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どうせ異世界に来るのならもっと勉強しておけば良かったよ  作者: まゐ


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11、ジャッキーと黒い棘

「アキラの『殺気』凄かったよ」


 ノワのその言葉に、俺は一瞬理解が追いつかなかった。


「『殺気』?トールの?」


 ナイルから受け取った上着に袖を通してベッドから立ち上がり俺は聞き返す。


「違うよ、()()()の。トールのも凄かったけどさ、アキラのは桁違い。僕も鳥肌立っちゃったよ。後さ、槍もほぼ完璧だったね。気付いてた?槍術の『加護』も使ってたよ?それから『挑発』も使ってたね。もう、いつの間に覚えてたの?」


「えっ・・・?」


 確かに『挑発』は使えていたが、他にも何かをしたという記憶は無かった。操られたトールの相手をするのに、とにかく必死だったのだ。油断するとアンジェに向かって行ってしまいそうなトールを足止めする事と、眠気と苛立ちと疲労との戦いに。


「記憶に無いな」


「何それー」


 それよりも、だ。


「そんな事より、トゲ落ちてなかった?」


 俺の上着の内ポケットの中に入っていたはずの『黒い棘』が無い。多分何処かに落としてしまったのだ。そっちの方が問題だ。


「トゲ?トゲって、何の?」


 急に聞かれたノワの顔に?マークが浮かび上がった。


 突然言われても分からないのは当たり前か。


 そう思って俺は説明した。


 トールの足止めをしていた時に、自ら作り出してしまった『黒い棘』の事を。苛立ち、怒りの感情が爆発的に高まった時に目の前に現れて、それを上着の内ポケットの中に仕舞った筈なのに、消えてしまったという事を。


「・・・、はぁ?!」


 間を置いて顔を歪めるノワ。


「『黒い棘』ってアレ?セーライ神殿で神官達が刺して活性化したヤツ?」


「ああ、そう見えた」


「アキラが作ったの?」


「多分」


「何で?!」


「知らないよ」


 聞かれても知る訳もない。俺自身も焦って、それでパッと掴んで仕舞った筈なのに。


 ノワがいきなり俺の上着を掴み上げた。


「わっ、何だよ」


 焦る俺を無視して、そのまま上着を脱がしてくる。せっかく着たのに、脱がされてノワに奪われてしまった。ノワはそのまま内ポケットの中を確認して、スマホを出して「違う」と言いながらポイっと捨てる。


「あ、おい!」


 俺は慌てて投げ捨てられたスマホを拾ってノワを振り返る。右ポケット、左ポケットを確認して中のハンドタオルやらポケットティッシュやらを捨てると(何で捨てるんだ)上着自体を裏返して確認した。


「無い!」


「だから無いんだって」


 「言ったじゃないか」と呟きながら、ハンドタオルとティッシュと、最後に捨てられた上着を拾って表に返して着込む。そして顔を上げると、ノワは少し前を行くトールの胸倉を掴み上げた。


「ノワ様、どうかしましたか?」


「大変だトール!アキラが危険物を落とした!」


「危険物、ですか?」


 訳が分からないといった顔で驚くトール。そんなトールに「そうだ、危険物だ!トールも探して!」と言い捨てて、甲板への道をキョロキョロと探しつつ慌てて先に行ってしまうノワ。


 残されたトールとナイルはポカンとしている。


「アキラ、一体何が・・・」


 圧倒的に説明が足りないノワ。俺は改めてトールと、そしてナイルに説明をした。


「え!アキラ・・・」


 驚いて目を丸くするトール。それはそうだろう。あの悪意の塊の様な『黒い棘』を、俺が作るなんて。


 作った俺自身もよく自体を飲み込めていない。しかも、それを失くしてしまったのだ。


「よく分からんが、その『黒い棘』は危険なんだな?なら早い所見つけた方が良さそうだ」


 見た事もない筈のナイルがそう言ってくれた。ありがたいと思いつつ、その言葉に頷く俺。


「多分、俺が倒れた所から運ばれて来る時に落ちたんだ。通った通路のどっかにあると思う。ナイル、案内して貰える?」


「お安い御用だ」


 そう言って先導してくれるナイルの後を、俺とトールは、床の上を隅々まで確認しながら着いて行くのだった。




 通路の足下と壁までを隈なく探し、道すがら出会った人全員に『黒い棘』を見なかったか?と聞きながら進み行き、俺達はとうとう甲板にまで辿り着いてしまった。


「アキラ!無い!」


 そこで待ち構えていたノワが、半泣きになりながら俺に縋り付く。


「どしたの?」


 そんなノワの様子を見て、ゴーシュが軽く驚きつつ聞いて来た。


「実はちょっと探し物をしていて。これくらいの『黒い棘』なんだけど、ゴーシュ達も見なかったかな?」


 指先で10cm程の幅を作って見せる。すると、ゴーシュは近付いて来て俺の手首を掴んで、その指先に顔を近付けた。じっと見詰めてそして、口を開ける。


 何だ?


