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夏を記す瞳に君のかけら  作者: 大西さん
序章:灰色の空の下で
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第94話 ミレイの決断

午後、ミレイ課長に呼ばれた。


「監視AIから報告があった」


「処分ですか?」


「いいえ」


意外な答えに顔を上げる。


ミレイは、小さく微笑んでいた。


「あなたは正しい選択をした」


「え?」


「17歳で感情を失うのは、早すぎる。私は28歳で失った。いや、失ったふりをしている」


ミレイが立ち上がり、窓——電子スクリーンに近づく。


「あなたの『窓プロジェクト』、上層部には内密に進めなさい」


「ご存知だったんですか」


「第7セクターのタカハシは、私の古い友人。彼も、かつて過去を見てきた人間」


ミレイが振り返る。


「小さな変化から始めなさい。いきなり大きく変えようとすれば、潰される」


「はい」


「それと、カナミ」


「はい?」


「あなたの鼻歌、なかなかいい曲ね」


■革命の始まり


その夜、記憶の会で作戦会議が開かれた。


「窓プロジェクト、いいね」


サキが言った。


「私の部署でも、協力者を探してみる」


「俺も」とユウタ。


「感情の伝染、もう始まってるよ」


ミクが報告する。


「私の階でも、感情指数が上昇してる」


レイがギターを爪弾きながら言った。


「静かな革命。音もなく、でも確実に」


みんなで頷き合う。


壊れた者たちの、小さな反乱。


でも、これが世界を変える一歩になる。


■希望の欠片


その夜、第7セクターの制御室で、小さな実験を始めた。


亀裂を、少しだけ広げる。1センチから、2センチへ。


すると、風が強くなった。


本物の風が、室内を吹き抜ける。


書類が舞い上がる。普通なら「非効率」として即座に修理される事態。


でも、私は笑っていた。


舞い上がる紙を追いかけながら、くるくると回る。まるで子供みたいに。


17歳の子供。


そう、私はまだ17歳なんだ。


「見て、ヒナタ君」


誰もいない部屋で、空に向かって言う。


「始まったよ。小さな穴から、少しずつ」


風が髪を揺らす。


その風に、かすかに感じる。


夏の匂い。


1980年の夏の匂い。


「この穴を、窓にする。そして、いつか扉にする」


外では、電子ドームが相変わらず空を覆っている。


でも、その向こうには、確かに本物の空がある。


青い空が。


ヒナタと見上げた、あの空が。


記録はできなかった。


でも記憶は、こうして現実を変えていく。


少しずつ、確実に。


亀裂から漏れる光が、私の顔を照らす。


きっと今、私は笑っている。


理由もなく、ただ嬉しくて笑っている。


生きているから。


感じているから。


覚えているから。


そして、一人じゃないから。


明日も、この小さな窓を、少しずつ広げていこう。


仲間たちと一緒に。


いつか、みんなが空を見上げられる日まで。


ヒナタとの約束を、果たすために。

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