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演目17 ストリートマジック

 

 目が覚めると、知らない天井があった。


 ……保健室?


 白を基調とした病院っぽい部屋からそう判断する。傍ではブロンドさんがパイプ椅子に座り、スマホを静かに眺めて何かを読んでいた。


「あの……」

「む、起きたか」


 声を掛けて起きたことを知らせると、ブロンドさんはスマホをスカートのポケットに仕舞った。


「調子はどうかな? 一応、回復魔法を掛けておいけど」

「……問題ないです」

「そうか。まずは謝らされてくれ。さっきはすまなかった」


 謝罪し、座ったままだが頭を下げてくれる。


「別にいいですよ。やってみて分かりましたけど、アレ、本当は色々と制限を掛けたり条件付けしてやるもんでしょ?」

「その通りだ。探知魔法は範囲をある程度決めるか、探知する気配を絞り込んでおかないと、大量の情報のせいで脳に多大な負担が掛かって気絶してしまうことがある。それを先に教えるのを忘れていた。それに、君はどうやら探知魔法に適性がかなりあると思う。どれくらい探知出来た?」

「そうですね……かなり広範囲の街中の人間や動物の気配が探知出来ました」

「やっぱり適性がある。普通はこの学校程度の範囲が限界だと言われている」

「はぁ」


 普通を提示されても、探知魔法が地味過ぎていまいち凄さの実感が湧かないな。


「それより今何時です?」

「十二時を過ぎたところだ。君の分の弁当も買ってある。マイカも待っているから屋上で食べよう」

「はい」


 俺はベッドから起き上がり、持って来てくれていた自分の学生鞄を持って屋上へ移動した。

 マイカは既に食べ終えてスマホを手に休憩しており、俺はブロンドさんと同じベンチに座って昨日と同じ竜田揚げ弁当を身体強化した状態で食べ始めた。

 少しすると、ブロンドさんは箸を止めて言った。


「既に耐久強化の魔法は出来ているようだから、改めて説明は不要かな?」

「……んー、強度を上げるコツは聞いておきたいかも」

「頑丈になれって念じればいい。これも適性や願いによって強度が大きく変わる」

「ふむ。修復魔法は?」

「壊れた物の元のイメージを持って、魔法を掛ければいいだけだ。簡単なものなら誰でも直せるけれど、複雑な構造をしている機械などは、物を直したり生成したりすることを願った魔法少女しか適性が無い。君なら出来ると思うが」

「……」


 試しにちょっと複雑な機械を壊して……柵の内側には無いな。やり方は分かったしいいか。


「じゃあ、魔力纏いって?」

「言葉通りの技術だ。物は魔力を纏わせることで威力や切れ味が向上する。耐久性もそれなりに上がる。しかも相手の魔力を相殺するから、バリアや魔法による攻撃を打ち破るのに効果がある。非常に奥が深い技術で応用が利きやすく、魔力で形成した刃で剣を伸ばしたり、魔力の斬撃を飛ばしたり、属性に変換して火や電気を物に纏わせるといったことも出来る。こんな感じにな」


 ブロンドさんは割り箸に魔力を纏わせると先端を刃物に形成し、弁当の蓋をなぞった。するとまるで紙のように透明プラスチックの蓋が切れた。


「……実は、もう出来てます」


 俺も同じように金属製の箸に魔力を纏わせ、先端を刃物に形成して弁当の蓋を斬って見せた。


「確かに出来ているな。だが、バリア同様に密度がまだ薄いし安定性が無い。精進するように」

「はい」


 話が終わったので止めていた箸を動かし、俺とブロンドさんは再び弁当を食べ始めた。




 ――――放課後。


「よし、今日はこのくらいで終わろうか」

「お、おつかれさまでしたぁ」


 今日の訓練終了を告げるブロンドさん。その前には仰向けに寝転がってくたくたになったマイカがいる。

 そんな彼女を俵担ぎで持ってブロンドさんがこちらに近づいて来た。


「ネロ、たまに様子を見ていたがどうだ? 身体強化した体には慣れたか?」

「はい。ばっちり」


 俺はペットボトルに残っている紅茶をティーカップに淹れて、そっと持ち上げると飲んで見せた。

 自転車のように一度力加減の感覚さえ覚えれば、後は簡単だった。


「どうです?」

「うん、身に着いたようで何より。これならマイカと同じメニュー、午前中は基礎訓練、午後から模擬戦に移れるだろう」

「よし!」

「だが、身体強化はまだ解除するな。出来る限り戦闘の環境のままで魔力操作や魔力纏いを行い、体に感覚を覚え込ませるんだ」

「はい」

「じゃあ今日の所は解散とする。私はマイカを家に運ぶが、ネロは好きに過ごしていい」


 えっ、好きに?


