表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夏を記す瞳に君のかけら  作者: 大西さん
序章:灰色の空の下で
95/103

第95話 18歳の朝

■2130年の独白:


「18歳になった。でも私の中には永遠に17歳の夏がある。それが私を生かしている」


■18歳の朝


2131年3月15日。私の18歳の誕生日。


目覚めると、いつものように微笑んでいた。もう驚かない。この一年、毎朝そうだから。


起き上がって、窓——いや、電子スクリーンを見る。今日も灰色の映像が流れている。でも、私にはその向こうに青が見える。


ベッドサイドの小さな箱を開ける。


ヒナタの学ランのボタンが、朝の人工光を受けて鈍く光っている。


「おはよう」


ボタンに向かって呟く。狂っているかもしれない。でも、これが私の日課。


着替えながら、鼻歌が漏れる。あのハーモニカのメロディー。もう止めようとも思わない。


部屋を出る前に、壁を見回す。


一年前は隠していた「青いコレクション」が、今は堂々と飾られている。万年筆のインク瓶の破片。褪せた布。ガラスビーズ。そして、新しく加わったもの——商店街で貰った風鈴。


チリンと小さく鳴る。


風なんてないはずなのに。


■感情抑制剤との対峙


廊下に出ると、自動配給機の前に小包が置かれていた。


『エージェント・カナミ 最終通告』


開けると、白い錠剤が10個、整然と並んでいる。感情抑制剤。


『本日中に全量服用すること。これは命令である』


監視AIの冷たいメッセージ。


錠剤を一つ、手に取る。


小さくて、軽くて、無味無臭。これを飲めば、楽になる。ヒナタの顔も、ラムネの味も、すべて霧のように薄れていく。


効率的で、生産的で、社会に貢献する優等生に戻れる。


手のひらで転がす。1980年の夏が、この小さな錠剤で消せるなんて。


「……嘘だ」


呟く。


消せるはずがない。あの夏は、私の細胞の一つ一つに刻まれている。


窓の外を見る。今日は、電子ドームの継ぎ目から、かすかに本物の光が漏れている。第7セクターで少しずつ広げてきた「窓」の成果だ。


ヒナタと見た、あの青。


錠剤を握りしめる。


そして——


ゴミ箱に投げ捨てた。全部。


「私は、壊れたままでいい」


大きな声で宣言する。廊下に誰もいないけど、監視AIは聞いているだろう。


「これが、私の選択です」


返事はない。でも、どこかでアラームが鳴っているのが分かる。


規約違反。処分対象。


でも、怖くない。


だって、私は生きているから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