第4話:愛の気持ち
あたしにしては長くなりました。特に後半、愛の語りだけで軽く原稿用紙一枚いってるんで……(汗
優等生モードじゃない、愛をとくとご覧あれ(笑)
母の手紙が届いてから、ちょうど24時間が経過した頃、あたしは再び家に戻っていた。
居間に、愛と父親とあたしの3人。
父親は昨日よりもさらに真剣な表情をして。
愛は昨日の“ばからしい”という表情ではない。
あたしまで、深刻な雰囲気に包まれてしまった。
ことの起こりは2時間前。
友達のところに戻ったあたしは、“母からの手紙”なんてすぐに忘れていた。だけど、
“タータタラタ タラタタター♪”
軽快なリズムの音楽“手のひらを太陽に”
は家族からの着信音。
この音のため、あたしは“母からの手紙”を思い出さされた。
うざったそうにあたしは電話に出る。
「何?」
受話器越しに聞こえる父親の声は、真剣そのものだった。
「幸からの手紙がまた届いた。」
はぁ?何、ソレ………。
「内容は昨日のものと同じだ。とりあえず、今から行こうと思うから、帰ってきなさい。」
父親はそれだけ言うと、あたしの返事も聞かずに、一方的に切った。
受話器からゎ、もぅ、“ツー…ツー…ツー”しか聞こえない。
“はぁ…”
溜め息をついてから、どうしようかと、自分の荷物を見ているあたしに、一人の友達が聞いてきた。
「さっきの、父親から?」
「うん。」
「最近多いじゃん。なんかあった?」
「いゃ…なんか帰って来いと……。」
「えー、何それ?今までほっといて……帰らないんでしょ?昨日帰ったばっかじゃん。」
「んー……。」
どうしよっかなぁ〜。
確かに、昨日帰ったばっかだし。
でも、母親からの手紙も気になるし…。
………………………………………………決めた。
「あたし、帰るゎ。」
すっと立ち上がり、あたしは言った。
「え?なんで?あんた家族んとこなんて戻りたくないって散々言ってたじゃん。」
すごくビックリした表情でみんながあたしを見る。
なにさ、みんなして。
そんなにあたしが家に2日連続で帰るのが珍しい?
って………珍しいか。
あたし、2、3ヶ月置きに帰るのが普通だったもんな。
しかも荷物をまとめなおすのと、お金をもらうためだけに。
「まぁ、こっちにも色々あるんだよ。じゃ、ね。」
そんなやりとりがあって、今に至る。
自宅から、車で2時間。
目の前に、青々とした野菜畑が広がる。
向かって右が、少し赤みを帯ているから、多分トマト。
左がキュウリ。
真ん中はあの高さと見た目から言ってトウモロコシだな。
「ここは……」
ふと愛が口を開く。
「どうかしたのか?」
あたしと父親が不思議そうな顔をして、愛の方を見る。
「いゃ、懐かしいな。と思って……。」
え?懐かしい?
ここって来たことあったっけ?
なんて思ってる内に、愛はその野菜畑の方に近付いてく。
そして凄く嬉しそうに野菜を手にとり始めた。
(………虫苦手じゃなかった?)
驚き戸惑っている、あたしと父さんをヨソに、愛は野菜畑の中に入って行く。
他にやることも思い付かず、あたしたちも愛の後をついていく。
凄くはしゃいでいる……。
なに?あの笑顔は……。
キラキラ光る野菜よりも輝いて見えるんだけど。
こんな愛は多分初めて見る。勉強している時よりも、はるかに今の愛の方がいい。
と言うよりも、今の方が愛らしいと思う。
「ここね、」
ふと、立ち止まって、静かな声で愛が言う。
そしてまた、言葉を続けて語りだした。
―――私がすごく悩んでいる時に、母さんが連れてきてくれたところなの。
今の私は勉強、勉強だけど、小さい頃は違ってた。
……小さい頃はね、もっと夢みたいに遊んでいたかったの。
だけど、周りが私のイメージを勝手につくりあげていった。
そのイメージは私にとってすごく重荷…だったんだけど、その時の私には、そのイメージを壊す勇気なんてなかった。
そのことで、ずっと悩んでいた。
遊びたいけど、イメージのために努力しなければならない……。
だんだん、自分でもどうすればいいのかわからなくなっていったの。
一番悩んだのは、中学受験をするかどうか。
ふと母さんにもらしてしまった時に連れてきてくれたのがここ。
母さんは何も言わずにこの青々とした野菜畑の中に入って行く。
もちろん、私もそんな母さんの後を追って野菜畑の中に入った。
虫とか、確かに苦手なんだけど、ここだと不思議と平気なの。
母さんが止まったのは、ちょうどこの辺、野菜畑の中心。母さんは静かに聞いた。
「愛自身が受験したくないって言うなら、母さんは止めないよ?」
この言葉を聞いて、私は驚いた。
周りと同様に、母さんも私に受験して欲しいんだとばかり思っていたから。
母さんは続けて
「周りの期待に答えるためだけに受験しよう、なんて辛いだけでしょう?愛自身の気持ちはどうなの?」
母さんは全てを見透かしていたんだ。
その時に私は初めて気が付いた。
いつの間にか周りの願いが私の気持ちになっていたことに。
だから、しっかり自分の気持ちと向かい合って決めることにした。
それでも受験したのは、しっかりとした私の気持ち。
ここで母さんと話した時に思ったのは、自分の気持ちに素直になろうってことともう一つ。
社会の人のために何かできる人になろうってこと。
私が受験した中学は、学力が優れているだけじゃなく、福祉的なことにも力入れていたからね。
でも………いつの間にかそんな気持ち忘れてたな。
今、また気付かされちゃった。
勉強して、勉強して、有名大学に入れればいい。
なんて、周りの環境に流されちゃってたんだね。―――
そこまで言って、ようやく愛は一息ついた。
愛の表情は、なんとも微妙な感じ。
懐かしいようで、どこかこう、思い遣れないような……。
それにしても、愛がそんなことを悩んでいたのは知らなかった。
多分父親もそうだな。
なんとなく、切な気な表情で愛を見ている。
父親として、そんな愛の気持ちに気付いてやれなかったという、悔いる思いからかな。
あたしも周りの一部として、愛の外側しか見れてなかったことを反省した。
そんなあたしたちを見て、愛が笑って言った。
「何しけた顔しちゃってんの?だいたい、弱かった私がいけないんだから。これから私、学歴よりも勉強よりももっと大切なもの見付けるんだから。そんな顔して、私の運気を逃がさないでよね。」
今までとは、一味違う愛。
その姿はすごく希望に満ち溢れて、輝いて見えた。
ここまで読んでくれてありがとうございましたm(__)m