第97話 資料庫での発見
その夜、時間管理局の資料庫を訪れた。
過去の記録を調べる名目で、本当は1980年の痕跡を探しに。
埃っぽい資料庫の奥で、古い写真の束を見つけた。
『1980年8月 関東地方文化記録』
震える手でページをめくる。
そして——見つけた。
夏祭りの写真。遠景で撮られた、神社の境内。提灯の明かり。浴衣の人々。
その中に——
「ヒナタ君……?」
写真は不鮮明で、顔ははっきりしない。でも、学ランを着た少年が写っている。
隣には、浴衣姿の少女。
まさか、これは——
「私?」
ありえない。私はカメラを避けていた。でも、誰かが遠くから撮った一枚に、偶然写り込んでいた。
写真を胸に抱きしめる。
データじゃない、物理的な写真。1980年の光が焼き付けた、本物の記録。
■リョウとの再会
「カナミ」
資料庫を出ると、リョウ先輩が待っていた。
「久しぶり」
「リョウ先輩、どうして」
「今日は君の誕生日だろ? それに——」
リョウは、一冊のファイルを差し出した。
「ユキの記録。前任者の」
「え?」
「彼女も1980年代に行った。そして、同じように壊れて帰ってきた」
ファイルを開く。
そこには、青い絵がたくさん描かれていた。空、海、青い花。
そして、最後のページに、走り書きのメモ。
『記録できなかったもの: 彼の笑顔 彼の声 彼の温もり でも、忘れない 忘れられない それが、私を人間にしてくれた』
「ユキは今、地方の小さな施設で暮らしている。絵を描きながら」
「幸せ……ですか?」
「分からない。でも、生きている」
リョウが微笑む。
「君も、生きているね」
■夜の実験
深夜、第7セクターで一人、新しい実験を始めた。
窓を、50センチに広げる。
すると——
風が吹き込んできた。
春の風。1980年の夏とは違う、2131年の春の風。
でも、風は風だ。
髪を揺らし、書類を舞い上げ、生きている証を運んでくる。
窓から顔を出す。
夜空に、星が瞬いている。
本物の星。
「ヒナタ君、見て」
空に向かって言う。
「少しずつだけど、空を取り戻してる」
ポケットから、学ランのボタンを取り出す。
月明かりに照らすと、黒いプラスチックが鈍く光る。
「このボタンが、お守りみたいに、私を支えてくれてる」
風が強くなる。
窓から入った風が、室内を吹き抜けて、別の窓から出ていく。
循環。
閉じられた世界に、風の道ができた。




