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演目26 支部長

 

 カウンターから出たメイド服の彼女の案内で俺たちは移動し、三階奥にある豪華な両開きのドアを開けて支部長室へ通された。

 中はザ・執務室と言った感じで、床はフカフカのじゅうたんが敷かれ、壁際には書類棚が並び、応接セットと小型キッチンが横にあり、少し歩いた先に立派な執務机がある。その隣には巨大な金庫。

 執務机の大きな椅子に座るのは、前髪がパッツンと切り揃えられた黒いおかっぱの少女だ。スーツを着ていて、座っていても分かる程度に背は低めで胸も小さい。多忙でストレスが溜まっているのか赤い瞳の目を鋭くさせて俺たちを見つめていた。


「よー来たなマコト、ブロンド、あとマイカちゃんと新人」

「カタナに呼ばれたからな」

「カタナゆーな! カナタや!」


 関西弁でマコトの間違いを訂正した彼女は立ち上がると、俺を見てニッと口元に笑みを浮かべて言った。


「あんたとは初めましてやな。うちは逢坂カナタ。一応、魔法少女協会日本支部の五代目支部長をやっとる。気軽にカナタと呼んでくれてええで」

「どうも、皇ネロです」

「よろしゅーな。で、マコト。今回呼んだ件分かってるやろ? そっちで話聞こか」


 応接セットを指さし、俺たちはテーブルを囲うように設置されている四つのソファに座った。

 マコトとブロンドさんが一緒に座り、その対面にカナタが座っている。俺とマイカは横だ。

 何故かまだいたメイド服の少女が、ティーバッグで淹れた紅茶とショートケーキを人数分テーブルに置くと空いているソファに座った。ちゃっかり自分の分も用意している。

 カナタが紅茶を一口飲んでから、話を切り出した。


「ほんで? 夢野マホロがリリスとなって生きとったって、連絡で聞いたけどほんまか?」

「ああ。殺そうとしたが、もう一体リリスが現れて逃げられた」

「アホ。なんで独断でやった? せめてうちらに一報入れてくれれば、使える魔法少女を派遣したのに」

「マホロが相手だぞ? 生半可な戦力なんて当てにならん。むしろ被害を増やすだけだ」

「せやかてマコト、街と人にどえらい被害が出とる。街中に魔法少女を配置させるくらいはしても良かったんちゃうか?」

「街に魔法少女を配置なんてしたら、そもそもマホロは姿を現さない。あいつは確実に勝てる状況でしか動かないからな」

「……せやな。ま、こんなのは結果論や。次はちゃんとうちらに連絡しーや。作戦立案やら支援やらしたるさかい」

「ああ」

「で、もう一体のリリスはどんな魔法をつこーてた?」

「空間に穴を開けていた。あと、一定範囲の空間を弄って、移動系の魔法の移動先をずらしていた」

「ほーん……となると、転移系の魔法が使えるように願った奴の可能性が高いな。後でココンと該当者を調べとくわ」

「頼む」

「ほんで、あいつらどこ行ったと考えてる?」

「カナタ、お前はどうだ?」

「……ほな同時に言ってみよか」


 二人は息を吸い、合わせて言った。


「東京」

「東京」


 同じ答えに二人はニヤリと笑みを浮かべた。


「あこはナイトメアの巣窟でダンジョン化しとる。リリスが隠れるならうってつけや」

「それにあそこは大量のナイトメアのせいで協会も殆ど調査が進んでいない。だろ?」

「せや。居心地がええんか知らんけど、ナイトメアはあこからあんま出てこーへん。だから協会は監視と警戒はしても放置しとった。でもええ機会や。そろそろ本格的に調査しよか」

