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演目4 編入


 魔法少女の皇ネロとして生きることになり、二日後。

 魔法少女協会の職員たちの手によって怒涛の速さで引っ越しを済ませ、俺は故郷を離れて『新東京市』へ移った。

 この新東京市は、二十年前に東京都がナイトメアの巣窟となり、ダンジョン化して普通の人間では立ち入り出来なくなったことで遷都し、新たに誕生した首都だ。

 内陸に位置し、遷都したことで著しく発展した都市部と、自然豊かな山間部や農地がある。

 そして俺は今、新東京市内の公立高校『新東京高等学校』にいる。

 遷都して人口流入が激しいことから十年前に設立された学校であり、中の設備は綺麗で新しい。

 今着ているブレザー制服は公立高校にしてはデザイン性が良く、黒を基調に金の装飾が施されたものだ。リボンは赤色。プリーツスカートの丈が短くニーハイによって絶対領域が出来ている。

 男子の制服は軍服みたいにカッコイイデザインであり、学校としての人気はかなり高いらしい。


「――はいじゃあ、最後に編入生を紹介します。入って来て」


 朝のホームルームの連絡が手早く済まされ、一年三組の女性担任――教師三年目の夏目理恵がドア越しに合図をくれる。

 俺は深呼吸一つしてドアをガラリと開け、緊張をポーカーフェイスで隠しつつクラスメイトたちの前に立った。

 姿勢を正し、学生鞄を前に持って手を組み、軽く一礼。


「初めまして。最近魔法少女になった皇ネロです。お近づきの印に手品を一つ」


 学生鞄を下ろし、魔法で紫のハットとアルファベットのJの形をしたステッキを瞬時に生成。

 右足を引いてハットを持った右手を体に添え、ステッキを持った左手を水平に伸ばす――西洋貴族のお辞儀の一つ、ボウ・アンド・スクレープというものをやって見せ、不敵な笑みを浮かべた。

 それからハットを被ってステッキの先端を握り、シュッと引き抜くと同時に魔法で綺麗な赤い薔薇の花束を出した。


「はいっ! ステッキから花束」


 ……あれ? 静かだ。すべったか?

 ……まぁいいや。


「どうぞ先生。教室か教員室にでも飾ってください」

「あっ、ありがとう」

「では手品をもう一つ。このハットをステッキで叩くと……」


 今度は教壇の上にハットを置き、ステッキでトントンと叩く。

 するとハットが宙を浮いて教室の中を飛び始めた。


「ほら、UFOみたいに飛んだ」


 おぉっ!


 と小さな歓声が沸いて拍手が起こった。


 良かった……受けていないんじゃなくて、いきなり過ぎて驚いていただけか。

 ん? なんか睨まれてる?


 窓際後方の席……明らかに魔法少女っぽい、真っ赤な髪をポニーテールにしたツリ目の美少女が俺をジトッと見つめていた。

 とりあえず気にしないようにし、飛ばしていたハットを手元に戻してステッキと一緒に消して手品を終了する。


「じゃあネロさんは、後ろの空いている席に座ってください」

「はい」


 学生鞄を持って移動し、赤髪の少女の隣の席に着く。


「あんた、ココンから推薦を受けて来たって本当?」

「ん? ああ」


 座った瞬間に小声で話し掛けられたので、とりあえず頷いておく。


「ふーん……昼休み、屋上に来なさい」


 まさか登校初日に因縁付けられるとは……。

 無視したら後が恐いし、従うか。


 ホームルームが終わり授業に入る。数学だ。

 約十五年ぶりの高校生の授業だが……そんな昔に詰め込まれた知識なんて殆ど忘れている。しかもこの新東京高等学校、偏差値の高い進学校でもあるからさっぱり分からん。

 魔法少女は特権として、学業成績無関係で在籍も進級も出来るから良かった。

 暇だし手品のネタでも考えておこう。


 そうしてノートをネタ帳にして授業を有効活用し、休憩時間になる。

 俺は早速クラスメイトに囲まれていた。女子たちに!


「ねぇ皇さん、どこから来たの?」

「関西とだけ言っておく」

「紫の瞳が綺麗。撮っていい?」

「どうぞ」

「あの手品ってやっぱり魔法? それともマジの技術?」

「さぁ? どちらだと思う?」

「元の年齢は?」

「秘密」

「皇さんって元は女? 男?」

「……それは答えたらどうなる?」

「元男だったら化粧とか服とか教えるついでに、私たちの玩具になるくらいかな」

「……そう」


 それは遠慮したい。ということで――


 パンッ!


 と俺は手を叩いて猫だましを行い、瞬間移動で廊下へ逃げた。

 授業に出なくても問題無いので、俺はほとぼりが冷めるまで校舎の探索でもすることにした。




「……『魔法少女活動室』?」


 探索の末、教員室のある校舎の三階で発見した。生徒会室の隣にある。

 興味があるのでドアに手を掛けると、鍵が掛かっていないのか開いた。


「あっ」

「おっ」


 中に人がいた。

 奥の立派な執務机に足を投げ出して座っている、黒髪セミショートに黒目の色白美少女だ。

 彼女は今まさに安物のライターで煙草に火を点けたところだった。


「……学校って禁煙では?」


 そもそも学生の喫煙は法律で禁止の筈だ。


 彼女はフッと笑って言った。


「この部屋の火災報知器は一時的に切ってある。それに私は魔法少女だ。他の学生に見られていない場所なら、吸っても問題無い」

「なるほど」


 俺はドアを閉めて入り、部屋の真ん中で向かい合うように設置されている四つの事務机のうち、一つの席に着いた。

 その時、俺の知っている煙草とは違う、ハーブの香りがした。


「この匂いって……」

「ハーブシガーだ。精神安定の為に医療でも使われてる奴だから、健康面の害は無い。吸うか?」

「遠慮しておく」

「うむ……ところでお前、ココンの推薦で来た新人魔法少女だな?」

「はい。皇ネロです。あなたは?」

「霧崎マコト。このエリアにいる魔法少女たちのリーダーを一応やってる。何か聞きたいことはあるか?」

「……いえ」

「そうか。何か聞きたいことが出来たら話し掛けてくれ。ま、私は忙しいからあんまり学校には居ないんだけどな」


 吸った煙を吐いたマコトは、ジャケットの横ポケットに入れていたスマホを取り出して真剣な眼差しで画面を見つめ、スマホを仕舞った。


「……彼氏からデートのお誘いだ。私はもう行くけど、この部屋は好きに使っていいから」


 ハーブシガーを灰皿に押し付けて火を消し、立ち上がったマコトは窓から出て行った。


「……デートねぇ」


 絶対嘘だ。


 とにかく、この部屋は普通の生徒が来る場所じゃなさそうなので、サボり部屋として有効活用させてもらうことにした。


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