忘年会と引き馬
お酒を飲んだ時の話。
私、宵凪は自他共に認める酒好きで、これまた自他共に認める「絡み酒」である。
それも質が悪い方で、誰彼構わず話しかけに行ってしまう。
後から友人たちに様子を聞かされて気をつけてはいるものの、ベロベロの時はどうにもならない。
記憶を無くすほど飲んだ翌日は、スマホの写真フォルダに知らないおっちゃんとのツーショットが入っていることもしばしばだ。
幸いなのは、本人は至って礼儀正しく話しかけに行っているらしいこと。友人曰く、「いつの間にか隣の席のおじさんと仲良く話していた」とのことだった。
今後は気をつけようと思う。
……まあそんな反省は置いておいて、今回はしっかりと最初から相席した人の話だ。
年の暮れの長野県松本市。
駅前の飲み屋街は、どこから湧いてきたのか分からないほどの人の波と活気に溢れていた。
私は友人に誘われて飲みに出たのだが、どこも予約しておらず、「適当に行けば入れるだろう」くらいの気持ちでいた。
甘かった。
流石は年の瀬、忘年会シーズンだ。
3軒か4軒ほど店を巡ったが、どこも予約でいっぱい。
やっと入れた店も「次の予約の時間までならいいよ。1時間くらいだけど」とのことだったが、ご厚意に甘えて滑り込んだ。
そこでは刺身と日本酒、そしてマグロのカマ焼きを食べた。
破格の値段で非常に美味しかった(マグロのカマは先着順でなくなり次第終了とのことだった)。
ほどほどに飲んで2軒目を探すため、再び街を彷徨い歩く。
また3軒ほど断られ、通りがかったキャバクラのキャッチのおっちゃんに「どこか空いてそうなところはないか」と訊く始末。
そうして教えてもらったのが、とある居酒屋だった。
個人経営のこじんまりとしたお店で、佇まいは初見だと少し入りづらい雰囲気だ。
友人とじゃんけんをし、勝った私は友人に先陣を切ってもらうことにした。
殿は任せろ。
ガラガラと引き戸を開け、大将と思われる人に「2人なんですが、空いてますか?」と訊くと、店主は店内を見渡して「相席でもいいかい?」と言った。
ここを逃したらもう帰るしかないと思った私たちは、「はい! 大丈夫です!」と即答した。
大将が席へ行き、ひとりのおじさんに声をかける。
おじさんも快諾してくれたようで、料理と荷物を少しずらしてくれた。
私たちも靴を脱ぎ、小上がりになっているその席へ着く。
「すみません、相席していただいてありがとうございます」
そう言うと、おじさんは「いや、私も1人で飲んでいて少し寂しかったから」と笑った。
話を聞くと、金沢から旅行に来たもののどこも店がいっぱいで、ようやくこの店にたどり着いたのだという。
「だし巻きが美味しかったよ」とメニューを渡してくれた。
とりあえず私たちのビールが届き、三人で乾杯した。
他愛のない世間話をし、友人とそのおじさんが実は大学の先輩・後輩関係であることが判明した。
大学周辺のローカルトークで盛り上がっていたところ、「もう1人来るんだけど、その人も相席でいい?」とおじさんが言う。
こちらが相席させてもらっている立場だ。断る筋合いなどあろうはずがない。
しばらくすると、もうひとりおじさんが増えた。
おじさん②の分のお酒が届き、再び乾杯。
「今どき相席なんて珍しいね、ちょっとびっくりしたよ」とおじさん②。
私もびっくりである。
それからしばらくは、お互い仲間内で会話を楽しんだ。
私たちが「どんな車を買おうか。雪国だし四駆がいいよな」などと話している横で、おじさんたちから聞こえてくるのは、
「1千万か〜」
「でもいい馬の血を引いてるから……」
という異次元の話題だった。
そういえば、おじさん①は病院の院長だとか言っていた気がする。
思った以上にとんでもない人と相席してしまったらしい。
私たちの豪快な酒の飲みっぷりに感激した院長は、「おい、羊食いたくねえか?」と切り出した。
松本はジンギスカンも有名なのだ。
すぐさまジンギスの店に電話をし、移動を開始する。
「若者は肉食え、肉!」と勢いづく院長。
肉を焼きながら「馬に興味ある?」と訊かれた。
馬刺しのことかしら?と思いながら(松本は馬刺しも有名)
「なくはないですが……」と困惑していると、「明日乗せてあげようか?」と言う。
急展開すぎる。
面白そうなのでお言葉に甘えることにした。
LINEを交換し、翌日の集合場所と時間を決める。
ジンギスの店を出る際、流石は院長、「ここは俺が払うよ」と言ってくれた。
流石に申し訳なく思い「少し出します」と食い下がると、「じゃあ千円だけ貰うわ」と格好良く納めてくれた。
その後は院長行きつけのスナックへ。
相席で知り合った初対面の人と3軒目までハシゴしたのは、人生で初めての経験だった。
この話を人にすると「なんだそれ」と言われるが、私もそう思う。
へべれけになった院長と肩を組んでカラオケをしたのを覚えている。
海援隊の『まっすぐの唄』を一緒に歌おうと言われ、「知らない歌ですよ」と返すと、「なんとなくでも歌えるよ〜」とのこと。めちゃくちゃである。
再び肩を組んで盛り上がり、「君は上司に好かれそうなタイプだね〜」と褒めていただいた(?)。
ボトルキープしてある焼酎も「好きに飲んでいいよ」とまで言われる始末だ。
ベロベロでなお飲みたがる院長を、おじさん②がなだめながら引っ張って帰る。
帰る方向が同じだったのか、よほど気に入られたのか、家の近所までタクシーに同乗させてもらい、運賃まで出してもらった。
翌日、約束の場所へ行く。
時間になっても院長たちは現れず、「LINEで連絡してみて、反応がなかったら帰るか」と話してメッセージを送ってみた。
すると"今から行きます"と返事があり、本当にやってきたおじさんたち。
実はおじさん②はすでに馬主で、院長も馬主にならないか誘っていたらしい。
おじさん②の馬に乗せてもらい、引き馬で牧場を一周させてもらった。
私の番のとき、車の音に馬がびっくりして少し慌てたが、本当に貴重で素晴らしい体験をさせてもらった。
飲みニケーション万歳。
粋でいいおじさんたちだったので、これからも達者でいてほしいと思う。
私も歳をとったら、あんな風に余裕があって面白い大人になりたいものだ。




