物語設定資料販売店
いつも、何もかもうまくいかなかった―
貧しい家に生まれ、しばらくして両親は両方ともいなくなってしまった。
家も失い、財産もわずかしか残らず、明日の生活も見えない状態。
スラム街で暮らし始めてもう10年、奪い奪われ、殺し殺されそうになる毎日。
もう、希望なんて無い。いっそのこと、このスラム街で死んでしまおうか。
少年がそう思って塞ぎこんでいたとき、彼女は目の前に現れた。
同じ年くらいの、黒い髪と黒い瞳、そして黒と白のコントラストが不思議な印象を持たせる衣装の少女。
「君は……誰?」
少年は、突如現れた少女に問いかける。
「私?私は、あなたたちが言うところの悪魔」
ここから、少年と悪魔の少女の物語は始まった―
「という物語なのでふ」
ややぽっちゃりとした、ワンピースに白い前掛けをした店員カルチェは、「悪魔と少年の物語」と書かれた、手元にある設定資料集を元に、やってきた客の男性に説明を行った。
広々としたこの空間は、木で出来たテーブルの上に出されたコーヒーの香りで満たされている。スーツ姿の客の男性は、そのコーヒーに口をつけながら説明を聞いていた。
「確かに、ファンタジーとしてはなかなか面白そうだね。『悪魔がいるから不幸になる』のではなく、『不幸があるから悪魔がやってくる』という設定も面白いね」
「そのほかにも、キャラクターの設定や時代の設定、そのようなことになったいきさつ、その結末などの設定も各種取り揃えているのでふ。全50ページ、これで1冊分くらいはかけると思うのでふが、どういたしまふか?」
客の男性は、コーヒーカップをコースターに置くと、静かに考え始めた。
「……そうだな……締め切りまであまり時間もないし……。そのネタ、購入するとしよう」
「まいどあり、でふ♪」
カルチェは手元の資料を片付けると、奥から別の書類を持ってきた。
「こちらが購入契約内容と、契約書でふ。よく読んで、こちらにサインしていただきたいのでふ」
カルチェが書類を渡すと、客の男性はその書類に目を通した。
しばらくして、胸元のボールペンで契約書にサインを行った。
「はい、これで契約は完了でふ。代金は、連載確定後に引き落としをさせていただくのでふ」
「助かったよ、ちょうど小説のネタに困っていたからね」
男性は書類をかばんにしまい、店を後にした。
「あなたの幸せ買い取ります」
店の入口につるされた、青地に白い文字の看板の下に、さらにこんな看板がぶら下がっている。
「私の物語、あなたに売ります」
なんとも不思議な言い回しだ。
もともとこの店は、人の幸せを売り買いする「幸運販売代行店」というとんでもない店であるが、経営している店員の趣味が講じて、様々な副業を行っている。
そのうちのひとつが、「物語の設定を売る」というものである。
世の中には様々な小説、漫画、ドラマ、アニメ、演劇などがある。
すべてに共通することは、「物語がある」ことである。
その物語の中には、さらに様々な要素が含まれている。
たとえば物語のコンセプト、登場人物の設定、時代の設定、場所、目的、結末……
物語を構成する上で、これらは欠かせない設定であると同時に、物語の作者を悩ませるものの一つである。
小説一つ書くにしても、これらが決まらなければ、どんなに文章力があっても話が出来ない。
そんな、作家たちの悩みの一つを解消するのが、この店である。
ここでは、物語のコンセプトから、そのコンセプトに合った登場人物や場所の設定などを、「設定資料集」の形で販売しているのだ。
「物語設定資料販売店」といったところか。
ちなみに先ほどの「悪魔と少年の物語」のあらすじはこんな感じである。
生きる希望を失った少年の前に、謎の少女が現れた。
彼女は、人間が言うところの「悪魔」である。が、一般的なイメージである、「悪魔がいるから不幸になる」という存在ではなく、不幸から発せられる負のエネルギーを得るために悪魔がやってくる、というものだ。
彼女は「死」という究極の不幸がどのような味なのかを知るために、負のエネルギーを放出し続ける少年と共に行動をする―
客の男性が帰った後、カルチェは店の奥にある事務所に顔を出した。
「とりあえず、1つまた売れたでふ」
