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どうせ異世界に来るのならもっと勉強しておけば良かったよ  作者: まゐ


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25/25

25、世界で1番有名な

 淡々と語るグレイクの顔には何の表情も浮かんではいない。それは、彼に言い寄って来た者達への態度のように思われた。


「奴らの言いたい事も分からなくは無い。家紋の為代々守り続けられて来た長い歴史を()()()と言われてる様なものだから。けれども()()()()()だけじゃ変わらない。変わらない上に()()してしまう。()()どころか既に()()してるのもある」


 口を半開きにしてソファに座った姿勢のまま、膝に肘を付いて身を乗り出して真剣に聞くノワと、その横で姿勢良く、でも何かあればすぐに反応するであろう油断の無いトール。


「セシルのやり方は()()だった。が、だからと言って私が起ってセシルを倒す訳にも行かない。ならばどうするか」


()()って?」


 グレイクの話の中、気になる点があったので俺は聞いた。


 グレイクの目が俺を見る。そしてノワを見た。それを受けて今度はノワが俺を見て説明を始める。


「僕も細かい所までは知らないよ?でもこれは、世界中の誰もが知ってる有名な話」


 そこでノワは一度言葉を切ってトールを見る。見られたトールはノワに頷いて返した。どうやら知らないのは俺だけみたいだ。


「ルーの奥さん、あっ、『ルー』って言うのはセシル8世の事ね。その奥さん、つまり現王妃がそれを望んだからなんだ。で、その現王妃というのが・・・」


 国王の事を『ルー』と愛称で呼ぶノワ。グレイクの事も『リー』と呼んでいる事から想像するに、どうやらノワには、マジールの王族と家族ぐるみの付き合いがある様子だ。そもそもノワも『真ん中』の国王の甥だった筈なのだから、マジールの現王妃とも面識があるのかも知れない。


「恐らく、世界で一番有名な『NPC』です」


 言い淀むように声が小さくなったノワの言葉を補う様にトールが言った。それを聞いて、俺はハッと息を飲んだ。


 NPC。それは魂の欠陥品。


 『聖母』が自らの手で世界に刺激を与える為に創った、力強く輝く、魅力的で、他より秀でた、特別な魂・・・になる筈だったモノ。


 『疑う』事が出来ず、自ら正誤の判断が出来ず、言われた事を全て鵜呑みにしてしまい、矛盾を感じるとショートするみたいに壊れてしまう。


 そんな存在が、この国の王妃様なのか。


「セシルはエトワールに民主主義を説いた」


 グレイクがそう言うと、ノワが俺に「エトワールってのがルーの奥さんの名前ね。僕はエトって呼んでる」と耳打ちしてきた。


「民主主義は悪では無い。が、全能でも無い。セシルは民主主義の良い点のみをエトワールに教え、支持させた」


 それを聞きトールが頷く。


 俺は、『真ん中』で出会ったNPCを思い出した。堂々とした態度で面と向かって正論を吐く美女。田舎の騒動とは言え、一瞬で騒ぐ人々を黙らせた彼女の圧倒的な姿。


 もし、彼女のような人が一国の動向を左右する立場にあったとしたら・・・、それはとても危険な事なのでは無いだろうか。


 影響力の強い『NPC』に、自分達に都合の良い『正義』を代弁させる。その危険性。そうならない様に、良識を持ち、正常な判断力を持つ『時の加護』を持つ者を側に付けると、確かそんな風に聞いた。


 では、エトワールと言う名のNPCの側には『時の加護』を持つ者が居なかったのだろうか?だから国王に利用されてしまった、と言う事なのだろうか・・・。


 だとしたら、それは()()()とは言えないだろう。


 そう思っている俺の耳に、グレイクの気の抜けたような声が響いた。


「と、言われているが実は違う」


 そのグレイクの声を聞いて、俺達3人はそれぞれにガクっとズッコケた。


「あ、そうなの?」


 ノワが聞く。


「当たり前だ。そんな訳無いだろうが」


 呆れた声でグレイクはそう言うと溜め息を一つ吐いた。


「実際は逆なんだ。エトワールが転生者の話を聞いて日本に憧れを持ち、マジールも日本のようにすべきだとセシルに勧めて来たんだ」


 そう言うグレイクの表情は、今までの無表情では無く、困ったような喜んでいるような、複雑なものになっていた。


 瞬間、俺の脳裏に1人の女性の姿が浮かんだ。


 薔薇色のふっくらとした頬、大きくて常に笑っているような青い目、豪華に波打つ長い金髪。


 その女性が俺に向かって呼び掛ける。


「リー!」


 鈴を転がす様な可愛らしい声。


 その声を聞いた途端に、俺の脳天から足先まで電流が走り抜けた。




 瞬きをして目を開くと、すぐ目と鼻の先に真っ黒い穴があった。二つあるのそ穴は丁度俺の目線の高さで、左右の目の正面にそれぞれの穴が存在し、中を覗き込む事が出来る。


 何だ?これ・・・。


 そう思って少し後ろに下がる。距離を取ると次第にそれが何なのかが見えて来て、その正体に気付くと俺は「ヒッ!」と小さく悲鳴を上げた。


 それは、人の頭蓋骨だった。


 二つの穴は、左右の眼球の部分で、その中は暗闇に包まれている。


 タタラを踏むように2歩3歩と下がると、頭蓋骨が一つだけでは無い事に気付く。俺の顔の目の前にあった物を中心に左右に5から6個、両腕を広げた程の幅で並び、上下にも無数に並んでいる。


