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妹と兄、ぷらすあるふぁ  作者: 姫崎しう
いちねんめ
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出会い

 ある日あたしが買い物帰りに公園の近くを歩いていると、公園のほうから「うぅー……」といううめき声が聞こえてきました。


 初めは少し怖かったのですが、そのうめき声の中に「おなかすいた……」という言葉が入っているような気がしたので、そっと公園の入り口から中をのぞいてみます。


 すると、ベンチで人が倒れていて、うめき声はそこから聞こえてきていたことがわかりました。あたしが恐る恐る近づいてみると、倒れていたのは大人の女の人で「あの……」と声をかけてみました。


「食べ物っ」


「ひゃ……」


 女の人がいきなり起きたので驚いて、変な声が出てしまいました。


 女の人を見ると、獲物を探す肉食動物のような目でこちらを……というか買い物袋を見てきて正直少し怖いです。


 買い物袋に視線を落とし、そのまま食べられそうな食パンを取り出すと少し腰が引き気味に「食べますか?」とたずねます。


 女の人は表情をパァっと輝かせてキラキラした瞳をこちらに向けて「ありがとう」というと、一心不乱に食パンを食べ始めました。


 五枚切りの食パンの約半分に相当する二枚を食べ終わったところで、女の人は食パンの入った袋を返してくれました。それでも、まだ満足そうじゃなかったですが。


「お姉さんはどうしてこんなところで倒れていたんですか?」


 そろそろ話ができそうだと思いたずねてみます。もう先ほどまでの怖さはありません。むしろ、メガネをかけた美人な人で初対面があんな感じじゃなければ憧れてしまいそうなくらいです。


「ああ、そうね。ちょっと友達の家でご飯を食べさせてもらおうと思ってたんだけど、迷っちゃってね。空腹の限界が来てパタリと」


「そうなんですか」


 迷ったということはここら辺の人じゃないんでしょうか? それなら大変だろうと思い


「お友達の家の場所の目印か何かありませんか?」


 とたずねます。お姉さんは「えーっと」と着ていたカーディガンのポケットをあさり始めるとすぐに手を出しました。その手には何やら紙のようなものが握られています。


「ここが住所なんだけど、わかるかな?」


 そういって、渡された紙を見ると見たことのある住所が書いてありました。


「あの……ここ、あたしの家です」





「ただいま。あーにぃお客さんだよ」


 お姉さんと家に向かいながら、お姉さんがお兄ちゃんの知り合いだとわかり内心ホッとしました。でも、少しだけ寂しいのはどういうわけでしょう。


「なんだ、妹よ」


 そういってお兄ちゃんが眠たそうに奥から出てきます。それに対してお姉さんが楽しそうな笑顔で手を振っています。


 お兄ちゃんの顔が露骨に嫌そうな感じになりました。


「そんな奴は知らん。帰ってもらえ」


「せっかくやってきたのに酷いな『あーにぃ』」


「それで呼ぶな。この残念美人」


 お兄ちゃんは面倒臭そうに、お姉さんはとても楽しそうに会話します。


 あたしが、不思議そうな顔で見ていたからでしょうか、お兄ちゃんがはっとしたようにこちらを見て、口を開きます。


「こいつは、同じ大学の……」


「『ねぇね』だよ」


「えっと、ねぇねさん?」


「ううん。ねぇねって呼んで」


 ちょっと変わった名前ですが、呼び捨てでいいんでしょうか? 少し困ってお兄ちゃんを見ると疲れた表情をしています。


「お前、そんな奇妙な名前じゃないだろ」


「何よ、自分はこんな可愛い妹にあーにぃなんて呼ばれといて私にねぇねと呼ばれる資格がないとでも?」


「あー……妹よ。もうこいつのことは好きに呼んでやってくれ」


「あの……えっと……ねぇね……でいいんですか?」


 たずねたけれど、肯定されず代わりに「可愛い」と抱きつかれてしまいました。

世間は狭い

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