表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/41

演目29 転校生と留学生

 

 ご褒美で魔剣を買ってもらっても、やることは変わらない。

 訓練して街中でマジックショーをして見回りをする。ナイトメアが出たら被害が出ないように迅速に倒す。




 ――――そうして土日が過ぎて月曜日。

 さぁ今日も元気な一日を、とアラームで起きてすぐに冷蔵庫を開ける。すっからかんだ。水しかない。


「……食料の買い出し、行かないとなぁ」


 早朝からスーパーマーケットは開いていないので、朝食はダブルドナルドになった。美味しいからいいんだけど、買い物をする癖をつけないと手軽さに負けて通ってしまいそうだ。

 朝食を終えて通学を始め、生徒も教師もほぼいなくなってしまった新東京高等学校に到着。ナイトメアによって大量死があったのにも関わらず、たった数日で廊下も教室もしっかりと掃除されて元通り以上に綺麗になっていた。

 けれど通学の時間になっても誰も居ない教室というものが、この前の出来事が夢ではなく現実であったことを嫌でも自覚させられる。

 センチメンタルな気分を紛らわせる為に窓を開け、変わらない景色を眺めつつ晴天の穏やかな微風を静かに浴びる。

 そうして何もせず何も考えずにいると、誰かが教室に入って来る気配がした。


「おはようネロ」

「マイカか。おはよう」

「……朝からなにたそがれてんの?」

「ん? まぁ……随分教室が静かになってしまった、と思ってね」

「……そうかもね」


 あぁ、失言だったか。


 悲しい気持ちを我慢するかのように微笑んだマイカを慰めるべく、俺は頭を撫でてやった。


「ちょっ、いきなりなに?!」

「気を紛らわせようと。撫でられるのは嫌?」

「……そんなことはないけど」

「ならよし」

「いや、もういいから!」


 そのままなでなでを続けようとしたら、手を払わられた。


 怒る元気が出たのでヨシ!

 それとありがとうなマイカ。俺も元気出た。


 風が気持ちいいので教室の窓を全て開け、心にエンジンの掛かった俺はホワイトボードにペンを走らせて落書きをしてみた。


 マジカルマジックマジシャンガール♪

 マジカルマジックマジシャンガール♪

 マジカルマジックマジシャンガール♪


 頭の中でリズムを刻みながら歌い、ホワイトボードを目一杯使った大きな落書きが完成した。


「フッ、完璧だ」


 流石は俺、素朴ながらもいい味が出ている。


「完璧って……これマグロ?」

「正解」


 描いたのはデフォルメしたクロマグロ。力作だ。


「そしてこれに息を吹き込むと――」


 俺はフーッと息を吹いて魔法を行使した。

 するとホワイトボードに描かれた落書きマグロはピクピク動き出し、ペリッと剥がれて教室の中を自由に泳ぎ始めた。


「な、なにやってんのあんた!?」

「フフフ、マジックだよ」

「どう考えても魔法でしょ! いいから消しなさい。動きが速くて鬱陶しいったらないわ!」

「ええー」

「ええーじゃない。消す!」

「……仕方ない」


 指パッチン。


 落書きマグロは魚の形をした沢山の光のエフェクトになって消えた。


「これでいい?」

「ええ。次やるのなら、もう少し落ち着けるものにしてちょうだい」

「分かった」


 落ち着けるもの、ね。


 今度はホワイトボードの片隅に両手を広げた程度の落書きをした。


「よし完成!」

「なかなか可愛いじゃない」


 描いたのはデフォルメしたミズクラゲ。

 さっきと同じように息を吹き込んでペリッと剥がれると、教室の中をフヨフヨ漂い出した。


「おっと、風で流されてるな」


 クラゲが風の流れに乗って廊下に出て行きそうなので、手で閉めるリアクションを取りつつ魔法を行使。ドアと窓が連動して一斉に閉まった。


「気が済んだら消しなさいよ」


 ひとしきり眺めたマイカは自分の席に座り、学生鞄から文庫本を取り出して読み始めた。観客がいないのでは奇術師としてパフォーマンスのし甲斐も無いので、俺も席に座ってスマホでネット小説を読むことにした。

 暫くすると、ガラッと勢いよくドアが開いた。


「おはようございますっ!」

「おはよう」

「おはよう」


 お嬢様と取り巻き二人だ。


「おはよう智子。良かった、元気そうで」

「火宮さん、この前は助かりました。皇さんも」

「いい。魔法少女として当然のことをしたまで」

「それでもですわ。だから、操られていたとはいえ謝罪します。皇さん、刺してごめんなさい」

「私たちも。マイカさん、刺してごめんなさい!」

「ごめんなさい!」


 お嬢様が頭を下げたことで、二人も頭を下げた。


 どうするマイカ?


