8 王妃様とお会いしました
ううう、すみませんです。遅くなりました!!
王妃様のためのハーブティーブレンドは、まずはオートムギ大さじ1/2、ジャーマンカモミール大さじ2、レモンバーム大さじ1。
このブレンドは、緊張やストレス状態が続き衰弱してしまった神経を肉体面、精神面両方の疲労回復となるハーブ。
このブレンドだと、不眠や消化器系のトラブル緩和にも有効だから、王妃様も落ち着くはず。
オイルはとりあえずベルガモットの香りを選んでみました。
柑橘系の香りは元気が出るし、あまり嫌いな人はいないだろうから。
あとは、どの香りが今一番好きかを選んでもらうつもりです。
はい、やっと王妃様の元に向かう準備ができました。
誰かさんのおかげで腰抜け状態になり、アーちゃんにはニヤニヤされ、立ち直るのが大変でしたけど。
私、頑張りました。
そして、ついに王妃様と対面してます!
ますが!!
うっわー!
レイ君に似てるー!
ただ、レイ君は太陽のようだけど王妃様は、儚げ美人。
雪の精と呼ばれる理由が良くわかります。
あ、でも目元はアルシェイさんかなぁ。
ディセル兄にはあんまり似てないなぁ。
ディセル兄はもっと気難しい感じで、その綺麗な目には英知があって…なんというか…そう!王子っていうより王様?っていうことはやっぱり王妃様似ではなくて、王様に似てるのかな?
それにしても目の保養です。
こんな癒し系なキラキラなら毎日見たいです!
そんな風に思ってにこにこしていたら、アーちゃんに肘でがつがつ突付かれました
。
…地味に痛いです…
「くすくす。ディセルやレイランドの言っている意味が分かりましたわ。とても素直で可愛らしい方ね。はじめまして、可愛い薬師さん?」
はうあ!
笑顔はやっぱり眩しい!
でも…ソファに腰掛ける姿はどこか儚げで、顔色が悪く見えるのは気のせいでしょうか・・・。
「は、はじめまして。エヴァ・トゥルーツリーです。あの、よろしくお願いします。王妃様」
「エヴァさんね。こちらこそ、よろしくお願いいたしますね。それと…こんな状態でごめんなさいね。わたくしはメルエスと申します。この国の王妃をやっているけれど、貴方とはあの子達の母親として接したいの。いいかしら?」
「は、はい。えと…王妃様…?」
「メルエスと呼んで下さいな。エヴァさん。王妃なんてやっているとね?なかなか名前を呼んでくれる人がいないの。センドリアス様が…ああ、あの子達の父親ね?あの方が呼んでくれないとわたくし自分の名前さえ忘れてしまいそうになるの。だって、皆『王妃様』か『母上』としか呼んでくれないのですもの。…どうかしら?」
「あ、はい。王妃…いえ、メルエス様がそれでいいのであれば。」
「嬉しい。お話相手ができただけでも嬉しいのに。ありがとうエヴァさん」
そっか、そうですよね。自分の名前を呼ばれないのは…結構寂しいものですよね
。
・・・だからこそ、たまに呼ばれるとドキッとしてしまうのです。
仕方ないですよね。
「あ、私ハーブティを用意したんです。よかったら召し上がってください。」
そういうと、タイミングよくアーちゃんがきちんと時間通りに蒸されたハーブティを運んできました。
さすが侍女さまです。
ばっちりなタイミングですよ。
「あら、なんだかいい香り。」
「オートムギ、ジャーマンカモミール、レモンバームのブレンドティです。あの、塞いでいるとお聞きしたので、今日は気分を明るくしてくれるブレンドにしてみたのです。」
「ええ。ほっとするわ。ありがとう。…なんだか皆に気を使わせてしまっているわね。ごめんなさいね。」
「いえいえ。皆、メルエス様が好きなんです。ディセル殿下もレイ様もアルシェイ様も。それから私をここに呼んでくれた皆が。だからいいんです。」
好かれる人にはそれだけの理由がある。だから、心配するのは当たり前なんです。
「・・・ありがとう。エヴァさんはなんだか、ほっとする方ね。まるでハーブみたい」
なんと!最高の賛辞です!
「ありがとうございます。じゃあ、メルエスさまは存分に私に癒されてくださいね!」
「ふふ。ありがとう。ねえ、エヴァさんお聞きしてもいいかしら?」
「はい!」
「あの子達をどう思う?」
「はい?」
え?え?この流れでなんでその質問なのですか?
