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どうせ異世界に来るのならもっと勉強しておけば良かったよ  作者: まゐ


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23/25

23、『時空』の力

 走り出して幾度か角を曲がると徐々に人通りが少なくなり、人の気配の無い寂れた裏通りに入り込んで行った。


 少しずつ風が強くなって行った。進行方向に向けて流れて行く空気は、進むに連れて様々な物を巻き込んでいく。砂埃、紙切れ、洗濯物、軽い素材の容器等。ついには自分自身も引き摺られるようになった頃に、ソレが見えた。


 暗くて、何もかもを吸い込もうとする穴。


 同じに見えた。セーライ神殿の地下で見た、あの大きな水瓶と。


 『冥府の門』


 勿論形状は違う。水を溜め込んだ大きな水瓶はここには無い。ただ、裏路地の真ん中に突如ポッカリと口を開けた黒い穴の中には、あの時と同じ虚無感が満ちている。


 そして、その穴の中に、人が1人引き摺り込まれようとしていた。


「あった・・・!」


 強風の中、声を発するのもしんどいのに、ノワがそう呟いた。その声を聞いて俺は頷き、そして、うっかり足を掬われてその穴の中に落ちてしまわないように、慎重に近付く。途中から姿勢を低くして腹這いになり、ギリギリ引っ掛かっていた人の最後の腕が外れたその時に何とか間に合った。


 穴の淵に手を掛けて、支えながら中を覗き込むようにして手を伸ばして、その先にあった手をガッチリと掴んで強く引く。その手は男の物で、こちらが掴むと強く掴み返して来た。男の伸ばした反対側の手を、俺と同じように手を伸ばすノワが掴み、グッと引っ張る。


 徐々に持ち上がって来る男の体。


 ノワと2人、お互いに怒鳴るように声を掛け合いながら、力を合わせて引き揚げた。腕が、頭が、肩が、そして上半身が出て来ると、腹の部分を淵に引っ掛けて地面に水平にさせる。ノワが手を離して男の服の襟足を掴んで引いた。その勢いに合わせて俺は腕を引き、そして何とか足も引き摺り出して、男を助け出す事に成功した。


「やった!」


 ノワが肩を激しく上下させながらそう言った。


「ありがとうよ、助かった」


 助け出された男が、俺とノワを交互に見て礼を言う。


「良かった。間に合って」


 俺は切れ切れにそう言って、必死に息を整えながらも再び引き摺り込まれないように穴から距離を取ろうとジリジリ離れる。


 が、その心配は必要無かったようだった。


「穴が小さくなってく」


 横でノワが言った。見ると確かに、穴の直径がみるみる縮んでいくのが分かった。それに連れて、強かった風の流れが収まっていき、ついには穴が消滅して、空気の流れも止まった。


 後には、嵐の後みたいに舞い上がっていた紙やらゴミやらが散らばり、そこらじゅうに落ちて足の踏み場が無くなっている。


 木片やら空き容器やらが落ちてカラカラと音を立てた。その音に、何事かと不審に思った近所の者達がようやく顔を出す。


 すぐ側の扉が開いた。そしてそこから1人の女の子が飛び出して来て、辺りを見回してから俺達の背後を見、そちらに向かって叫ぶ。


「ユリアちゃん!」


 聞き覚えのある声だった。よく見れば、その女の子に見覚えがある。船の中で、俺とノワにお菓子を渡してくれた子だった。


 あの時はもう1人の女の子と2人で行動していたが、今は1人なのだろうか。


 そう思っていると、声を掛けた俺達の背後に向かって駆け出して行く。振り返ってみるとそこにはトールが居て、先程の穴に引き込まれまいと抵抗していたのだろう、通り沿いの家の外壁の出っ張りに手を掛けたまま気を失っている女の子を抱えている所だった。


 その子が、2人で行動していたもう1人の方だとすぐに気付いた。


 そうか、ユリアというのか。


 思った途端に、頭の中で記憶が整理される奇妙な感覚を味わった。


 船の中で貰ったお菓子、そこに付いていた手紙の文字が思い出される。記載されていた文字の接続詞のみがハッキリ思い出せた。その場で『マジール王国にある小さな村の名前』とノワが説明してくれた途端に、その丸っこい文字の羅列の中の、どの部分が村の名前なのかが理解出来たのを覚えている。