「フフ……また私の才能が一つ売れたってわけね」
不気味な笑いで事務所の机に座り、原稿となる紙を見つめる、背が高く、すらりとした体型の持ち主は、カルチェの姉、アティカである。
「幸運販売代行店」を行っているときは主に姉のアティカが接客、妹のカルチェが経理担当なのだが、「物語設定資料販売店」のときはアティカが主に商品を作成しているため、カルチェが接客を行っている。
もともとアティカは物語の設定を考えるのが得意だったらしく、小さい頃から様々な設定をノートに書き溜めていたのだ。
それをつい最近、幼馴染の男性に見せたところ、そのアイデアを元にした漫画が、なんと大ヒットしてしまったという。
そこでアティカは思った。「このネタを売ったら商売になるのでは?」と。
それ以来、「幸運販売代行店」で接客を行いながら、その間に思いついたネタを片っ端からノートにメモしていったのだ。
すると、何故かそれを見たカルチェが、翌々日くらいにパソコンで見事なまでの設定資料集として完成させているというのだ。
「あんた……これは売れるわよ!書店で販売しましょ!」
「何で書店なのでふか?しかもだれか1人使ってしまったらもうそのネタは使えなくなってしまうでふよ?」
何故か表紙まで普通の本のように加工されているその設定資料集は、恐らく書店に並んでいても不思議ではないくらいの完成度を誇っていた。
一体、どうやって加工して一冊の本に仕上げたのかは不明である。
こうして出来た設定資料集は、「幸運販売代行店」の傍ら、ひっそりと販売されることになった。
最初に来た客は、全く売れない漫画家であった。
「もう、次にいいネームがかけなければ、連載は諦めろって言われているんだ!助けてくれ!」
そういわれて、ちょうど最初に出来た設定資料集の説明を行い、その漫画家に売ったのが最初の売り上げである。
その設定を使った漫画は、もともと定評があった画力もあり、現在では大人気の連載漫画となっている。コミック第1巻が発売されたときには、その漫画家がコミックを持って泣きながらお礼をしに来たくらいである。
「あのときのタイトルは、確か『夢工場のお仕事』だったでふか?」
「そうそう、当たり前のように見ている夢だけど、実は夢の世界でも政治をしたり、商売をしたり、工事をしたりしている人がいて、みんなが安心して夢を見ることができる、って設定だったかしら。 小学生の頃に作った設定だから、結構いい加減だったのよね、あれ」
そのときの販売価格は、一万五千円。一つの設定で大ヒットを飛ばせ、好きな仕事が続けられる上に大きな収入が得られると考えると超破格の値段だ。
以来、何人かの小説家や漫画家がその設定資料集を買って行ったが、それらの設定を使った小説や漫画はすべて、ベストセラーになったり、長期連載されたりしている。
それらの作品は、すべて店頭の本棚においてあり、客も読むことが可能である。
しかし、大ヒットを飛ばせる凝った設定が出来るのであれば、その設定を使って小説なり漫画なりを書いたほうが早いのでは?と思うかもしれない。
実際、アティカもその設定を使って自分で小説を書いたことがある。
……が、その小説の冒頭は以下のようなものだ。
【限定カラオケサバイバル】
今の世の中、様々な娯楽施設がはびこっている。その中でもカラオケという物は、暇人たちが暇をもてあますための道具として使用しているものだ。
そして、そのカラオケという名の世界を、とあるゲームに使用しようという悪の組織が現れていた。
時刻は12時。悪の組織の一人が呟いた。
「これから始まる……楽しいゲームが……」
カーテンを開け、そこから見下ろすと、舞台となるカラオケルームが見える。そう、ここが"ゲーム"の舞台なのだ。
「くっくっく……これから楽しもうと思っているところ申し訳ないが……ゲームを開始させてもらおう」
男はそういい残すと、自室のドアを開けた。窓から差し込む朝日が、ゲーム開始の合図を知らせる……
この冒頭文を読んだカルチェは、そこだけで頭を抱えてため息をついた。
「どう?私の力作は」
「どこから突っ込んでいいか分からないでふ」
そういわれて、アティカはすこしへこんだ。
