6話
「………。」
何故彼は無言で花を私に差し出しているのか。
私は一歩後ろにさがった。
しかも、花束の中の花がちらっと見えたが、中身は死んだ人にお供えする花。
彼は、昨日の復讐にきたのだろうか。
「………なにか。」
私は小さく聞いてやった。
本当は彼と話なんてしたくない、どうせくだらない理由だろうから。
「花が好きなのに、昨日受け取らなかったのは、あの花が嫌いだったからだろう?」
いや、違うから。
自分の中で、ちょっとつっこみを入れてみる。
私は溜め息をついた。
この人は本当になんだろう。
普通お供えの花をプレゼントするだろうか?
しかも、彼が言うには好きな相手に。
いや、しない。
普通はしない。
私はある考えにいたり、聞いた。
「何かの嫌がらせですか?」
私は回りくどい事は一切なしに直球で聞いた。
すると、彼はきょとんとした。
そして言うのだ。
「いや、愛情表現だ。」
私は体がプルプル震えてきた。
意味が、わからない。この花を送ることのどこが愛情表現なのだ。
「…何故、その花なんですか…?」
私は恐る恐る聞いた。
「いや、この寂しい印象が君に似ていると思って。」
見ているこちらが恥ずかしくなるようにはにかみながら、彼は答えた。
彼の素晴らしい笑顔は芸術品だ。
そのくらい彼が美しい人であるということは私も認める。だが、彼のその芸術品のような笑顔がさらに私を怒りに駆り立てた。
私には、我慢なんてもう無理だった。
ランが紅茶をすすりながら庭を見た。
日課とはいかないものの、習慣化したそのお茶の時間に、彼女は窓から外を眺めながら言った。
「あれ、今日のルイリエン様頬が赤くない?」
私は紅茶に息をかけて紅茶を冷ましていた。
彼女の言葉に私は、見事にびくついた。
それを目敏く見たランは、あやしく微笑んだ。
「…アリア、あなた関係してるわね?」
私は激しく首をふる。
首を振りすぎて頭がくらくらしたような気がした。
「で?何したの?」
ランは、私の否定なんて軽く無視だ。
私は小さく息をついて、小さな小さな声で言った。
「…殴った……。」
「聞こえない。」
「…グーで殴った。」
「はっ?グー?」
私は顔をあげ手を握り振りかぶって見せた。
小さい声で、こんな風に勢いをつけて彼の頬を殴ったのよ。そう説明をしながら。
ランは、軽く息をはいた。
「あなたね、女ならパーにしときなさいよ。」
ちょっとつっこむ所が違うような気がする。
だけど私はおとなしく頷いておいた。
「次からはそうするわ。」