ?」


「空腹を我慢するのは慣れてます」


 ねぇねの誇らしげな顔を見てお兄ちゃんは諦めたようにキッチンに向かいます。


「あたしも手伝おうか?」


 あたしがお兄ちゃんに尋ねると「いや、いい」とだけ返ってきました。


「無愛想なお兄ちゃんよね」


 お兄ちゃんの姿が見えなくなったところでねぇねが口を開きます。


 確かに無愛想に見えますが、本当はそういうことじゃないんです。だから訂正しようと「あーにぃは……」といったところで、ねぇねが続けるように声を出します。


「本当はたまには妹ちゃんも楽するようにとかそういうことでしょ?」


 正解を言われ黙ってしまいます。


「ねぇねはどうしてあーにぃにお話を読ませるんですか?」


 急にそのことが気になったのでたずねます。


 ねぇねがあたしの頭に顎を載せるのがわかりましたが、体重がかかるころには頬っぺたに代わっていたので痛くありませんでした。


「妹ちゃんのお兄ちゃんはあたしの作品の良い所も悪い所も見つけてくれるから……かな。ほかの人はあんまり批判とかしてくれないし。私は小説家になりたいからね、貴女のお兄ちゃんを利用させてもらってるの」


 ねぇねの声は先ほどまでと違ってどこかお兄ちゃんに対する信頼があって、ねぇねがあたしの知らないお兄ちゃんを知っているようで、少しだけ羨ましくなりました。

誰かを利用し、踏み台にすることもまた勇気だとそう思ったりするわけです。

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