「とりあえず、カラオケに行くのが暇人みたいな書き方になっているのはどうかと思うのでふ。そして突然出てきた何のためかわからない組織。でもって、12時が深夜なのか昼間なんかも分からないし、次のシーンでもう朝日が出てきてるしで時間軸もぐちゃぐちゃでふ」
などと、突っ込みどころを列挙した。
「な、ならばあんたが書きなさいよ!」
「フッ、私の文章力をなめてはいけないでふよ?」
そう言うと、カルチェは設定資料を持って机に向かった。
そして一時間後……
「できたでふ」
「どれどれ?」
アティカは、カルチェが書いた小説を読んでみた。
「……私と大して変わらないのでは……?」
「だから言ったでふ。私の文章力(のなさ)をなめてはいけないと」
要するに、二人とも文章力が壊滅的なのである。
設定はかなり凝って神がかっているものの、それを文章にしようとすると、時間軸やら言い回しやらが意味不明なことになってしまう。
「うーん、カラオケの選曲を、アーティストで限定させて、それで歌えなくなったら抜けるっていう発想はよかったのでふが、どうも文章にして話を進めるのは難しいでふね」
「まあね。選曲カードとか、実際作ったら面白そうなんだけどねぇ……まあ、つまりは材料を料理する人次第ってことかしら」
ここでの設定はかなりの完成度を誇る。この設定を生かせるかどうかは、物語を描く作家自身の腕次第となる。
いくら設定が凝っていても、話を進める能力や語彙力が無ければ、その設定の面白さがなくなってしまう。
そのような能力は、いろんな文章を読むことで身についていくものだが、この姉妹にはそういったことに興味がないようだ。
チリンとドアのベルが鳴った。客が来たようだ。
「いらっしゃいでふ。今日はどんなご用事でふか?」
チェックの上着にデニムといった、ラフな格好をした男性客だった。カルチェは、その男性客をテーブルに案内すると、コーヒーを淹れて差し出した。
「今度新しいホラー小説を書こうと思っているんだが、何か良いものはないかなと」
「ホラーでふか……少々おまちください、でふ」
カルチェは、アティカがいる事務所のほうへ向かった。
「お姉ちゃん、ホラーの設定ってあるでふか?」
「ホラー?うーん、だったらこの前作ったこれはどう?」
アティカが1冊の設定資料集を取り出し、カルチェに手渡した。
「……"自傷悪魔"でふか。お姉ちゃんは悪魔が好きでふね」
「まあ、私自身が小悪魔だからね♪」
「……あんまりいい意味じゃない気がするでふが……。しかもこれって、ファンタジーか何かじゃないでふか?」
「こういう設定は、書く人によってはホラーになりうるのよ。さあ、さっさと持って行きなさい」
あきれながら、カルチェは設定資料を持って接客室に向かった。
「……なんと言うか、ありきたりな設定な気もするのだが……?」
「まあ、小説世界では、表現やネタがかぶることがよくあるでふ。ホラーともなると、つまりは怖いと思わせることが重要なのでふね」
"自傷悪魔"は、一応ホラーの設定で作ってある。
自分を傷つけたいという衝動は、ネガティブな思考が生み出す悪魔がやっていることである、というような感じの話である。そこから、悪魔が実在化してしまい、自傷行為を行う人が増加してしまうという。
「ただ、そのあらすじを聞く限りではどうも先が読めてしまうのだが……」
「詳細は、この資料集にあるのでふが、契約していただかないとこれ以上詳しくお話しするわけにはいかないのでふ」
「そうかい、じゃあとりあえず今日は帰らせてもらおうか」
荷物をまとめ、男性客は扉を開ける。
チリン、という扉のベルの音が鳴り、すぐに男性客は姿を消した。
「ああ、またあの人か」
「そうでふね。どうやらネタだけを回収しに来ているみたいでふ」
設定資料集を買わずとも、あらすじだけは聞くことが出来る。もちろん、そうしなければ、どのような物語かが分からないからだ。
しかし、「ならばあらすじだけ聞けばネタが回収できるのでは?」と思う人も出てくるのだ。
実際そのような人を3人ほど見た。
……が、あらすじを聞いただけでは何故かきちんとしたストーリーが組み立てられないようなのだ。
簡単に言うと、家の絵を見ただけで、材料をそろえて自分で作ろうとしているような状態だ。
