の:呪い
部室にはまだ誰も居なかった。机の上にある一枚の折りたたまれた紙を、ユウキは何気なく広げてみた。
『呪いなんて非科学的な話だって馬鹿にしてない?
誰だって嫌いな相手位いる。
許せない位嫌いな奴くらい。
鬱陶しいと思う存在だったり。
気が狂いそうな位に嫌いな奴の一人や二人。
お粗末なのは明確な目的を持たずに適当に願う事。
まず自分が努力しなきゃ。
えてして、結果とは自分が行う行為に反映されるもの。
恐ろしい事にね。
呪うのなら徹底的に、それこそ用意周到に。
労力はかける程いい。
いずれとか曖昧な目標設定もタブーね。
この手紙はあなたのヒントになったかしら?
露骨な表現は避けたつもりなんだけど。
素敵な誰かがあなたを訪ねて来るから待っててあげてね』
気味が悪い。ユウキはその紙を机の上に放り投げた。目を反らそうとしたのに、その紙の裏面に汚なく滲んだ赤いペンのあとらしいものが目に入って、ユウキはぎょっとした。赤いペンのあと……インクらしいそれは、知らずに手に取った自分の指先にもべったりとついてしまっていた。
やだ、汚ない。拭くものを探しながら、ふとユウキは気付いていた。――さっきの紙。
書かれた文章は一見支離滅裂。そのまま読むから、だ。
……読み方を変えるのだ。文章の頭文字だけを縦に順に読むと、どうなる? 確か真ん中辺り、「おまえ」とか読めた箇所があった様に見えた……。
いやっ、気持ち悪いっ!! 何なの、誰に向けてなの? まさか、私――!?
ユウキはぎゅっと胸元に手を当てて、部室の入り口に向けて後ずさった。
開いている窓。――何故、開いてるの?
ユウキは目を見張った。今迄一度も開いていたという記憶がない窓。……素敵な誰かがあなたを訪ねて来るから待っててあげてね。最後の一文。
窓のすぐ向こうで、極限迄引き絞られた弓がしなるのを真正面にユウキは見つめていた。遠く離れた位置からでも的に突き刺さる威力を持つアーチェリーの弓矢。
――弓道部なんて、うちの学校にはないのに。……ないのに!?
野田ユウキの、赤いインクの付いた胸元が今は的になっていた――




