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どうせ異世界に来るのならもっと勉強しておけば良かったよ  作者: まゐ


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3、レニアⅤ

「天候によって、使えたり使えなかったりだと、困るな!」


「だから、試作だって言ってるでしょ!」


 大部屋の魔物を倒し終わった俺とトールとナイルは、急いで豪雨の降り注ぐ甲板へと向かった。辿り着いた所で、誰かの言い争う声が聞こえて来る。1人はゴーシュの声。もう1人の方は若い女性の声で、こちらには聞き覚えが無かった。


「試しに、使ってくれって、言うけどさ、何で、大雨の中、晴天用の、試作品を、渡すんだ?俺を殺す気か!」


「だから、どの程度の雨まで使用可能かを知りたかったんだってば!」


 途切れ途切れのゴーシュの声の合間に、カキンカキンッと戦闘の音が混ざる。どうやら、魔物と戦いながら言い合いをしているみたいだった。会話の内容から予想するに、ゴーシュが使えない武器を渡されて、戦わされているような感じに聞こえる。


 トールが先に甲板に飛び出した。続いて俺が出ると、土砂降りの中懸命に戦うゴーシュの姿が見える。


 見た事のない、身長程の長さの筒を左手に、右手に短剣を持ち、その短剣で襲い来る魔物の攻撃を必死に跳ね返すゴーシュ。


 見るからに劣勢。


「だって、晴れてる船上で火器なんて使ったら危ないじゃない・・・」


 出入口のすぐ横から女性の声が聞こえた。その声は今迄の言い争いと比べて音量が小さく、聞き取れなかったであろうゴーシュが「あ?」と聞き返して来る。


 俺はその女性を見た。


 所々覗く肌は、健康的に日に焼けていた。身に付けた旅装束は雨に濡れてびしょびしょ。頭には布を巻き付けて、両端をそのまま後ろに流して長い髪と一緒に編み込んでいる。しゃがんでいるけど、細身で機敏に動き回る様子が想像出来た。


 彼女の後ろにはでっかい木箱が置いてあって、その中には何やらごちゃごちゃと装置っぽいモノが雑然と詰まっているのが見える。


 多分、沢山の試作品だ。


「レニア(ファイブ)・・・」


 トールが魔物を見てそう呟いた。


「何それ?」


 初めて聞く言葉。分からなくて俺はすぐ聞いた。


「魔物を元にして作られた兵器です。レニア神殿の一派で開発・生産されたもので、現在は禁止されていると聞いています」


 そんなものがあるのか。


 思いながら俺は、その魔物を見た。


 レニアⅤと呼ばれるその魔物に虫らしさは一切無かった。


 大部屋で、甲板にちょっとデカい魔物がいると聞いた時には、あの活性化した虫達の親玉かなにかなのかと思っていたのだが、その予想は全くもって外れていたみたいだ。


 見た目は植物。全体的に緑がかっていて大木みたいなシルエットだ。高さは3メートル位で、その1番てっぺんにに玉ねぎみたいなのが乗っている。胴体部分からは蔓みたいなのが四方八方に伸びて、その一本一本に無数の棘が生えていた。ぶつかるときっと刺さるし痛いに違いない。


「禁止されてるものが、何でここにいるんだ?」


 そう聞いた俺に答えたのはナイルだった。


「飛んで来たんだよ、あそこから」


 言って指差したのは、船の進行方向。


「この船を追い越して行った、マジールの船からだ」


 俺は、ナイルの指差した方向を見る。強い雨で煙るように見える水面。そこに船は見えない。速い速度で進んでいってしまったのだろう。


「連絡船同士の取り決めで、追い越しはしないっつー暗黙のルールがあるんだ。あのマジールの船はそれを破った。破った上にこんな置き土産を落として行きやがった。普通じゃ無い」


「コイツ倒して追いかけた方が良いんじゃない?」


 女性がそう言った。同感。俺は頷いた。


 チッと舌打ちが聞こえた。続けてゴーシュの声が響く。


「短剣じゃダメだ。いつものくれ!」


 女性が立ち上がり、背後の木箱に駆け寄って中から何かを引っ張り出す。


 一瞬弓矢に見えた。けれども少し形が違っている。矢を置く部分に添木のような板が付けられていて、その中程にトリガーがあった。


 クロスボウ・・・か?


 そう思う俺の視線の先で、女性はその武器の他にもう一つ、長細い箱のような物を取り出して、その両方をゴーシュに向かって投げる。


「はいよ!」


 投げられた2つをゴーシュが受け取った。が、受け取った瞬間、雨の所為か足元が滑ってしまう。


 そこに追いかける様に迫り来る、蔓。


 ゴーシュが「しまった」という顔をした瞬間、俺の体が勝手に動いた。前へと踏み出す足。


 視線の先には、レニアⅤからゴーシュへと真っ直ぐに伸びる蔓と、それに向かうトール。流石に俺よりトールの方が速い。


 俺は、トールのする事を予測した。トールの目線は蔓の先端からその生際へと移動する。先端がゴーシュに届くまでの時間と自分のスピードを計算して、きっと生際から蔓を切り落とす事を選択するだろう。