どのような物語が描かれるかある程度想像できるものの、きちんとした設定がうまく出来ず、話が進まなくなってしまう。
そもそも、物語の設定が出来る人ならば、わざわざこんなところに来たりしない。そういう人は、ネタにしても普段の出来事などから作り出すことが出来る人であることが多いからだ。
また、この設定資料集のネタを用いて何かを出版した場合、その出版社から連絡が入る仕組みとなっている。基本的に設定資料集は唯一無二の存在であるため、物語を読めば一目瞭然だ。
契約方法、出版した際の契約料など、どのようなシステムになっているかは社外秘だ。
「まあ、私くらいの設定能力が無ければ、所詮アイデアだけってことね」
「文章能力がなかったのがとんでもないがっかりでふがね」
数時間後、再びチリンとドアのベルが鳴った。
「こんにちはー、この前頼んでいたもの、出来てる?」
来店者は、若い男性だった。
「こんにちはでふ。あ、この前の資料でふね。少々こちらでお待ちくださいでふ」
カルチェがテーブルに案内し、男性を座らせると、アティカがいる事務所に向かった。
「お姉ちゃん、この前お願いされてた物語の設定、取りに来ているでふよ?」
「ああ、アレね。その引き出しの中に入ってるわよ」
アティカが指差した先にある引き出しを見ると、「物語設定依頼分」と書かれている。
カルチェが引き出しを開けると、"スイートドリーム"という表紙の設定資料集が置いてある。
それを持って、カルチェは客の待つテーブルに向かった。
「お待たせしましたでふ。こちらが設定完了の資料でふ」
若い男性は、待ってましたとばかりに設定資料に目を通した。ページをめくる手が徐々に早くなっていく。
「おお、これなら次の展開が進みそうだ。ありがとう!」
「いえいえ、また話に詰まったらいらっしゃってくださいでふ」
荷物をまとめると、満面の笑みを浮かべ、男性客は資料を持って帰っていった。
それを見届けると、カルチェは事務所に戻った。
「とりあえず、満足してもらえたみたいでふ」
「ああ、あの話って、結構設定作りやすかったわ」
"スイートドリーム"。現実で見る夢は、なんとも甘く切ないものだ。
夢を見ることは誰にでも出来る。だが、叶えることとなると、本人のただならぬ努力が必要だ。
そんな砂糖のように甘い夢に向かう、少女の物語。
「何で主人公が男性だったのかなぁ、とか思ってね。少女にしてみたわけ」
「……主人公変えちゃだめでふよ」
「いや、話が全然出来てなかったみたいだから。ほら、少女って夢見がちじゃない?」
「そんなもんでふか?」
当初は中年男性が主人公で、この歳になって夢を追いかけよう、というテーマだったらしいのだが、あまりに話が進まないので主人公を少女にし、中年男性はサブキャラクターにしたのだ。
その他、その少女の設定、中年男性の設定なども、主人公が少女のほうがやりやすかった、とのことらしい。
「あんまり大きい設定いじっちゃうと、大変なことにならないでふか?」
「案外、そうでもなかったりするのよ。大元の設定を変えても、全体の流れは変わらなかったり。逆に、大元の設定を変えることで、物語がスムーズになることだってあるのよ」
「ふぅん、そうなのでふか」
ちなみに、この"スイートドリーム"というのは、先ほどの若い男性客が、物語の設定を"依頼"したものである。
もともとのアイデア、簡単な設定がある場合、そこに肉付けを行って設定を完成させる、というサービスも行っている。
自分で設定を行ってはいるものの、途中で話が進まなくなってしまった、という場合に利用している人が多い。
「お姉ちゃん、コーヒーでも飲まないでふか?」
仕事が一段落付き、事務所を訪れたカルチェが、淹れたてのコーヒーをアティカの前に差し出した。
「お、ありがとう~♪ちょうど休憩しようと思ったところなのよね」
淹れたてのコーヒーの香りが、部屋に充満する。アティカは、その香りを楽しみながら、カップに口をつけた。
「そういえば、お姉ちゃんに出来ない設定ってあるんでふか?」
ふと、カルチェは疑問を口にした。
今まで様々な設定をつくり、資料としてまとめてきたが、どんな物語にも完璧な設定を施しているように見えた。
では、アティカの作れない設定というものはあるのだろうか?
