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神の娘  作者: くま
シャーリー
5/12

私と変態

 リブラ国の第二王子―――――それが主さまの嫁ぎ先でした。

 髪も瞳の色もどこにでもある茶色、顔立ちも特に特徴のない平凡、強いて挙げるならひょろりと高い身長と笑ったときに見える八重歯が特徴、というレンシェル王子は、それはもう大喜びで主さまを迎えられました。

 まあ傾国、とまで謳われる美貌の姫を得られるのですから、当然でしょう。

 その王子は、リブラ中央軍魔獣駆除…何たら隊の隊長の地位にもあるとか。

 恐らくは貴族や王族にありがちな我侭でお飾りの隊長として就いたのでしょう。

 だって平凡だし。

 私も、恐らくは主さまもそう思っていました。

 けれど実際は、正反対でしたけど。


「クインティアさま、そろそろ座りましょうよ」


 初めて訓練場に足を運んだ日。

 稽古をされる王子を見て私も主さまも言葉を失いました。

 目から鱗が飛び出るようでしたよ、ぴょーんと。

 それぐらい王子はお強かったのです。

 動きがもう、他の誰とも違っていました。

 主さまもあまりの動きの速さ、そしてその美しさに見惚れて声も出ないようでした。

 いつまでも立ったまま眺めておいでなので、私は訓練場の隅に設けられた椅子を勧めました。

 手をお引きしてもぼーっと王子を見つめています。

 これは……ますます王子に対する執着が強まるのでは、と私は思いました。

 何せ嫁いでから今日まで、明らかに主さまの王子を見る目が変わってきているのですから。

 まあ顔は平凡でも、あれだけ誠実で優しくされ、毎日愛をささやかれれば誰でもそうなるでしょう。

 もう、蕩けそうな目で主さま王子を見てますからね。

 切っ掛けはどうであれ、主さまは幸せそうで何よりです。

 その主さまの幸せのため、及ばずながら御助力しようと思い立った私は、通称アルフェッカと呼ばれる彼ら、その中でも副隊長を務める男性に目を止めました。


 ―――――それが、そもそもの失敗でしたわ。


 王子の片腕、とまで言われる副隊長は、それはもう見目麗しい男性でした。

 金の髪、主さまと同じ青い瞳が美しい、そう、主さまと並べば一対の人形のようでした。

 名家である公爵家の二男、と生まれも素晴らしく、剣の腕も素晴らしいとなれば引く手は数多でしょう。

 その彼には、多く居る彼に好意を持つ女性を装えば、近づくのは容易でした。

 性格も悪くないようで、自分に近づく女性に邪見にすることなく、丁寧に対応してくれるので助かりました。

 適当に好意を持っていることを告げ、途中王子の情報を聞き出すため、

「レンシェル王子殿下は、どんな方でしょうか?」

 と話の中に混ぜてみました。

 当たり障りのない話でも聞ければいい、と話題を振ってみたのですが、効果は覿面でした。

 彼は、こちらが引くほどに目をきらきらと輝かせ、


「殿下は本当に素晴らしいお方です!」


 と賛美し始めたのです。

 長いので要約しますと、曰く、驕っていた自分の世界を変えてくれた唯一の人と。

 『見目も生まれも剣の腕も素晴らしい自分は驕っていたが、王子にこてんぱんに叩きのめされてから目が覚めた。仕えるのはこの方しかいない、とアルフェッカに所属する王子を追って自身もアルフェッカに入隊、片腕にまで上り詰めた。』

 1分もあれば語れるこの事実を、彼は1時間近くかけて語ってくださった。

 何これ、何の罰。

 途中、あまりに笑顔を浮かべることが困難になったので、思わず、


「……きもっ」


 と。

 本当に本当に小さく呟いてしまいましたが。

 まさか聞こえるとは思わないじゃないですか。

 あれだけ滔々と王子賛美を続けていた彼は、ぴたりと動きを止め、目を見開いたのです。

「今何と?」

 怖い、怖いよと目を見開いたまま顔を近づける彼に私は、頬を引きつらせました。

「いえ、何も言ってませんよ?」

「いいえ、確かに聞こえたのです。あなたの口から」

「……空耳じゃありません?」

 やばいかしら、と後ずさりながら私はにっこり微笑みました。

 でも彼はそんなことはないと首を振り、じりじりと近づいてきます。

 言った、言ってない、の攻防を繰り返し――――。


「しつこいわね! それ以上近づかないでよっ、このホモ!」


 ……やってしまった。

 ぱん、と綺麗な顔面に両手を突き出して押しのけ、私その場から逃げ出しました。

 はあはあと走って蓮の宮に戻りながら、別の意味で鼓動を速めながら。

 まずいわよね、これってかなりまずいわよね、と。

 だって王子の片腕とも言われる、アルフェッカの副隊長でしかも公爵家の二男を咄嗟とはいえ叩いてしまったのだから。

 これを彼が公言すれば、私だけではなく主さまの評判にも関わるわ。

 どうにかしなければ、と思うのだけれど主さまに相談するわけにもいかないし、どうしたらと悶々する間に主さまは王子と床に就いてしまわれて。

 結局、その夜は眠れるわけもなく、翌朝も早くから蓮の宮をうろうろとしていると……。


「シャーリー!」


 きらっきら輝く金の髪と笑顔。

 何これ、何の罰。 

 昨日と同じことを思い出しながら、私は自分に跪く彼の頭を見つめた。

「どうか私の恋人になってください」

 と。

 おいおい、と誰かに私は突っ込みながら彼のまた長い話を聞く羽目になりました。

 これも要約すれば、曰く昨日の自分を罵った顔と声、そして叩いた勢いに惚れた、と。

 『どうも自分は王子にこてんぱんにやられてから、誰かに叱責されたり罵られることに喜びを覚えるようになった。殴られたりすると尚よし。けれど公爵家の二男で、アルフェッカの副隊長を務める自分を罵る人などそういない。

 君に昨日罵られて、久しぶりに喜びに悶えた。』

 ……やっぱり要約すれば1分もかからないのに、なぜ30分かかるのか。

 兎にも角にもこれではっきりとしました。

 変態が目の前にいることが。


「もう私の目にはあなたしか見えません」


 その目潰してやろうか、と言うのは彼を喜ばせるだけだから、留まることにして私はにっこりと微笑みました。


「お断りしますわ」


 けれどまさかそれにすら悶えるとは思わないじゃないですか。

 以降、私はこの彼に付きまとわれることになりました。 


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