演目31 来訪者
学校に戻った俺たちはその後、購買部で弁当を買って教室で食べながら、さっき戦ったナイトメアのことを三人に聞かれたので教えた。
でも反応はあっさりしていた。曰く、三人とも過去に一度遭遇し、食べられた経験があるとのこと。その時はマコトに助けられたらしい。
昼休みが終わって午後の授業も終わり、放課後。
セシリアは三人に囲まれていた。
「ねぇエメラルドさん、まだこの街に来て間もないのでしょう?」
「そうデスね。数日は出歩いてどこに何があるかを把握するつもりデス」
「なら、私たちとお出掛けしません? オススメのお店を紹介しますわ」
「いえ、私は魔法少女として、ナイトメアがどこで発生しやすいかの調査を――」
「そんなの後で幾らでも出来るって。行こ!」
「青春は待ってくれません。行きましょう!」
「え、ええ?」
カエデとアヤに手を取られ、セシリアは困惑しながら連れて行かれた。
青春だなぁ……。
そう思っていると、トモコが俺の手を掴んだ。
「皇さん、なにしてるんです。あなたも行きますよ」
「えっ?」
「あの時に約束したじゃありませんか。来週か再来週、放課後の遊びに誘うと」
「……あぁ! 思い出した」
「では行きますわよ」
「ちょっと待って。マイカ、ブロンドさんに連絡頼む」
「ええ。行ってらっしゃい」
「ミシロも行くー!」
こっちに来ようとするミシロだが、マイカがその首根っこを掴んで止めた。
「はいはい、あんたは私と一緒ね」
「えぇー!」
耳と尻尾がしょんぼり垂れたミシロを可愛く思いつつ、俺は学生鞄を手にトモコと一緒に教室を出た。
三人に連れられて俺とセシリアが来たのは、有名店が集まると風の噂で聞いたことのある百貨店。
「エメラルドさん、皇さん、下着の予備はありまして?」
「私は、引っ越しの関係で最低限しかありません」
「……私も最低限しかない」
「ではまず下着を買いましょうか」
今すぐ逃げたいが、下着はいずれは買いに行かなければならない物であり、ここで逃げたらガッカリさせてしまう。それは友達としてあまりいい気はしない。それに元男だからこそ、女性下着売り場に行くのはなんか気まずい。
そんな内心を誰にも言うことなく二階のランジェリーショップに到着。明るく照らされた店内には豊かな色とデザインの下着が数多く並んでおり、トルソーには流行の下着が展示されている。
この前の強制撮影会で女性下着やエッチな衣装には多少の耐性が出来たが、いざ自分が日常で身に着ける物を買うと考えると、変な気分になって心臓の鼓動が少し速くなってしまう。
まいったなぁ……何をどう選んでいいか分からない。
少女になってまだ一月も経っていない元男が、女性の下着をまともに選ぶことなんて出来る筈がない。
手に取るのでさえ躊躇って誰か一緒に選んでくれないかと顔を向けると、セシリアの下着選びをしている三人の内、アヤが気付いてこっちに来てくれた。
「下着、選べませんか?」
「まぁ……引くかもしれないけど、元男なんで」
「やっぱり、そうだったんですね」
「む、気付いてたか」
「言動や立ち居振る舞いが分かりやすいですし」
「そんなに?」
「はい」
そんなにか。俺としては女性らしく振る舞っていたつもりだったけれど、主観は当てにならんな。
「なら、下着選び頼める?」
「任せてください。私はこれでも、智子お嬢様から服選びのセンスがいいってお墨付きを頂いているので」
「それは頼もしいな。でもお嬢様?」
「智子お嬢様はある財閥のご令嬢なんですよ。私たちは家が隣同士の幼馴染でして、半分くらいごっこ遊びでやってるんです」
「そうか。だから仲がいいんだな」
……ん?
家が隣同士?
「なぁアヤ、家が隣同士ってことは、二人もご令嬢かなにか?」
「……どう見えますか?」
「……身も心も綺麗な人かと」
「ふふ、ありがとうございます」
これは多分、お嬢様なんだろうなぁ……。
アヤに女性下着の選び方についてレクチャーを受け、サイズを覚えていない俺は店員に測ってもらい、上下セットで何着か購入。実に女性らしいデザインで、もしこれを意図的に男に見せようものなら誘っていると思われても仕方ないだろう。
セシリアもいい下着が買えたのか機嫌がよく、そのままの勢いで服を何着か買い、化粧品や雑貨を見て回り、喫茶店で一休み。
今度は家で女子会をしないかと誘われ、どんなことを家でしようかとトモコたち三人が盛り上がる中、セシリアがスマホを取り出して眉間に皺を寄せた。
「ごめんなさい。少し用事が出来たので失礼します」
「あら、そうですの? どうぞ行ってらっしゃいませ」
セシリアは千円札を置くと、立ち上がって頭を下げてから走って行った。
「……別にお金は払っておきますのに」
「それより、急いでましたね」
「彼氏でしょうか?」
なんだろうね?
