2.少年達はボートに乗って
キャラ設定を公開させていただきます。
九竜 英介 [くりゅう えいすけ] 17歳 ♂ 髪:黒色 瞳:黒色
17歳とは思えない、天才的頭脳の持ち主。
(主人公①です。)
乱獅子 大和 [らんじし やまと] 17歳 ♂ 髪:銀色 瞳:紅色
『絶対感覚』という生まれながらの能力を持っている。
この能力は絶対音感のようなもので、距離や時間などを的確に言い当てることが出来る。
(主人公②です。)
手作りの船で意気揚々と進む2人の少年がいた。1人は長めの黒髪のおとなしそうな少年。もう1人はいかにもやんちゃな銀髪の少年。対照的なその少年達は、見たところ高校生のようだった。
「ね、ねぇ、この船どこに向かってるの?」
「オレに聞いても分からねぇぜ!」
「舵を取っているのは大和でしょ!」
大和と呼ばれた銀髪少年は悪戯に笑みを作って、なだめるように言う。
「まぁ英介、そんなに怒んなって。ほら、島が見えてきたし」
英介という黒髪少年は、むすっと頬を膨らませながらも、徐に立ち上がって前方を確認する。
「確かに見えてきたけど…ってうわあああ! いきなりスピードを上げないでよ!」
英介が立ち上がった瞬間に大和はスクリューをほぼ全開に回したので、英介はよろめく。危うく海に落ちそうなところまで追い詰められたが、ここは気合で持ちこたえた。
「にしてもすげぇよな、お前。手作りでモーターボート作っちまうんだから」
手作りでモーターボート(実際はもっと高機能)を作ってしまうような頭を持っている英介は、分数の掛け算さえ出来るかどうか怪しい大和に褒められても、さほど誇れなかった。
「まあいいや…。ていうかあの島、沖ノ鳥島じゃない?」
遠くのほうに小島が2つ、海面からせり出すようにして見える。英介は、北小島と東小島という島だと説明したが、大和は一切聞いておらず、スピード全開で北小島のほうへ向かってボートを走らせた。
(…僕が作った特別製とはいえ、どれだけ遠くまで走らせたんだよ)
ぶつぶつと呟く英介を無視して、大和はどんどん突き進んでいく。
「ほう、ここが沖ノ島島か」
「それを文章にするとただの誤植になるよ…」
「じゃあ沖ノ鳥鳥か」
「……あきれたよ」
北小島に船をつけた2人は顔は楽しそうではないものの、日本の最南端の島へ上陸するという人生で1度あるかどうかの体験に心が弾んでいた。
その喜びと好奇心を、島を10周することで満たした2人は、小島の真ん中で仰向けになって寝そべっていた。そのときの気分もあるかも知れないが、寝ると波の音と潮の匂いが一層強くなったように感じた。波は高くないので海水がかかることも無く、眠気を誘われるポカポカ陽気が疲れている彼らを夢の中へと手招きする。
「…いいてんきだねー」
「…いいてんきだなー」
そんな他愛も無い会話しか出来ないほどに眠くなっていた2人は、ついに目を瞑ってしまう。そこから意識がなくなるまではさほどかからなかった。無理も無いだろう、昨夜彼らは2時間ほどしか寝ていないのだ。
「「………」」
2人はほんの少しだけ眠る気持ちでいたのだが、1度眠ってしまうとなかなか起きられないもので、日が落ち始め、辺りが赤くなり、薄紫色になっても彼らは一切気付かない。幸か不幸か、天気が崩れることは無かったので彼らは何にも邪魔されず、スゥスゥと寝息を立てていられたのだ。
彼らが寝てから何時間経っただろうか。唐突にヒュウ、と風が吹き、波が瞬間的に高くなる。その波は海の水を巻き込み、巻き上げ、島へと寄せた。空を舞う水しぶきが丁度良く英介の顔へとかかる。
「……んむぅ、ってぇええ! もう真っ暗じゃん!」
水の冷たさと磯臭さに、英介はやっと目を覚ました。授業中の居眠りがバレた時のように、辺りをキョロキョロ見回して状況を確認すると、彼は第一に、辺りが真っ暗になっていることに驚いた。人というものはこんなに眠れるものなんだな、と感心していた自分に、英介は心の中でツッコんでみる。
「そんなことしてる場合か、僕は」
英介は未だに寝息を立てている大和へ鮮やかなドロップキックをかまし、強引に起こした。彼らは小学校からの友達なので、大和が身体をゆすったくらいで起きるものではないと英介には分かっていた。しかも、下手に起こすと寝ぼけて右ストレートを放つ可能性まである。大和は力が強いのでそんなことをされた日には、顔がパンパンにはれ上がること間違い無しだろう。
無理矢理起こされた大和は不機嫌そうであるが、なんとなくまずい状況であることは分かっていたようであった。というより、空一面に星が瞬いている時間帯に無人島にいるという状況をまずいと思わない奴は狂っているだろう。
「腹減った、それと夜になっちまったな」
「大和、君は相当卑しいんだな」
2人の会話はとてもマイペースだ。それが彼らの長所でもあるのだが。
きらきらと美しく輝く星達が2人を照らす。いつもなら平和なその情景は、余計に孤独感を煽った。
「どうする? 夜に船を動かすのはまずいと思うぜ。ライトすらついてねぇのに」
「確かにそうだね。今何時だか分かる?」
何の準備もなしに海へ出てきた2人は腕時計や携帯電話すらもっていなかった。常識的に考えて時間など分かるはずが無いのだが、少々常識外れな彼らにはそれを知ることができた。
「8月11日午前2時32分42秒だぞ」
大和の感覚は有り得ないほどに研ぎ澄まされていて、時刻や重さ、長さなど、寸分の狂いも無く知ることが出来る。英介はこれを『絶対感覚』と呼んで感心していたが、当の本人はそれほど凄いとは思っていないようだった。
「出発が10日の午前9時頃だったから、相当の時間が経ってるね」
英介は不安そうに言う。1日もの間ほとんど何も食べていない上、暗闇の中にいるというだけで心理的に追い詰められる。
「…?」
と、そのとき英介は奇妙な光に気付く。その光は紫とも緑ともとれるような気持ちの悪い色であった。
「なんだあれ?」
大和もその光に気付いたらしく、珍しいことに怖がっているようだった。光は段々と大きさを増していく。
「あれは自然現象じゃあない――」
何かがおかしい、と英介がもう一度考え直そうと頭の中を整理し始めたときにはもう遅かった。
「…ッ!!」
瞬間、光は爆発的に拡散し彼らを包んだ。ジェットコースターに乗ったときのような重力から開放される感覚を覚えたと思えば、強烈な光が脳を揺らし、吐き気を催す。
意識が消えそうな中、英介は何とか目を開いた。
「あ……れ…?」
ブレる焦点を合わせた先に見えたのは一人の少女だった。心の中で驚いたが、顔が麻痺しているように引きつって動かず、表情で表せない。真っ白で雪のような肌と蒼色の長い髪の少女。どこか儚げで美しいその少女は瞳に光を宿しておらず、死んでいるかのように無表情であった。純白のドレスについたフリルは一切揺れることはなく、まるで時がそこだけ止まってしまっているのではないかと錯覚させられる。
(だれ…な……の……)
少女にそう問いかけるために口を開こうとした直後、一層激しい光が少女の身体を包み、それと同時に英介の意識は暗闇へと堕ちていった。