 視線を向けると、マイカは小さく溜息を吐いた。


「謝罪を受け入れるわ。けどそんなに気にしないでほしい。友達でしょ?」

「火宮さん……」

「ネロもそれでいい?」

「ああ。けど友達として一つ言わせてくれ。私は三人の名前を知らない」

「あら? そうだったかしら?」

「そういえば」

「自己紹介してない」

「そう。なら今ここで自己紹介しましょう。私は九条智子」

「藤井(あや)です」

「小林(かえで)です」

「トモコ、アヤ、カエデね。よろしくの印に――」


 ジャケットのポケットに手を突っ込み、中でお守りを人数分生成し、魔力をしっかりと込めてから差し出した。


「これを受け取ってほしい。想いが重いかもしれないけど、これには魔力を込めておいた。ナイトメアが攻撃して来た際、自動でバリアを張ってくれる。まぁ、私のバリアはまだまだ発展途上で軽い攻撃を数発耐える程度だけどね」

「ありがたくいただくわ」

「ありがとう」

「大切にしますね」


 良かった受け取ってくれた。

 実は発信機と俺だけに伝わる警報機能が付与されてる。これで万が一の際、あの時のマコトのように飛んで助けに行ける。別空間に囚われたら無理だけど。


 自己紹介が終わると流れでそのまま女子トークが始まった。最近また胸が大きくなったとか、二人はスタイルいいけど体型どうやって維持してるのとか、新しい洋菓子店がオープンしたけどこの前のナイトメア大量発生で店が潰れていたとか、気が早いけどゴールデンウィークどこか行く予定があるかとか、俺とマイカは彼氏作る気はあるのかとか、今度その髪をいじらせてほしいとか……中身おじさんの俺は終始圧倒されて愛想笑いを浮かべて聞きに徹することしか出来なかった。

 時間はあっという間に過ぎ、チャイムが鳴ってホームルームの時間。

 なんか若くてちっこくて可愛い童顔の女先生がやって来た。


「お、おはようございます。今日からこの一年C組の担任になりました、押田佳子おしだかこです。今年この学校に採用された新人ですけど、季節外れのインフルエンザに罹って暫く休んでいました。担当教科は家庭科ですが、他の先生がいなくなってしまったので、その他の科目も私が請け負います。至らない点が多々あると思いますが、よろしくお願いします」


 自己紹介を一礼で終わらせ、俺たちは拍手で歓迎した。


「それでは自己紹介を――と言いたいところですが、その前にお知らせがあります。このクラスになんと、転校生と留学生の二人が来ることになりました。入って来ていいですよー」


 先生の声掛けで教室に二人の少女が入って来た。

 一人はクリーム色の髪をした小柄な犬耳少女。首には金属の首輪をし、尾てい骨付近から経ているモフモフの尻尾がブンブン揺れている。

 もう一人はプラチナブロンド髪の外国人。宗教的配慮か簡略化されたウィンプルを被り、十字架のネックレスを首から提げている。おまけにタイツを履いていて、肌の露出が少ない。


「二人とも、自己紹介をどうぞ」

「ミシロは犬塚ミシロ! 魔法少女! よろしく!!」

「セシリア・エメラルド。ヨーロッパから日本へ留学に来た魔法少女デス。よろしくお願いします」


 拍手で歓迎。俺とマイカはこの二人を既に知っている。昨日引っ越して来て顔合わせした。ただ荷解きが終わっていなかったから一緒に行動したりはせず、どんな魔法を使ってどれほどの実力なのかは分かっていない。


「人数も少ないので、皆さんも自己紹介してください。窓側からどうぞ」


 とのことなので、窓際に座るマイカが立った。


「火宮マイカです。昨日挨拶は済ませただろうけど、改めてよろしく」


 次に俺。


「皇ネロです。同じくよろしく」


 次にお嬢様。


「九条智子です。これから一年、共に勉学に励みながら青春を楽しみましょう!」


 アヤ。


「藤井文です。趣味は読書と掃除です。クラスメイトとして、仲良く出来れば嬉しいです」


 最後にカエデ。


「小林楓です。趣味は智子の従者をやることです」

「えっ」


 先生がぽかんと口を開けた。


 取り巻きだと思ってたらメイド志望とは、本格的だ。

 今度メイド服でもプレゼントしようかな?


「そ、そう。趣味は人それぞれだし、先生はいいと思うな。うん」


 先生は一度深呼吸してから言った。


「はいじゃあ、二人は好きな席に……その前に、余ってる机は後ろに片付けましょうか。みんな、お願いできる?」


 先生の指示で余ってる勉強机を全て後ろに片付け、扇状に七つのテーブルが並んだ。席はマイカ、俺、ミシロ、セシリア、トモコ、カエデ、アヤの順だ。

 それから俺たちは午前の授業に入った。


 ……ところでみんな、落書きクラゲが教室をプカプカ浮いているのは気にならないの?


 結局、無視されて授業中もずっとプカプカ浮いていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