セシリアは隣に座っていたので画面を覗き込めたが、トコトークのメッセージが英語ではないアルファベットの羅列で分からなかった。
首を突っ込むのは野暮かもしれないけど……。
「ごめん。気になるから追い掛けてみる」
「行ってらっしゃいませ」
魔法で素早く千円札を財布から手元に転移させ、机に置いてから俺は走った。魔法少女に限定して探知魔法を使えば、移動中のセシリアを捕捉。一階で止まった。だが、その傍に微弱な魔力を持った人が三人いるのを感じられた。
魔法少女……か?
分からない。たまたまセシリアの傍に居るから感じ取れただけだが、これが広範囲に意識を向けた探知なら引っ掛からなかっただろう。
現地に到着すれば、セシリアが着ていたのと同じ修道服を着た美少女シスターが三人いた。彼女たちは俺を見るなり怪訝そうな顔をし、リーダーっぽい背の高い真ん中の一人が俺に向かって何か言った。
えっ、何語!? 少なくとも英語じゃない!
「ネロさん? 何故来たのデス……!」
「いや、なんかあるのかなと」
「……仕方ありませんね」
セシリアも彼女たちと同じ言語で話し、俺に目配せした。
(テレパシー失礼します。彼女たちは私の所属する組織の同僚デス。同時通訳しますので、この場の話し合いに参加してください)
(おーけー)
いきなりでなんのこっちゃ分からんけど、ここは一つ。
「とりあえず、落ち着ける場所で話しません?」
ほら、周りの人たちが俺たちに注目してる。流石にこんな中で話し合いはお互いやり辛いでしょ?
俺の意図を汲み取ってくれたか、三人は周りを見渡して頷き、短く一言口にした。
(案内しろ。だそうデス)
(はいはい。ところで彼女たち何語で話してるの?)
(ラテン語です)
(ラ、ラテン語……!?)
俺が案内したのはトモコたちとは違う喫茶店。あっちが紅茶ならこっちは珈琲だ。
全員分の珈琲を注文し、テーブルに置かれたところで俺から切り出した。
「それで、あなたたちは何者で、何を目的に日本に?」
そう聞くとセシリアがテレパシーで伝えたのか、リーダーが代表して答えた。
うん、何言ってるか分からん。
(我々はセシリアを支援する為に来た。このエリアを担当している魔法少女を邪魔するつもりはない)
「セシリア、どうなの?」
「私も初耳です。そもそも、調査は私一人に一任されていた筈ですから」
「だそうだけど?」
(日本は今回の事件の早期解決を望んでいる。だから要請を受け、追加で我々が派遣された)
本当に?
「……そういう連絡、日本の魔法少女協会経由で私たちに来ていないのは?」
(連絡漏れがあったのかもしれない。後で我々の方で確認しておこう)
リーダーが珈琲を飲む。その姿は綺麗なウェーブロングの長髪に高身長、金の瞳に色白の肌をした西洋人らしい美貌も合わさって様になっている。
俺も飲む。
……いい苦味だ。
他の二人――ボブカットの青髪に青い瞳の少女とロングの赤髪を後ろで三つ編みにしている赤い瞳の少女も珈琲を口にしたが、苦かったのか顔を顰め、砂糖とミルクを付け足して飲んだ。
(そういえば自己紹介がまだだったな。私はカエサル・アウルム。青髪の方はバルバラ・サファイア。赤髪はジャンヌ・ガーネット。君は?)
「皇ネロ」
「ネロ……」
はっきりとそう言って俺を見つめる目が鋭くなる。まるで俺を見定めようとしているようだ。
(君の名前は、ローマ皇帝のネロにあやかっているのか?)
「……まぁ、そうとも言える」
単に名前の響きが良かったからだけどね。
(そうか。君とは仲良く出来そうだ)
握手を求められたので、とりあえず愛想笑いを浮かべて握手をしておく。
(我々はこのままナイトメアについて調査を行う。君たちの邪魔はしないし、助けが必要なら連絡をしてくれ。これ、私の連絡先だ)
名刺を差し出されたので受け取る。ラテン語だろうアルファベットの羅列と英語が併記されているが、英語苦手だからどっちも読めない。分かるのは名前と電話番号とメールアドレスくらいだ。
彼女たちは珈琲を飲み干して立ち上がったので、別れる前に一つアドバイスを送ることにした。
「カエサル、暫くここで過ごすなら日本語覚えた方がいいよ」
彼女は頷き、短く何か言うと二人を連れて去って行った。
「そうする。と言っていました」
「そっか」
意外と素直な人っぽい?
「……ところであいつら、何しに来たの?」
「調査というのは本当だと思います。けれど何を考えているかは分かりません。ネロさんが来る前に聞いてみたのですが、お前には関係ないの一点張りで……」
本当、何しに来たの?