 だったら俺は・・・。


 俺は走りながら頭をフル回転させて、ゴーシュの前へと飛び出した。


 思った通りトールが蔓を切り落とす。


 切断された蔓は、うねりながら少しも速度を落とさずに俺とゴーシュの方に向かって進んでくる。まるで蛇みたいに。


 流石は兵器、切断してもそれ単体で動く事が可能みたいだ。きっと、半端に切っても数が増えて面倒なだけだろう。


 ならば。


 俺は考えて、構えた剣の刃を立てて蔓の先端に切先を合わせた。進んで来る蔓の動きと勢いに合わせて、そのままスッと剣を上へとスライドさせる。


 包丁でアスパラガスを縦にカットするように。


 狙った通りに、向かって来る蔓は俺の剣に斬られて2本に裂けていった。そして、裂けた先から枯れたように茶色く変色していく。


 蔓は、先端からトールが切断した断面まで綺麗に2つに裂けると、そのままの勢いで俺とゴーシュの居る所から左右に分かれ、枯れ落ちて動かなくなった。


「アキラ、ナイスです」


 トールが空中で次の蔓を狙いながら言った。


「ありがとうハニー」


 背後からゴーシュの感謝の声が聞こえた。


 ・・・ハニーって、俺か?


 苦笑いを浮かべながら、続けてトールが切り落とした蔓を2つに裂く。


「刻まずに裂けば良いのか」


 ナイルが後ろから叫んで聞いた。それに、次々と蔓を切り落としながらトールが答える。


「はい。これだけが正解という訳ではありませんが、倒した例を知っています。縦に裂く、または燃焼させる事によって行動不能になるそうです。恐らくどの部分でも中心の芯の部分に行動パターンが組み込まれている」


「成る程な。だってよゴーシュ。火を使うのは間違っちゃいねぇみたいだぞ」


「だからってこんな大雨じゃ使えねぇよ」


 ナイルの言葉にゴーシュが答える。喋りながらもトールが切り落とす蔓を裂き続けた。


 ナイルは大斧で蔓の先端に切り込みを入れると片手で裂いた一方を掴み、もう一方を足で踏み付けて引き裂く。


 そしてゴーシュは、受け取った変形型の弓の真ん中の板みたいな部分に、同時に受け取った箱を設置して、蔓に向けて引金を引く。


 普通の弓よりも強く、そして速く、短い矢が発射されて、正確に蔓の先端を捕えた。捕らえてそのまま中心を真っ直ぐに突き進み、見事に芯の部分を破壊していく。


 その武器は、一度矢を打ち出してもすぐに次を打ち出す事が出来た。それはまるで機関銃の弓版とでも言った所だろうか。


「すご・・・」


 俺は思わずそう呟いた。


「見た事無いでしょ?私のオリジナルだから」


 すぐ横に、その弓のような武器を投げ渡した女性がいた。


「クロスボウは装填に時間が掛かるの。だから使い辛いって我儘言うヤツがいてね、そいつの為に使ってやったんだ」


 そう言って俺を見てニッと笑う女性。そうすると口の両脇に深いエクボが出来た。可愛い。


「その我儘なヤツって、ゴーシュ?」


 エクボを見ながら俺は聞いた。


「そうよ。いつも文句ばっかで一度もありがとうって言ってくれないの」


 言いながらゴーシュを見詰める女性。そんな風に言いながらもその目はゴーシュを追い続ける。瞳は輝いていて、一瞬も見逃すまいという執念に近い彼女の想いが滲んでいた。


「好きなの?」


 ポロッと、そんな言葉が口から出てしまった。言った後で、ゴーシュが女性に興味が無い事に気付く。


 やべ。余計な事言った。


 内心頭を抱える俺。横で女性が慌てて言う。


「ちょっ、な、何言ってんのよ!」


 その顔は真っ赤。エクボも可愛いが反応も可愛い。


 普通に恋する乙女の反応をする女性に俺はちょっと驚いた。


 さっきの言い合いの様子からして、ゴーシュの趣味を分かっていると思うのだが。


 何だか気になってしまう。


 余計な事かも知れない。でも、聞きたい。


「アイツさ、男が好きなんだよね?それでも、アイツの事好きなの?」


 ど直球に質問を放り投げてしまった。


 デリケートな質問なのかも知れない。でも、目の前の彼女に限ってはそれを聞く事が許されるような気がしたのだ。


「えっ、やっ、やだな!やめてよ、もう」


 そう言って真っ赤になって恥ずかしそうに俺の肩をぶん殴る。結構痛い。


 痛がりながら俺は思った。


 よく分かんないけど、楽しそうだな、と。


 その時、蔓が2本飛んで来た。慌てて俺は1本を裂き、もう1本の方は彼女がナイフで床に縫い留めた。


 暴れる蔓。


 すかさず縫い留めた所に剣を刺してそこから裂く俺。


 彼女は箱から普通の弓矢を取り出して、そして下がって構えながら言った。


「お喋りは後、先にアレ片付けよ!」


 そうだな。


 同意して俺は駆け出した。

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