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演目20 ローレライとマーメイド

 

 生存者を探すと、シャドウによって生かされたのだろう数名の生徒を教室で発見した。精神的に消耗しきっており、俺たちで抱き締めたり慰めの言葉を掛けることで何とかついて来れる程度には回復してくれた。


「先生、いないわね」


 マイカが呟く。

 理恵先生は死体として発見出来なかった。死んでいないと喜びたいところだが、生き延びて隠れている可能性より、サキュバスとなってしまった可能性の方が高くて喜べない。


「次に行こう」

「そうね」


 俺たちは二年生の教室がある二階へ向かう。


 あっ、そういえば……。


「マイカ、何故複数のナイトメアがいるのに夢境が発生していない?」

「多分、このナイトメアはここで発生したんじゃなくて、どこかから連れて来たんだと思う」

「連れて来た?」

「マホロ先輩の結界はある種の異空間なの。だから結界の中にナイトメアを住まわせることだって出来るわ」

「ヤバいな。ところで目の前の二階だけど……これはナイトメアの力でいいんだな?」

「そうね。『ローレライ』の力だわ」


 俺たちが見つめる先、二階には水のような壁が流れることなくみっちりと詰まっていた。透明度が高いから奥がある程度見え、気になって警戒しながら手で触れると突き抜け、ジメッとしてひんやりした空気が感じられた。


「調べたから知ってるけど一応確認。この結界は、無害なんだよな?」

「ええ、無害よ。でも一度入ったらこれを出してるナイトメアを倒さないと外に出られないし、中じゃ火が使えない。それに相手は障害物をすり抜けて泳ぎ回るわ。死んだ人も一緒にね」


 これは守り切れないかもしれないな。


「……じゃあ前後交代しよう」

「その方がいいわね。頼んだわよ」

「ああ。それと事前準備に……」


 ステッキで床を軽く小突き、自分とマイカ以外にバリアを張る。


「わぁ」

「これが魔法少女の力かぁ」

「素敵ね」


 取り巻き二人とお嬢様から好評をいただき、俺は口元が少しにやけてしまった。そんな自分の顔を見せたくないので、先に進む。

 息が詰まりそうな湿度の高さを肌で感じつつ廊下を歩いているが、死体が一切無い。最大限警戒しつつ教室の中を覗き込んでいくと、二組の教室でローレライを発見した。

 悲しみの感情によって生まれるナイトメアで、真っ青な肌をした美しい女の魚人だ。全長は下半身の魚の部分を含めて三メートルほど。結界の中を自由に泳ぎ回り、結界内に限り壁や床をすり抜ける能力を持つ。また、結界内に入り込んだ人間を襲って殺し、眷属の『マーメイド』へと変える力を持つ。そのマーメイドも、同じマーメイドにする力がある。討伐ランクはB。

 そんなローレライと目が合うと、奴は俺に向かって明確にニヤリと笑ってみせた。

 直後、ウフフ、ウフフ……、と少女の声が周りからし始めた。


「きゃあっ! なんですのこれ!?」

「人魚なの? でもこの人たちの顔、見たことある……」

「壁からも、天井からも来てるって!」


 お嬢様と取り巻きたちが声を出し、警戒して集まっている。その周辺では元生徒たちだろうマーメイドたちが手を出したが、バリアによって阻まれたことで様子を窺うように取り囲んでぐるぐると泳いでいる。

 貝殻ビキニを着けていて、エッチだ。


「みんなそいつらに近づいちゃダメ。壁や床に引きずり込まれて殺されるわよ」


 マイカが説明しながら大太刀を振るって追い払う。マーメイドたちは素早く離れるが、遊んでもらっていると言わんばかりに笑った。


 守りはマイカに任せよう。俺はローレライを――っと!