 不思議な感覚だったが、あの時の女の子の表情と様子の方が気になってしまっていて、すぐに忘れてしまっていた。


 その手紙の1番下の列の2つの単語のうちの1つ、それが『ユリア』と書いてあるのだという事が、今分かった。突然だ。


「・・・」


 何だか、変な感じだった。


「アキラ?」


 呼ばれて、ノワが心配そうに俺を見ているのに気付いた。そして、その横でへとへとになった男が同じ様な顔をして俺を見ていた。


「いや、何でもない」


 俺は、心配掛けまいとしてそう答えて、へとへとの男をノワと一緒に担ぎ上げた。


「どこか、この方々を休ませて上げられる場所はありませんか?」


 駆け寄ってきた女の子に向かってトールが言った。その時点で女の子はようやく俺達に気付いて振り向き、そして俺の顔を見てハッとなった。


「あっ、あ!」


 驚きの声を上げて、顔が真っ赤になる。


「良かったら、うちの店へ。今客殆どいないし」


 先程女の子が出て来た扉が再び開いて、同じ年頃の少年が顔を出して言った。


 その言葉に甘える形で、俺達は店の中へと移動した。




 店内には1組の客しかおらず静かなものだった。


 それでも迷惑にならないように静かに移動して、俺達は角の席にへろへろの男(トッドと言うそうだ)を座らせて話を聞いた。


 気を失ったままのユリアという名の女の子は2階の住居スペースに横にならせて貰い、もう1人の女の子(ライサと言うそうだ)が付き添った。


「急に、だよ。なんか引っ張られるなと思ったら、ズル!って。で、後ろ見たら道の真ん中に穴が開いててさ、危うく引き摺り込まれる所だったぜ」


 コップに出された水を一気に飲み干し、トッドはそう言った。


「随分前に食べ終わって帰ったと思いましたけど、あんな所で何してたんですか?」


 空になったコップに新しく水を注ぎながら、店へと誘ってくれた少年(イールと言うそうだ)がそう聞いた。それに対して、何故か言い淀むトッド。


「それは、だな。あの子が休憩で出て来たら話したいと思ってだな・・・」


 説明しながら、声も体もどんどん小さくなるトッド。そんな彼に向かって、イールは水を注いだコップをドンッと置いて、威嚇するみたいな顔をした。


「あんた、さっき忠告しましたよね!新人からかうのはやめて下さいって!」


「からかうつもりなんてねーよ。俺は本気で・・・」


「だったら尚更悪いですよ!うちは出会い系じゃ無いんです。手を出さないで貰えますか?!」


 横の席で貰った水を飲んでいた俺達3人は、話に入り込めずに2人の様子を見ていたのだが、『出会い系』という言葉が出て来た所で、俺はブッと吐き出してしまった。


 異世界で聞く言葉じゃないだろ・・・。


「アキラ汚い」


 少し水が掛かったノワがそう言って濡れた部分を払う。トールが店主のおじさんから布巾を借りて、俺の濡れた服を拭いてくれた。


「出会い系は3軒先だな」


 トールのそんな様子を見ながら、店主がそう言った。


 あるのか。


 そう思って、俺は店主を横目で見ながら額から汗を垂らす。


 いやいや、出会い系とかはどうでも良い。問題は『冥府の門』。アレがあんな所にどうして現れたのか、だ。


「えっと、何で穴が出て来たのかは分かんないの?」


 2人の言い合いは留まる所を知らずに続いていたが、それに割り込むようにして俺はそう言った。


 俺の声に2人は一瞬止まって、そしてトッドが俺に向き直って言った。


「分かんねーな。とにかく急に引き摺り込まれたから。そしたらあの子、ユリアちゃんが手伸ばしてオレを助けようとしてくれたんだよ。良い子だよな。でも少しこっちに近付いただけでユリアちゃんも落ちそうになってよ。で、オレは「逃げろ」って言ったんだ。なにもわざわざ2人で落ちる事は無いからな。そしたらよ、あの子が何て言ったと思う?「やだ」って言ったんだよ。泣かせるだろ?オレを置いて逃げるなんて出来ないって思ったんだぜ。ありゃオレに惚れてるな」


 それを聞いたイールが「そんな訳無いだろ!」と言ってトッドの胸倉を掴み上げた。


「おい、やめないか」


 店主がそう言ってイールを背後から羽交締めにして止めた。イールは片足が不自由らしい。会った時からずっと、左足の膝から下が全く動いていなかった。動かなくなってから長いのか、或いは生まれ付きなのかは分からないが、何と言うか()()()()()()()()()()()。みんな『そういうもの』として動くし、長くイールと一緒に居る者達は、『そういうもの』として扱う。


