9話
アリアさん、またいつでもいらしてね。いつでも歓迎するわ。
そう言って、サラリラは優しく笑った。
私はとりあえず頷いておいたが、できることなら二度とここにはきたくないと思った。
ここ、ルイリエンの執務室にくると言う事はルイリエンに会わなければならないから。
私が奴に会いたいと思うときは奴がなにかやらかした時なのだろうから。
私は奴に言いたいことだけ言うと、「では、私は仕事がありますので、これくらいで失礼します。仕事中に突然申し訳ありませんでした。非礼はお詫びします。」と締めくくりほぼ勝手に部屋を失礼させていただいた。
奴の副官であるサラリラにはたしなめられるかもしれないと思っていた私に、彼女は冒頭の言葉を私に掛けると私を見送ってくれた。
奴も変わったやつだが、その副官であるサラリラも少々変わっているのかもしれない。私はそんな失礼な事を考えていた。
この国の人は個人差があるがみな魔力を持っている。魔力はその強さによってランク付けをされる。段階は上はAから下はEまである。
私の魔力は強くて、Aクラスである。
魔力は強ければ、他者から羨まれるが魔力があると言っても、普段の生活には何の役にもたたない。
魔力は戦いの時他者を傷つける刃となるか、怪我を癒す時くらいにしか使えない。
他者を傷つけるか、癒すか。
魔力は他者の生命を左右してしまう。
怪我を癒す魔法は、高度な技だからそれなりの魔力がないと使うことができない。
そして極稀に伝えたいと強く感じたとき、力がうまく働けばその伝えたい相手に伝言をとばすことができるというが、長い歴史の中でその力はだんだんと衰えてきたという。
もはや、伝説でしかない。
その奇跡に近い事を行うことができるとしたらそれはきっとSクラスくらいだろう。
魔力はランク付けをされているが、AからEの階級にあてはまらない強い魔力をを持つ者が数名いるとされ、その魔力を持つ者はSクラスに分類される。
Sクラスのその者たちは国家魔術師として活躍している。
私は目の前に立ちはだかる奴を見てため息をついた。
「今日は何ですか?」
あまり聞きたくなかったが、まあ一応聞いてみた。
「今日は決闘を申し込みにきた。」
「はっ?何、いきなり。」
私の目の前に奴はちょっと見慣れたポケポケした顔ではなく、真剣な顔で私に言った。
私は反射的に眉を寄せる。
「そなたが勝てば一つ何でも言う事を聞く。俺が勝てば一つ言う事を聞いてほしい。」
こいつ、女と戦うというのか、などとは思わない。
いくら家計を支えるためであるとはいえ、私も一応は武官であるのだから。
私はちょっと考えた。私は剣は全く駄目だ。
けれど、魔術なら勝てるかもしれない。
Aランクの魔力は、私が人に自慢できる親からもらった財産なのだから。
そして私が勝ったら、奴に言えばいいのだ。もう私に付き纏うなと。
「いいわ。受けてあげる。何がどう転んで決闘なんて考えにたどり着くのか全く分からないけど、まあ、小さい事は気にしない。そのかわり、魔力勝負よ。私が勝ったらあなたは私に近付かない。それでどう?」
奴は少し考える。
そして、顔を私の高さに合わせて頷いた。
「分かった。それでいい。審判は適当に頼んでおく。」
そういって、彼は来た道を戻って行った。
私はその後ろ姿を見て、自然と浮かんでくる笑みを我慢できなかった。