カルチェの質問に対し、しばらく考えた後、アティカは答えた。
「うーん、そうねぇ、そういえばあんたがいないときに、こういうことがあったわね」
今からおよそ、一ヶ月ほど前のことである。
カルチェが買い物に出かけ、アティカ一人で設定の作成を行っていたとき、一人の男性老人がやってきた。
「あら、いらっしゃいませ。今日はどのようなご用事で?」
「もうこの歳じゃから、せめて一つ何かを残したいと思っての……こんな小説を書こうと思っているところなのじゃが……」
老人は、1枚のメモを渡した。箇条書きで、ある程度の設定が書かれている。
「それで……ここは物語の設定を作ってくれると聞いて、お伺いしたのじゃが……」
「物語設定のご依頼ですね♪では拝見させていただきます」
アティカは、そのメモに目を通した。
物語は単純で、一人の少年がいろんな経験を積み、成長していく姿を描いたもの、ということのようだ。
どうやら時代はかなり昔で、舞台となるのは近くに存在する集落のようだ。
これらの設定を読んで、アティカは静かにメモを置いた。
「どうでしょう?どうにかうまく設定が出来そうじゃろうか?」
「……これは、お客様自身で設定を考えたほうが良いのでしょうか?」
ふと口にしたアティカの言葉に、客の老人はきょとんとした。
「そ、それは一体どういう……」
「この物語を作るに当たっては、私が設定できることは恐らく無いでしょう。お客様が思っていることを、素直に書いたほうが、私はすばらしい作品が出来ると思います」
そういうと、アティカはメモを老人に返した。
「そうですか……では、もう少し考えるとしましょう」
残念そうな顔をして、老人は店を後にした。
「どうして、そのお客さんの依頼を受けなかったでふか?」
「そのメモ、どうやら自分の生涯のことを記録しているみたいだったのよ」
メモを見ている間に色々老人の話を聞いていたが、どうやら出来上がったら孫娘にプレゼントしたいとのこと。
そのメモには設定だけでなく、主人公の生い立ち、嬉しかったこと、後悔したこと、それに孫娘に伝えようとした言葉などが、箇条書きで書かれていたのだ。
「あのね、カルチェ。どんな人にも、絶対に設定できない物語って言うものがあるの」
アティカは、カルチェの淹れたコーヒーに口をつけて言った。
「人の人生。こればっかりは、勝手に物語の設定を作るわけには行かないのよね」
「そりゃ、人の人生を操作できればみんなハッピーな方向に持っていったり、逆ににくいアイツを不幸にすることもできまふからね」
「人生って、やっぱり先が分からないから面白いのよね。それに、過去の自分の人生は、自分しか知らない。自分のことを小説にするなら、自分しか知らない設定で書くしかないのよ」
人が生きてきた時間は、その人自身にしか分からないものだ。
正確な自分自身を描こうとすればするほど、より自分にしか知らない情報が必要になってくる。
そのような物語を、他の人が設定することは出来ない。
アティカは設定の天才であるが、他の人の物語まで設定することは出来なかったのだ。
「あ、そういえば、さっき面白いネタを思いついたんだけど」
「ん、どんなネタでふか?」
「ほら、私たちって、小説の設定を売ってるでしょ?それを小説にしたらどうかなって」
「はぁ?私たちの生活を、小説のネタにするのでふか?それはあまりに落書きに満ちた世界になりそうでふが」
「だから、ちょっと設定をいじって、いきなり繁盛したり、店がピンチになったり、ってことを設定すれば、いけるんじゃない?」
「全く、お姉ちゃんのフリーダムっぷりにはあきれるでふね」
しばらくして、「物語設定資料販売店」というタイトルの設定資料集が販売された。
程なくして、フィーカスという男が約三十万円の契約料で購入したとか。
「幸運販売代行店」の二人の新しい職業。いや、副業といったところでしょうか。
やはり物語を進める上で、「設定」というものは結構重要になってくると思うのです。
話が詰まるのは、やはり設定がうまくなってないことも原因のひとつになると思うのですが、そんな「設定」が売っていたら便利だよなぁ……ということで、構想は随分前からあったのです。後で「バクマン。」のアニメを見ていて、「ネームを勝手に作ってくれる装置があったら……」という話があり、「あれ、かぶってしまった?」とか思いましたが。
ただ、途中のストーリーを考えたり、「この物語の設定」を考えたりするのがちょっと手間取ったりしたりしたのです。
ちょっと苦労したのが、作中に出てくる「物語」の「設定」。実はこれから書こうかなと思っていた設定をいくつか取り込んでいるのです。
「悪魔と少年の物語」なんかがそうなのです。いつか文章にしたいところです。
ところで……この物語の中で、「この話は使えそうだなぁ」と思ったものがありましたら、遠慮なくその設定を使って話を作ってもらってかまいません。その際には、コメントをいただければ、読みに行きますので。
……とは言ったものの、あらすじだけではちょっと内容が想像できないかもしれません。
それは、私が頭の中でちょっとだけ描いた設定ですので、後は「その設定を料理する人の腕次第」だと思うのです。