「えと…」
「最近、あの子達の夢を見るのです。」
「夢・・・ですか?」
「そう。あの子達が今後避けられない難関に立ち向かわなければならないのです。これは決まった未来。でも、今のあの子達にその難関に立ち向かうだけの力があるでしょうか。・・・なんだか不安なのです。大丈夫と思おうとしても・・・どんどん体が重く・・・」
そう言うメルエス様の顔がどんどん曇っていきます。
そうしてその綺麗な目からはらはらと涙がこぼれていきます。
…涙まで綺麗で、見とれてしまいます。
『避けられない難関に立ち向かわなければならない。』それが『決まった未来』
・・・決まった未来なんてあるのでしょうか。
でも、メルエス様は確信しているのです。その夢が、本当になるという事が。
確か、聞いたことがあります。
ロシュラントの王妃様は、先見の力をお持ちだと。
つまり、夢で見た未来は必ず起こると、メルエス様は知っている。知っているからこそ、不安やストレスを抱えてしまうのでしょうか。
でも、これだけは私もはっきり言えます。
「大丈夫です。」
「・・・え?」
「大丈夫です。メルエス様。この国の王子達は、私の目から見ても光り輝いていて、自分自身をしっかりお持ちです。
どんな困難にだって、決して負けません。
負けそうになっても助けてくれる仲間もきっといます。だから、大丈夫です。」
私は、メルエス様が安心するように手をギュッとにぎりました。
すると、メルエス様の強張っていたお顔が、ほっとしたように緩みました。
何度か瞬きし、そして優しい笑顔を見せてくれました。
「・・・不思議ね。なんだか重い呪いが解けたみたい。エヴァさん、あなたに大丈夫と言われると、本当に大丈夫なような気がしてくるわ。ありがとう。」
「私なんかでよかったら、何度だって言ってあげます!任せてください!」
「頼もしいわ。ねえ、今後も一緒にお茶してくれるかしら」
「はい!もちろんです!」
私は、つい嬉しくて返事をしてしまったけれど。
気がつかなかったのです。
それが、いつまで一緒にお茶をするのかということに。
・・・期限がないことに気付かなかったのです・・・。
その後も、メルエス様とのおしゃべりは続きました。
やっぱりディセル兄はセンド王様に似ているらしいです。怖いけど逢って見たいですね!王様。
それと、今度、特別に宝物を見せていただくことになりました。
なんと、3兄弟の女装姿!!
きゃああ!見たい!!!
もちろん、その場にいた侍女様たちとも盛り上がり・・・。気がつけばかなりの時間が経っていました。
そろそろお暇する時間になってしまいました。
「あら、もうこんな時間なのですね。とても楽しかったわ、エヴァさん。本当にありがとう。」
「いえ。お役に立てたのならよかったです!」
「…本当に、お会いできてよかったわ。ずっとね、早くお会いしたかったの。あの子がわたくし達に貴方のことを話した時からずっとよ。こんな形でのご挨拶になってしまったけれど、ずっと言いたかったの。ありがとう」
「え?えっと…いえ…その…」
えっと、どういう事でしょう?
あの子って、レイ君?
それとも…ディセル兄?
話って…いったいどんな話をしたのでしょう…。
「ふふ。これからもよろしくね。エヴァさん。」
私の思考を遮る様に、やんわりと微笑むメルエス様。
『あれ?』と思っていたことを、その微笑で吹っ飛んでしまいました。
恐ろしい微笑みパワーです…。
「はい!メルエス様。また明日。できれば、今日のブレンドのハーブティをもう一度寝る前に飲んでくださいね。」
「ええ。エヴァさん。明日は貴方の事も聞かせてくださいね。今日はすごく気分がよくなったわ。ありがとう。」
「体力が落ちていらっしゃるので、無理は禁物ですよ。では・・・」
「…エヴァさん」
「はい?」
「・・・あの子達の事も…よろしくお願いしますね」
「…はい」
母親の顔をしたメルエス様は、それはそれは美しくて。なんでも言うことを聞いてあげたくなる不思議な方でした。
そうしてなぜか、元気になったメルエス様と共にこの世界の事や魔法のこと、この国の歴史を一緒に学ぶことになり、さらにはメルエス様の着せ替え人形のようにあれやこれやと大変な思いをするのは、そう遠くない未来の話。
そのときにやっと私は気付くのです。
ああ、まぎれもなく、ディセル兄の母上様だと…。
読んで下さって本当だ(笑)なありがとうございます!!
侍女さまが書きやすかった為に今回かなり苦労してしまいました…(-_-;)
感想とかとかお待ちしてます!!