 ちょっと目を離したのがいけなかった。ローレライがいつの間にか三又の槍を持って突撃を仕掛けて来ていて、なんとか躱せた。

 すぐにステッキを構えるが、通り過ぎた先は廊下の壁で、外の霧のせいで姿は見えなくなっていた。


「……これは厄介だな」


 気配からどういう動きをしているかは分かるが、遠距離攻撃しようにも壁や床に潜り込んで当てられない。


「む、マイカ!」

「ええ!」


 動きを予測し声を掛け、ローレライが壁から出て来るところを狙わせる。

 よく見たマイカが大太刀を振るって壁ごと切り裂こうとした直前、目の前にマーメイドが割り込んで来てピタリと止めてしまった。


「マイカ!」

「くっ」


 ローレライの槍をマイカは躱して大太刀を振るうが、その時には既に範囲外まで離れてしまっていた。


 やっぱり……人を斬るのに抵抗があるんだな。例えもう人に戻れない奴が相手でも。


 マイカが攻撃出来ないと周りのマーメイドが理解したのか、動きが急に変わった。隙あらば引きずり込もうと距離を縮め、バリアを壊そうと積極的に手を伸ばし始めた。

 全員が警戒を強める中で一体が生徒の一人に突っ込んで来る。それを俺が前に出てステッキで叩いて倒したが、反対側から来た奴を倒そうにも守るべき生徒が邪魔で手が出せない。

 代わりにマイカが動いたが、また目の前にマーメイドが出て来て倒すのを躊躇ってしまった。


「きゃっ!」


 マーメイドの突撃を許し、俺の作ったバリアが砕けて吹き飛ばされた生徒の一人が壁に激突する。


「うっ。あっ、やだ、助け――!」


 その隙に生徒の一人が裏側からマーメイドに引っ張られ、壁の中に引きずり込んだ。

 その成功体験がマーメイドたちを増長させ、全員が積極的に引きずり込もうと動き出し、バリアを壊しに掛かった。


 くそっ! もっと訓練する時間があればバリアを硬く出来たのに……!


 力不足を感じながらステッキを振り回し自分の身を守る。足元から掴み掛かってくる奴には、魔力を纏わせたステッキで突き刺して倒した。

 マイカもようやく踏ん切りがついて大太刀を振り回して倒し始めるが、連れて来た生徒を守るには少し遅かった。

 バリアが砕けて悲鳴と助けが聞こえ、次々と引きずり込まれていく。


「やめて! 離して!」

「藤井さん、藤井さん!」

「智子ダメ! あなたも引きずり込まれる!」

「友達を見捨てられませんわ!」


 取り巻きがピンチになってお嬢様が手を掴み、抵抗している。取り巻きのもう一人はお嬢様の方が大事なようだが、言葉とは裏腹に、一緒になって引きずり込まれるのを阻止しようとしていた。

 だが、その背後から二人を襲おうとするマーメイドが見えた。肝心のローレライは離れた位置で動く気配が無く、勝った気でいるっぽい。


 手遅れだがこれならどうだ!


「パラライズクラッカー!」


 追い詰められたお陰で思いついた演目を叫んで巨大円錐形のクラッカーを生成し、紐を引っ張る。


 パァンッ! と気味の良い大きな音が鳴り響くと紙テープと紙吹雪が射飛び出し、周辺に麻痺効果のある魔法の衝撃波を飛ばした。勿論、この麻痺は対象指定しているのでナイトメアだけに効果がある。

 壁や床を透過して衝撃波がマーメイドたちを襲い、全員がビクビクと小刻みに震えるだけで動かなくなる。

 その間にお嬢様と取り巻きはマーメイドたちから離れたが、残念ながら他の生徒はみんな引きずり込まれてしまった。助けることは出来ない。引きずり込まれてすぐに生きている気配が消えた。恐らく即座に殺されてマーメイドになったのだろう。自分の無能さが嫌になる。

 俺はステッキを床に突き刺してからハットを脱ぐと、内側に手を突っ込んだ。


「取り寄せハット」


 魔法で遠くにいるローレライの頭を鷲掴みにし、引っ張ってハットから首から上を出させた。ローレライは目を見開いて逃げ出そうともがくが、逃がすわけがない。

 ステッキを引き抜いて魔力を纏わせて刃物にし、首を切断。

 ローレライは甲高い悲鳴を上げながら霧散して消え、マーメイドたちも主人が死んだことが悲しいのか、同じように悲鳴を上げながら消えた。結界も消えた。


「残ったのは私たちだけか」


 俺の言葉に誰も答えない。

 マイカはバツが悪そうに顔を逸らした。


「……行こう。まだナイトメアはいる」


 暗くどんよりした空気のまま、俺たちは移動を始めた。



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