 見慣れない俺にとっては、イールとイールの周りのその様子が眩しかった。


 差別も贔屓も無い、自然な扱い。


 きっと、マジール王国だから()()なのだ。『真ん中』では、()()は行かない・・・。


「どう思う?」


 目の前のやり取りを見ながらボンヤリとそんな事を考えていると、ノワが俺に聞いて来た。


()()はたまたまとか、勝手に出て来るものじゃ無い。誰かが意図的に出した物の筈なんだ」


 それを聞いて、俺は『冥府の門』問題に引き戻された。今考えるべき事は『冥府の門』の事だ。


 そう思って俺は一旦差別の事を頭の隅に追いやり、『冥府の門』の問題を考える。


 まぁ、そうだろうな。あんなものが勝手に自然発生したら世界は大混乱だ。


 時空を捻じ曲げて、無理矢理他の世界を持って来る、とんでもない力の筈だ。セーライ神殿の地下で『冥府の門』を出現させたアラベルは、自らが生み出したその『冥府の門』の中に落ちて行った。だからこの世界にアラベルはもう居ない。


「アラベルの他に、アレを出現させられるのって誰?」


 俺はそう聞いた。


「うーんとね、『時空』をどうこうするのは『時』の領域なんだ」


 説明を始めてくれるノワ。


「『時』の力を使えるのは、『時の尊』の血を引く子供達、もしくはその子供達から加護を受けた人間。アキラも前会ったよね?あの可愛い『時の子』サリアちゃんと、あと、若い女性誘拐事件の犯人、ニルだっけ?あの2人は『時間』にまつわる『加護』を受けてる」


 ノワの説明を聞きながら、俺は『真ん中』の辺境で出会った、幼い姿なのに中身のしっかりとした少女サリアと、時間を自在に止める事が出来、その力を悪用して女性達を攫い続けたニルを思い浮かべた。


 あの2人は『時の加護』持ち。2人共『時の流れ』を操作する事が出来ていた。


 同時に思い出す、あの時のサリアの言葉。


 『『時の尊』はもう()()()には居ないのよ。だから加護を持っている人が居るとしたら、私と同じ様に『時の尊』が生きていた遥か昔に加護を受けたか、()()のどなたかから授かったか』


 あの言葉の中にあった()()と言うのが、『時の尊』の血を引く子供達の事だろうか。


「『時空』の『加護』を人間に授ける、なんて危険過ぎるから聞いた事無いけど、一応それが出来るのは、その『時空』の力を受け継いだ2人の子供のみ。うち1人はアラベルで、彼女はもう居ないから・・・」


 そこまで言って、言葉を止めるノワ。


「なら、もう1人の方が怪しいんじゃないの?」


 俺はそう言った。けど、それにノワは同意せずに、目を閉じ腕を組んで「うーん」と唸り始める。


 トールが横から助け舟を出すように言い始めた。


「もう1人の『時空』の力を受け継いだ方は、聖母の御長男のドウラ神ですが、かの神は、その、マザコンで有名でして」


 ・・・ん?


 頭の中に「?」が浮かんでしまった。


「ドウラってヤツはさ、生まれた時からずーっと聖母の側から離れないんだって。聖母ラブが過ぎるから、多分人間が傷付くような事はしないと思うんだよね。『時空』の『加護』を人間に授ける事は可能だけど、危険だし、そもそも人間に会う事が無いのに授けるとか考えられない」


 成る程・・・。


「じゃあ・・・誰?」


 聞いた俺に答える者は居なかった。ノワは肩をすくめてお手上げポーズ、トールはそれを見て苦笑い。


「あなた方は『真ん中』から来たのかい?」


 店主がそう聞いて来た。


「はい、そうです」


 頷きながらそう俺は答えた。


「成る程、それで神様の話を」


 目を細めて俺達3人を眺める店主。


「そうか、ならアレは神々の力だったのか。なら納得だ」


 トッドが言って、1人納得して深く頷く。


「え?何納得してんの?」


 訳が分からず、俺は聞いた。


 と、その質問に対する答えが、予想外の方向から聞こえて来た。


「マジールには『神様』やら『加護』やらは、基本存在しないから、な」


 店の入り口から聞こえて来たその声に、その場に居た全員が振り返った。そして、その声の主を見て驚く。


 『死神グレイク』


 その人がそこに立っていたのだった。

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