 気付けば踏み締める床も、そして天井も無い、ただ頭蓋骨だけが縦に積み重ねられたおかしな空間。頭蓋骨の柱の前に、俺が浮いている。


「彼の運命は狭い・・・」


 突然、声が聞こえた。俺の斜め上方。見上げると、誰も居なかった筈の所に人が浮いていた。それは見た事のある女性。


 浅黒い肌に長い黒髪。華奢な体つきのその人は、今は呪いを掛けられて石化している筈の人だった。


「・・・ドニ、さん・・・?」


 呟いた俺の声に反応して、俺を見て少し微笑む彼女は、以前テラの記憶の中で見たドニだった。


 テラの婚約者で、聖母と、そして時の尊との間に産まれた『未来(さき)詠みの女神』。


「『未来詠み』にはコツがいるの」


 ドニは、そう呟きながら滑るように俺のすぐ横までやって来た。そして、並んで正面の頭蓋骨を指差す。


「これが現在」


 そして下を見て「過去」と呟き、上を見て「未来(さき)」と呟く。


 その様子に、何も反応出来ないでいる俺の前で、ドニは何処から取り出したのか杖を手に持ち、振り上げる。


 ゲームで魔法使いが持っているみたいな杖だ。先端が太く、そこに黒い石みたいな物が嵌め込まれている。周囲には金の文字が刻まれていて、見た事もない文字の筈なのに何が書かれているか読む事が出来た。


『澱む事なく、滞る事なく、流れに逆らわず、自由であれ』


 読めても意味はよく分からない。


 その杖で、正面の頭蓋骨をコツコツと軽く叩いた。


 すると、その頭蓋骨の二つの穴の中に見えてくる風景。


 ソファに座る俺と、ノワと、トール。


 これは、グレイクの視線・・・なのだろうか。


「辿って来た過去」


 ドニの声に反応して彼女を見る。下を向く彼女の視線を追って下を向くと、軽く叩いた頭蓋骨から下に向かって一直線に並ぶ頭蓋骨が薄ぼんやりと光っていた。


「近い未来」


 ドニが続けて言った。見ると、杖で軽く叩いた頭蓋骨のひとつ上にある頭蓋骨と、同じ高さにある頭蓋骨の1列を杖の先で指し示すようにスライドさせた。


 その列の1番左端を、杖の先でコツコツと呟く。その二つの穴の中に見える風景は、闘技場で血塗れになっている男達の姿だった。


 そのすぐ横の頭蓋骨を叩く。同じように二つの穴の中に風景が見えて、そこではエデンの街が炎に包まれていた。


「これは・・・」


 呟く俺を無視して、ドニはその隣の頭蓋骨に杖を伸ばす。


「恐らく、これが最善」


 コツコツ。


 軽い音が響いて、風景が広がる。


 太った老人の首を切り落とす制服の男達。それと、縛られて連行される男達。トールに抱き抱えられる女の子。その子は、さっき裏通りで冥府の門に引き摺り込まれそうになっていた女の子だった。


 流れて行く風景の中に、ノワがいて、俺がいて、そして大勢の人がいる中で、エリスがいた。


「エリス・・・!」


 思わず手を伸ばす俺。


 ドニは、俺のその手をやんわりと掴んで止めた。


「流れのままに・・・」


 ドニを見ると、俺を見て微笑んでいた。


「運命は、選択の繰り返し。導きは、その選択の標」


 足の下から、男の声が聞こえた。ビクッとなって下を向くと、斜め左下に、まるで書店で本を選ぶようにひとつの頭蓋骨を手に取り眺める男がいる。


 黒い肌に長い黒い癖毛。テラの記憶の中で見たアーロに良く似た姿の男だったが、見た事は無かった。


「父様・・・」


 ドニがそう呟いた。男がその声にゆっくりと振り返る。黒い瞳が俺を見詰めた。


 ドニの父親・・・?って事は、時の尊・・・?なのか?


 でも、死んだ、いや、冥府に落ちて戻って来れないんじゃなったのか?


 なんで、いるんだ・・・?


 その疑問に答えるように、ドニが言った。


「ここは、時の流れの存在しない場所。だから、()のあなたに()が会えるし、父様も同時に存在出来る」


 よく分からない。分からないけれども、過去や未来が同時に存在してるって事は、何でもありなのだろう。


 俺は深く考えずに、流される事にした。


『澱む事なく、滞る事なく、流れに逆らわず、自由であれ』


 その金の文字に従う。


「最善へ、導く事を・・・」


 ドニのその言葉が聞こえると、俺はスーッと何かに引っ張られるような感覚を感じた。

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