 俺がそう思った瞬間、トールがゴーシュの首に腕を掛けて締め上げた。ほぼ同時にノワが俺の肩を後ろに引く。


「アキラに手を出さないで頂きたい」


 トールの低い声が響いた。目は吊り上がっていてかなり怖いし、何だかゾワゾワするから多分『殺気』立ってる。


「や、やだな冗談だよ・・・ははは・・・」


 ゴーシュの乾いた声が響く中、ナイルは冷めた表情を浮かべていて、アンジェはムッとして溜め息を吐き出した。


 ・・・何だ?


 俺1人が事態を飲み込めていないみたいで、疎外感を感じた時だった。


「トゲってコレか?」


 聞き覚えの無い声が響いた。俺の斜め後ろ側、低い位置から。


 振り返って見ると、いつの間に置かれたのか、そこにぬいぐるみが置いてあった。茶色いモコモコのクマみたいなタヌキみたいなぬいぐるみで、デニム素材のオーバーオールにブーツ、ジャストサイズの麦わら帽子を被っている。


 可愛いな。


 そう思っていたら、ぬいぐるみが動いた。


「!」


 驚く俺に向かって、何かを差し出して来る。モコモコの丸っこい指(?)に摘まれていたのが、今正に探していた『黒い棘』だったので更に驚いた。


「ジャッキー!無事だったのね!」


 アンジェが嬉しそうな声でそう言い、ぬいぐるみに抱き付いた。


 そうか、コイツがジャッキーか。世の中の魚全種類を制覇する為に世界中を巡っている釣り師。言われてみれば、背中に釣竿らしき棒を背負い、腰元にはタモと魚篭がぶら下がっている。


「そ、それ!それだ!」


 俺はそう言いながら、ジャッキーが持つ『黒い棘』を指差した。


「やはりコレか。珍しいアイテムだからルアーに加工してみようと思っていたのだが、持ち主が現れたのなら仕方がない。ほれ、返す」


 ジャッキーがそう言いながら差し出した『黒い棘』を、ノワが受け取る。ノワの指が受け取った瞬間、ビクッと震えたように見えた。


「ノワ・・・?」


 何やら普通じゃない様子に心配になって呼び掛けた俺を、ノワがゆっくり振り返る。


 耀(よう)の作った『黒い棘』は、神を活性化させていた。もしかして、俺が作った『黒い棘』は、触れただけで影響が出てしまったりしているのだろうか。


「なかなかに()()()悪意の形だったぞ。コレを使えば日頃釣れない魚が掛かりそうだったのだがなぁ」


 ノワの様子や、それを見た俺の反応などお構いなしに残念そうにそう言うジャッキー。


 それを聞いて俺は思った。


 ジャッキーが持っても何ともなかったんだから、触れただけで影響が出るということは無さそうだ。


 では、何だ?


 俺は、その『()()()悪意の形』という言葉に引っ掛かりを覚えた。


「アキラ・・・」


 ノワが俺の名を呼びながら『黒い棘』を俺の手に持たせてくる。


 途端に頭の中に流れ込んで来る、俺の声・・・。


『そもそも二徹だ。ただでさえ眠くてイライラするのになんでトールと戦わなくちゃならないんだ。1人で女の子から手紙とお菓子も山程貰いやがって。顔も良いし背も高い。性格も優しくて文句の付け所が無いじゃないか。強いて言えば真面目過ぎるのが難点か?でもそんなの欠点とは言えないし。あー腹立つ!』


『あー眠い!クソっ!早く倒せよノワ!』


「こ、これは・・・」


 トールと戦ってる最中に、俺が苛立っていた時の、俺の心の声だった。


 俺は、じわっと手のひらに汗が滲むのを感じた。額からも流れてくる。


 そう言えば、耀の作った『悪意の塊』からは、俺に対する不満を感じ取れたっけか・・・。


 恐らくこうやって、誰かに対する不満やマイナスの感情を抱き、自分の中で高めた時に『黒い棘』は産まれるのだ。(何故俺や耀にそれが出来るのかは謎)


 俺は、セーライ神殿で神官達が手にした『黒い棘』を思い浮かべた。


 あれだけの数の『黒い棘』を作り出すには、どれだけ沢山のマイナスの感情を必要としたのだろうか。耀のそれが、全て俺に対する不満だったのだとしたら・・・。考えると腹の辺りがズンと重くなる。


「どうかしたのですか?」


 トールがそう言いながら、俺の手の中の『黒い棘』に触ろうとした。


 ハッとなって、俺は『黒い棘』を内ポケットに仕舞い込む。


 コレを、トールに持たせる訳にはいかない。


「いや、何でもない。見つかって良かった!うん。誰も活性化しなくて良かった!」


 言いながら誤魔化す様に笑う俺。不自然極まり無い。


「荷物、見せてよ」


 注意を逸らす為にそう言って、みんなの視線を荷物に向ける。


 トールは、納得いかなそうな顔をしていたが、荷物の方に向き直った。


 良かった。誤魔化せたか。


 ホッと胸を撫で下ろす俺の肩を、後ろからノワがポンと軽く叩いた。


「まぁ、気持ちは分かるよ」


 そう言ってニヤリと笑う。


 何だか、弱味を握られた気分。俺は特大の溜め息を吐き出しながら荷物を確認するのだった。

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