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神の娘  作者: くま
クインティア
1/12

 どこまでも広がる、青空と歓声。

 眩い陽光の中、ひょろりと背の高い相手が身を屈め、日に焼けた顔を近づけてくるのを彼女はそっと目を閉じて受け入れた――――。



 かつて世界が一つの国によって構成されていた頃から数えて早千年余り。

 今では国は十二の国に分割された。

 十二の国は、それぞれが独自の文化を築き、時には国土を巡って争いを起こしたが、かつての国が国教と定めていた宗教を捨てることはなく、十二の国すべてに受け継がれ、それぞれが王都に神殿を置いた。


 ―――――クインティア・セレネは、序列で言えば八番目に当たる神殿、天蠍宮を王都に持つスコーピオウ国の第一王女として生を受けた。

 国の中央に大河が流れる、水に溢れた豊かな国の王女として生を受けた時点で、彼女は誰もが羨む華やかな人生を歩むはずだった。

 しかし、残念なことに彼女以降に王女が生まれなかったことが、王女としての華やかな人生に影を落とすことになる。

 王都に神殿を抱くすべての国は、王族の娘、もしくはそれに近しい娘を『神の娘』として神殿に差し出す約定があった。

 『神の娘』となった者は神殿の内部へと身を置き、外部との接触を断ち、日々を神へ祈りをささげることに費やす。

 そして、一年に一度神へと感謝と次の加護を願う舞を奉納する。

 それは『神の娘』となった者が成人する十五歳まで続けられる。

 彼女らは十五歳となり最後の舞をささげた後は、『人に戻る』と考えられ、王家に戻ることを許される。

 しかし同時に、次に新たな『神の娘』をささげなければならない。

 クインティアは、見事にその代替わりの年に引っかかってしまったのだ。

 彼女の先代となる、『神の娘』は父王の年の離れた妹王女であり、クインティアの叔母に当たる。

 叔母が15歳を迎えたとき、そのときクウィンティアは三歳だった。

 残念ながら彼女以外には王族に『神の娘』の資格を有する娘はなく、両親たちは泣く泣く娘を手放した。

 神殿での暮らしは、贅沢に慣れた王族にとっては過酷なものでしかない。

 大半の何不自由なく育てられていた娘たちは、神殿という薄暗く、質素倹約を信条に掲げるその場所に誰もが嫌気を指し、『人に戻る』ときを心待ちにすると言うが、幸いにもクインティアにとってはそう悪い場所ではなかった。

 三歳、というほとんど何も分からない年に『神の娘』となったお蔭か、質素を掲げる神殿での暮らしにそれほど不自由を感じることもなかった。

 普段は神に祈りをささげ、たまに民衆に向けて神殿が執り行う儀式に参加し、そして一年に一度舞を奉納する。

 大河を持つこの国で行われる舞は、川の氾濫や枯渇が起こることがないよう願いが込められている。

 クインティア自身は、こんな儀式は王や神殿の建前でしかないし、何の意味もないと思っているが、運の良いことに彼女の代では特に大きな水害はなく、『神の娘』としては重宝された。

 しかしそれも十五歳の夏、最後の舞を奉納することによって終わりを迎えた。

 代わりの娘として入った十歳年下の従妹に引継ぎを終えると、誰もがそうするようにクインティアも王家に戻った。

 両親は、取り戻した娘に喜び、これからは何不自由ない生活を送らせると約束したのだった。



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