「あの、サキュバスやマホロの襲撃は気にしなくて大丈夫です?」

「勿論、大丈夫じゃない」


 ないんかい。


「ただ、マコトに連絡を入れて君を見守るように言っておく」

「……それって囮ってこと?」

「そうなるな」

「そうなりますか……」


 まぁ、自由に動けるんならそれでもいい。


「じゃあ、私たちは家に帰るよ」

「はい。お疲れさまでした」

「お疲れさま」

「お疲れさま。ところで先輩、せめてお姫様抱っこにしてくれません?」

「もっと強くなれば、されなくて済むぞ」

「えぇー」


 二人を見送った俺はティーカップをビニール袋に入れ、ハットを出して内側に作った亜空間に仕舞い込み、学生鞄を持って屋上を後にした。

 トイレを済ませてから学校を出ると、玄関前で学校の制服を着たマコトと白い子狐のココンが待っていた。


「ブロンドから連絡があった。確認するが、これからどこに行くつもりだ?」

「街中に、ストリートマジックが出来そうな場所でも探そうかと」

「へぇ、ならココンを連れて行け。こいつは夢境の中だろうが結界だろうが、謎の空間だろうが連絡が取れる存在だ。ナイトメアについても熟知しているから役に立つ」

「えっへん!」


 そうなんだ。流石は魔法少女のマスコット、便利だ。


「それともう一つ、こいつを見えないようにすることは可能か?」


 マコトは手の中で30㎝ほどの赤くて太い糸を一本生成した。


「隠せるけど……これは?」

「お守りみたいなものだ。手首に結ぶ。右か左かどっちか出せ」


 よく分からんが、魔法少女からのお守りなら効果は確実にある筈。


 俺は左手を出して、手首に巻いてもらった。


「これでいい。ナイトメアと戦って、本当にどうしようもなくなったらその糸を解け。いいな?」

「はい」


 返事をし、俺は右手で赤い糸を撫でるように覆い被せて魔法を行使し、手品感覚でその存在を隠蔽して見えなくした。


「これでいい?」

「ああ、それでいい。ではな」


 シャキンッ!


 という音がしたと思ったら、マコトの姿は目の前から消えていた。


 ……どういう能力なんだろうな?


「ネロ、行かないのかい?」


 突っ立ってる俺にココンが聞いて来る。


「ん、マコトの能力がちょっと気になって」

「そうかい。ところでストリートマジックをするんだったよね? 僕は許可無しで出来る場所を知ってるけど、案内しようか?」

「是非頼む!」


 俺はココンを肩に載せて街中を歩いた。学校から比較的近くにある駅の、大通りの一部がストリートパフォーマンス用のフリースペースとなっていた。

 そこではミュージシャンを目指す若者がギターで弾き語りをしたり、楽器以外の物を楽器に見立ててドラム演奏している愉快な外国人がいたり、ピエロが様々なパフォーマンスをしていたり、手相占いの女性がいたりした。

 流石は都市部だけあって人通りが多く、立ち止まって見物している人も少なくない。


 ……これが奇術師魔法少女としての第一歩か。


「ココン、降りてくれ」

「分かったよ。やるんだね?」

「ああ」


 ココンが降りたことを確認すると、俺は人気の無い路地裏へと入って瞬間移動し、屋上に移動。それから変身してハットを被りステッキを持ってから、ストリートパフォーマンスをする場所を確認した。

 登場する為のキザでカッコイイポーズを決め、指パッチン。

 瞬間移動でパフォーマンスする場所に突如として現れつつ、生成したキラキラの紙吹雪を少量舞い散らせる。

 突然の奇術師の登場に近くの人間は驚いて目を見開き、立ち止まってくれる。


 注目されると緊張と不安でドキドキするな。

 でも、悪くない。


 俺は不敵な笑みを浮かべて口を開いた。


「どうも皆さん、こんにちは初めまして。私、奇術師魔法少女の皇ネロと申します。以後お見知りおきを」


 ハットを脱いでボウ・アンド・スクレープで一礼する。挨拶が終わるとミスを装って目の前にハットを落とす。しっかりと、表向きに。


「おっと、ハットを落としてしまった。失礼」


 ハットを手に取る瞬間に魔法で一輪の花を生成。

 いつの間にか生えていた花に少ない観客が息を呑む。


「おや? 花が生えてしまってる。どうしよう?」


 ハットをもう一度被せ、考えるポーズ。

 その間に中の物を変化させる。


「……うん、間違って生やしてしまったのだから抜いてしまおう」


 ハットを手に取る。


「っ、花が消えている!? どこに?」


 あっちを向いてこっちを向いて……背中を向けると観客から「後ろ後ろ」と声が掛かる。

 キョロキョロしてから手を背中に回せば、くせ毛の黒髪の花が絡まっていて、手に取ってわざとらしく驚く。


「おぉっ! 何故私の背中に? まぁいい、こうなったらお前を栞にしてやる! えいっ!」


 パンッ、と手を叩くようにぺしゃんこにしてやり、手の中で花をラミネート加工して封印。


「はいっ、出来上がり。お嬢さん、あなたにプレゼント」


 栞になった花を見せた後、見てくれているスーツ姿の若い女性に渡した。彼女は観客たちに注目されてはにかみつつも笑顔でちゃんと受け取ってくれた。


「さて、今日は初めて故に演目のストックはございません。短いですがこれで終わりとさせていただきます」


 俺は大きな黒い布をハットの中から取り出すように生成し、被って姿を隠した。同時に瞬間移動で屋上へと移動し、黒い布は空間に吸い込まれるように縮小させて消した。

 その場ではまばらな拍手が起こっているのを確認し、俺は口角が上がるのを自覚しつつ、路地裏に瞬間移動で降りて変身を解いてから帰ることにした。

 ココンが合流して来る。


「お疲れ様。短いけど中々様になっていたよ」

「ありがとう。そう言ってくれると嬉しい」


 楽しかった……。

 まだドキドキが収まらない。もっとネタを増やして、またやろう。



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