第5話:夢と母の記憶
約1ヶ月ぶりの更新です。…こんな話を待っていてくれる人がいるのかわからないけど、一言お詫びを……ごめんなさいm(__)m
あの日以来、愛は変わったと思う。
部屋に閉じ籠るのがなくなったし、ピリピリしたオーラも出さなくなった。
でも第1に、あたしや父親に接する態度が変わった。
以前、仏頂面で話していたのとは打って変わり、今では明るく笑いながら話してくれる。
そんなこんなで、あたしもちょっと家を出る機会を見失って……。
少しずつ、普通の家庭に近付いてるのかな。
「父さーん、夢ー、また母さんからの手紙が来たよー。」
すっかり明るくなった愛の声。
あたしたちは3人、居間に集まった。
「今度の内容はなんだ?」
真剣な声で言う父親。
「前回のとほぼ一緒。ただ、場所と時間が違ってる。」
そう言った愛に、あたしは手紙を見せてもらった。
「行くか。」
父親はそう言って車のキーを取り出す。
何故か、行動が早い。
あたしと愛もとりあえず荷物を持って、行くことにした。
車で4、50分走ると、周り1面が山に囲まれたところに着いた。
下の方から、川のせせらぎだけが静かに聞こえる。
心地いい、ひんやりした風。
……あたし、ここ知ってる。
一人で先々下りていくあたし。
父親と愛もとりあえず着いてくる。
「ねぇ、夢、この先になにかあるの?」
下りても下りても、先が見えないので、父親と愛は少し不安になったっぽい。
「もう戻ろう。これ以上行っても……。」
そう言う父親にあたしは言った。
「大丈夫だから。もうすぐ見えてくる。あ、なんなら、二人だけ先に戻ってもいいよ?」
二人とも無言のまま着いてくる。
どうやら、暗黙の了解(?)というものを得られたようだ。
更に数分下ったところ。
「あれ。あたしが目指していたもの……。」
まだ少し先にある吊り橋を指してあたしは言った。
愛と父親もその方向を見つめる。
「こんな山の奥にあんな吊り橋があったとはな……。」
「夢も母さんと来たの?ここ…。」
そう。愛が野菜畑に連れてってもらった様に、あたしも小さい頃に母さんに連れて来てもらったところ。
吊り橋まで来るとあたしは更に奥を指して言う。
「この吊り橋を渡って更に行くと、今じゃ廃校になった小学校があるんだって。昔は、この辺りにも何軒か家があったみたい。」
――幼い記憶(6歳)――
「ねぇ、ママ、どこまで行くの?」
不安そうに訪ねるあたしにママは言った。
「あとちょっとで着くからね。夢、疲れたちゃった?」
「疲れたょ〜。ママ、さっきから、あとちょっと。ってそれしか言わないんだもん〜。もぅ歩きたくないょ〜。」
だだをこねるあたしに、ママはなだめ声で言う。
「んー…この先にね、絶対夢に見せたいものがあるの。ね、そこまで頑張りましょ?」
あたしに見せたいもの?
なんだろ。
綺麗なものなのかな?
重い足を一生懸命動かし、ママに付いて行く。
さらに数分歩た。
「……ぅわぁー!橋だ!!ママ、橋があるよ!」
「そうだね。じゃぁ夢、この橋渡ろうか。」
「え…でも、壊れそうだよ?」
「大丈夫。さ、ママの手をつかんで。」
あたしはギュッとママの手をにぎる。
橋は一歩、また一歩進む度にギィギィいって揺れる。
下を見ると流れのはやい川。
すっごくこわかった。
やっと渡り終えた時、あたしの目に古びた建物が映った。
「夢、ここはママが通っていた小学校よ。」
え?ママが?
そう言われて、もう一度よーくその建物を見た。
「……でもママ、ここオバケでそうだよ。」
ビクビクして言ったあたしに、ママは優しい表情で話し始めた。
―――――――――――
正しく言うとね、ここはママが通うはずだった学校なの。
ママがここにいたのはちょうど夢と同じくらいの年。
人がね、いなくなってね、ママは幼稚園に行くかわりに、この学校で一緒に教えてもらってたの。
ここは本当に自由気ままにしていられた。
自分の才能なんて気にすることなく……。
それぞれの個性を大切にしていた。
みんな全然違うのよ。
好きな食べ物も、遊びも、ぜーんぶ。
だけどねみんな一緒に仲よく遊んでいた。
ここで一緒だったみんなは兄弟みたいなものなの。
かけがいのない、家族と同じだったの。
―――――――――――
ママはそう言うと一息おいた。
そして
「愛と夢は姉妹だよね。でも全然違うでしょう?」
「でもママ、みんなお姉ちゃんはできるけど……あたしはできない子だって…。」
ベソをかきはじめたあたしに、ママは真剣な顔をして言った。
「あのね夢、みんながどう言っても夢はできない子じゃないの。……ママ、知っているの。夢が愛においつこうって頑張っていること。でもね、夢にはちゃんと夢のいいところがある。ママは、愛も夢も大好きよ。」
好き?本当に?
ママはあたしが好き?
あたしの頬を生温かいものが伝う。
ママの顔がよく見えない。
わからないけど、わからないけど、なんだか、すごくうれしい。
“…ママはあたしが好き……”
―――――――――――
「ねぇ、“姉さん”、“父さん”」
「え?夢、今、姉さんって………」
なんとなく懐かしい。
“姉さん”“父さん”と言葉にするのが。
……小さい頃はずっとそう呼んでいた。
いつからだろう。
自然とあたしはその言葉を口にしなくなってた。
久々に口にした今、何故か嬉しいと感じる。
戸惑う“姉さん”と“父さん”にあたしは微笑んで言った。
「あたしね、小さい頃はずっと姉さんに追い付こうと密かに頑張っていたんだ。」
その言葉を聞いて二人はさらにびっくりする。
「悔しかったんだよね。姉さんばっか誉められてて。あたしも……って、ずっと思ってた。結局ムリだったけどね。……と言うよりは、母さんが気付かせてくれた。あたしと姉さんは違うってこと。」
二人は黙ってあたしの言葉を聞いていた。
「…忘れていたわけじゃないんだけどさ、意味を取り間違えていたみたい。いつの間にか逃げてたのかな。」
あたしは苦笑気味に言う。
そして、次の言葉は急に明るい声で
「ねぇ、父さん、姉さん知ってる?あの学校、母さんが通うはずだった学校なんだって。すごいよね。」
ソレを見る二人の表情は自然な笑みを浮かべている。
さらにまた、あたしたち親子は、普通の家族に近付いたように感じた。
だけど……まだ母さんからの手紙についての疑問は残っているまま……。
それについては、近いうちにわかるんだけど……。