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演目1 変身


 突然ですが……俺、魔法少女になりました。

 なろうと思ってなれるものではないが、なってしまったものは仕方がない。


 時は少し遡る――




 ――それは、三十代無職のおっさんである俺が、いよいよ金欠になって最後の晩餐の為になけなしの一万円札を手に、買い物へ出掛けた時のことだ。

 残り少ないガソリンの軽自動車を動かしてスーパーマーケットを訪れ、酒とつまみと数日分の食料を買い込んだ。

 パンパンになったマイバッグを手に駐車場を歩いていると、事件は起こった。

 背後から悲鳴が聞こえたのだ。


「ん?」


 振り返ると、ナイトメアという怪物の一種である『スライム』が出現していた。

 家ほどの大きさの、粘性を帯びた液体の不思議生命体で、有機物だろうが無機物だろうが取り込んで溶かす凶悪な奴だ。

 既に何人か襲われて取り込まれ、溶かされ始めてグロテスクなシーンになってしまっている。


「うわー……」


 ドン引きだ。

 流石にアレに襲われて死にたくはない。

 助けに行くなんて気はこれっぽっちも湧かない。

 何故なら、ナイトメアには魔法少女による魔力を込めた攻撃以外は一切効かないので、一般人である俺には逃げる以外に手段が無いのだ。

 というわけで、こっちに襲って来る気配が無いからのんびり歩いて自分の軽自動車に向かう。

 車の電子ロックを解除して後部座席を開け、マイバッグを下ろす。

 それから運転席に入って座り、ドアを閉じる。


 ……ん?!


 助手席に何かがちょこんと座っているのが見えて、思わず二度見してしまった。

 ぬいぐるみのような見た目の白い子狐、神様の使いをしているココンだ。


「やぁ、初めましてだね。僕はココン、神様の使いだよ。魔法少女のマスコットと言った方が分かるかな?」

「いや知ってるけど……どうやって車に乗った? 鍵は掛けていた筈だが?」

「僕は高次元の存在だからね。物理的な壁はすり抜けられるんだ」


 そんな能力があるなんて初めて知った。

 それにこいつが見えるってことは……あるのか? 俺に魔法少女の素質が……!


 ココンは神の使いであり、本来は魔法少女と、魔法少女として素質のある人間にしか見えない。

 それなのに何で俺が知っているかと言えば、昔に魔法少女の一人がココンの存在を証明する為にイラストにしたことで、今やマスコットとしてぬいぐるみが売られているほど有名になっているからだ。


「それで? お前はどうしてここに?」

「君に魔法少女としての素質があるのを感知したんだ。それで確証を得ようと、こうして僕が見えるかどうか会いに来たんだよ」

「なるほど。で? 俺に素質がある理由は?」

「魂が活性化したからだよ。活性化には幾つか方法があるけれど……死ぬ覚悟を持ったりなんかしたら、活性化しやすいね」

「そうなのか」

「うん。ところで……逃げなくていいのかい?」

「あっ」


 忘れてた。


 ココンが俺にそう問い掛けた直後、ズルズルと動いて至近距離まで来ていたスライムが、軽自動車ごと俺を取り込んだ。


「お前、謀ったな!」

「何のことやら……それより、この状況から生き残る方法は一つしかないよ。どうする?」

「どうするって、魔法少女になれってか? あんまりにも強引過ぎるだろう!」

「逃げない君が悪いよ。むしろ魔法少女になる決断をする為に、敢えて逃げ道を塞いでいるのかと思っていた」

「んなわけあるかっ!」


 あっ、ヤバイ。車が溶け始めてる!


「時間が無いから今言っておくね。僕と契約して、魔法少女になってよ!」

「そのセリフ、もっと落ち着いた状況で聞きたかった!」


 ココンがとある魔法少女アニメの影響を受けて、契約を持ち掛ける際に必ず一度は言う定番のセリフだ。こんなムードもへったくれも無い状況で言われても、少しも感動しない。

 大きな溜息を吐いた俺は覚悟を決めた。


「……分かった。契約しよう。どうすればいい?」

「大丈夫。君の意思を確認出来たから契約は成立だ。さぁ、君の最も強い願いを一つ叶え、魔法少女になるといい」


 ココンが光り輝くと同時、まるで共鳴するかのように俺の体も光り出した。

 目を開けていられないくらいに光が強くなると、俺は忘れていた記憶を思い出した。


 ――二十年と少し前……俺が十歳の頃だった。まだ生きていた家族と一緒にテーマパークに旅行に行った。様々なアトラクションを楽しみ、イベントを観賞し、美味しいご飯とお菓子を食べた。

 その中で最も印象に残っているのは……大道芸の手品だ。

 奇術師が次々と手品を披露し、驚きと楽しさを与えてくれた。子供だった当時は魔法のように感じたが、大人になった今では巧みに計算された技術だと分かる。

 だが、魔法少女が現れてからは、子供騙しの奇術は派手な魔法のパフォーマンスに取って変わられて廃れ、俺も人前に出るのが苦手で向いていないと早々に諦めた。

 それでも……魔法少女が現れる前に見たあの手品や芸は、俺のなりたかったものとして心に深く刻まれている。いつか、あんな風に多くの人を楽しませて笑顔にしたいと……。


 その願いが力となり、魔法少女としての姿に変わって能力を手に入れ、理解した。

 光が収まって見えるようになったココンを俺は掴むと、すぐに能力を発動。

 溶けて崩れ掛けた軽自動車からタネ無し瞬間移動し、間一髪で脱出して駐車場に立った。


「おめでとう。これで君は魔法少女だ」

「不本意だがな」


 だが、なってしまったものは仕方がない。

 そして今に戻る……というわけだ。

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