「準備にどれくらい掛かる?」

「せやなー……対マホロと転移系能力者用の選抜チームを編成するとして、全員Aランク以上で運用するとなると……調整の為に最低でも二ヵ月は欲しいな」

「分かった。万が一それより早く動かれた場合はどうする?」

「そん時はあんたらだけで対処しいや。でも連絡さえ入れてくれれば、うちらが助けに行く」

「了解した」


 この話はこれで終わりなのか、カナタはショートケーキをちょっと食べ、マコトは紅茶を飲んだ。


「んじゃ次の話やけど、学校、役所の方から廃校にはしないって通達があったわ」

「ふむ。理由は?」

「理由は単純。新しく学校を建てようにも、土地があらへん」

「だろうな。配置の転換とかは?」

「無しや。マコトらは継続してそのエリアを担当してほしい。寂しい学校生活になるけど堪忍な」

「構わん。マホロがリリスになったと知った時点で、こうなることは覚悟していた」

「相変わらず覚悟ガン決まりやな。苦しくなったら言いや? 交代したるさかい」

「余計なお世話だ。他に話は?」

「あるで。昨日の夜にヨーロッパの魔法少女協会――まぁバチカンにある本部から電話が掛かって来たんやけど、魔法少女を一人、今回の件の調査と支援を兼ねて派遣するって言って来たわ」

「マジ?」

「マジ」

「……」


 マコトが露骨に嫌そうな顔してる!


 手を挙げる。


「あの、海外の魔法少女ってダメなんですか?」

「あー、ダメってわけやないけど、あっちは政治と宗教がおもっくそ絡んでてめんどくさいねん。向こうやと魔法少女はキリスト教の聖女として祭り上げられてて、全員がシスターやっとる。そんで神の名の下にナイトメアを殲滅するんだー、聖女が皆さんを守って救いますよーって、プロパガンダ流して価値観が中世に逆戻りしとる。せやから向こうの魔法少女と関わると勧誘やら布教やらされるし、政治と宗教の配慮をせんといかんくてめんどいねん」

「うわぁ」


 それは関わりたくない。

 海外の情報なんて仕入れてなかったから初めて知った。

 というか、何気に一神教としての教義歪んでね?

 魔法少女の誕生は神々がどうこうってココンが言ってなかった?

 向こうの魔法少女に聞いたら絶対面倒になりそうだし、言わんとこ。


「話は以上か?」

「まだある。あんたらが助けた行方不明の魔法少女やけどな、元のエリアの子らがそっちで面倒見てくれって言って来たわ」

「は? 何故だ!」


 うわっ、探知魔法を使って無いのに凄いプレッシャーを感じる!


 カナタも慌てて手を前に出して抑えるように促した。


「そんな怒んな。魔力漏れとる。別に厄介払いとかじゃないねん。山間部の方は人手が足りとるさかい、都市部で使ってやってくれってことや。犬塚ミシロって魔法少女は犬の特性を持っとるから、耳と鼻と野生の直感でナイトメアの探索に役立つやろうって」

「……そういうことなら、まぁ」

「あと、あんたらに是非とも鍛えて欲しいんやと」

「そっちが本音か」

「まぁええやん。うちから見てもミシロって子、かなり伸びしろあるで」

「……ブロンド、育成は任せた」

「分かってるよ。マコトは教えるのが下手だからね」

「担当エリアの話は以上やね」


 カナタが俺に向いた。


「ネロ、あんたに話がある。新人魔法少女はまず協会が刊行しとる週刊誌、『マジカルマガジン』の表紙を飾って紹介することになっとる。つーわけで、今から撮影会やるで」

「えっ」


 そんな話聞いてない。

 週刊誌もあったなんて知らない。買ったことないし。


 肩に手が置かれて振り向くと、マイカが優しい微笑を浮かべていた。


「ネロ、私も通った道だから諦めなさい」

「……おぅ」

「素直に受けてくれるみたいで何よりや。逃げようもんならうちらが全力で捕まえるところやったで」


 良かった逃げなくて。支部長は絶対強いだろうし、このメイドも底が知れないし。


「後のことはそこのメイド――副支部長に任せるわ」

「ネロ様とは初めましてですね。氷室リッカと申します。気軽にリッカちゃんとお呼びください」


 立ち上がって自己紹介した副支部長――リッカちゃんは優雅にカーテシーして見せた。


 お前、副支部長かよ。

 メイド服なんて着て紛らわしいわ!


「それではネロ様、撮影スタジオにご案内します。マコト様たちはどうされますか?」

「私たちは隣の宿で先に休んでおく」

「分かりました。では終わりましたら、ネロ様を送りますね」


 話が終わると俺は支部長室を出て、撮影スタジオへ案内された。




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