8話
「もしかして…とは思うの。だけど貴方はよくわからないから。単刀直入に聞きます。最近例の花を買い占めたのは…あなた?」
恐る恐る、私は彼に聞いた。
十中八九彼の仕業であるとはわかっていても、それを否定してほしいと感じている自分がいる。
「…例の?」
彼に説明をしなければならないということにさらに気分は下がる。
私は口にだしたくもなかったが、仕方なく言った。
ちょっと小さな声で。
「…あの私にくれようとしてた…花のことよ。」
彼はちょっと微笑んだ。
「やっぱり欲し」
「欲しくない。」
彼のいきいきとした声を遮ると、彼はちょっと残念そうだった。
「それで、買い占めたの?買い占めてないの?」
私はズンズン迫った。
彼は私の勢いに押されて一歩ずつ後退して行く。
「買い占めた。」
きょとんとした表情で彼は当たり前のような声音で言った。
「どうして!?」
「花は量が多いほうがいいと思って。」
「あなた、あの時そんな大量に持ってなかったじゃない!」
「花束は、第二段と第三段が」
「そんなに花貰ってどうしろって言うのよ!それに今町ではそのお花足りなくなって困ってるんだから!」
「そうなのか?」
「そうなのよ!もう二度と買い占めたりしちゃだめだから!それと、私はいらないけど人にプレゼントするなら花の種類を選びなさいよ!あれはお葬式のときにお供えする花なんだから!」
息継ぎなしに、私は言いたい事を言った。
息は荒いが妙に達成感がある
「そうなのか、だからあの花は君を連想させるのか…。」
彼は小さく何度か頷いている。
納得したような表情の彼を見て私は小さく笑った。
ああ、だめだこのばか男。どうしようもない。
だが一応聞こう。彼の先ほどの一言の意味を。
「それ、どういう意味よ。」
目が据わっていたと思う。人っていらいらを通り越すと冷静になるのかもしれない。私だけだろうか?
横から第三者の笑い声が聞こえた。
私と奴は一緒のタイミングで振り返った。
彼がどんな顔をしているのかはわからないが、私は少なくともかわいい顔はしていなかったと思う。
何せ眼が座ってしまっているのだから。
「ごめんなさい。笑ったりして。」
サラリラ・サラサが綺麗な顔で微笑んでいた。
「だからルイリエン様、私に何を貰ったら嬉しいか聞いてきたのね?」
彼は小さくああ、と頷いた。
私は怒りなんて忘れて、サラリラ・サラサの美しさに目を奪われていた。
遠くから見ていた時もきれいな人だと思っていたけど、近くで見ると迫力がある。
同じ人間で同じ女なのに、どうしてこうも違うのか。
確かに奴、ルイリエン・インブレンバートも整った顔をしているが、中身を知った今となっては素直に褒める気にもならない。
そして、私は気付く。
自分が今とんでもなく失礼なことをしていると。
奴にはいい。
だけどサラリラ様の前で、こんな奴に詰め寄る姿なんて見られたくなかった。
するとサラリラはいきなり変な事を言い出した。
「ルイリエン様が女性に贈り物っていうのはびっくりだけど、それ以上にルイリエン様はそういうお顔もできたのね。私知らなかったわ。」
そういって、優しい目で私と奴を見つめる。
私はどう反応してよいのか分からなくて、とりあえず引き攣った笑みを浮かべておいた。