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夏を記す瞳に君のかけら  作者: 大西さん
序章:灰色の空の下で
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第75話 新しい決意

階段を降りながら、考える。


ケンカして、初めて分かったことがあった。


ヒナタを失うことの恐怖。


そして、私の気持ちは本物だということ。


任務なんて、もう関係ない。


記録なんて、どうでもいい。


私は、ヒナタが好きだ。


この感情は、紛れもなく本物だ。


でも、だからこそ、明日はちゃんと別れなければならない。


中途半端じゃなく、真剣に。


「カナミちゃん」


「なに?」


「明日、どこか行きたいところある?」


考える。


どこでもいい。


ヒナタと一緒なら。


「ヒナタ君の好きな場所、全部」


「全部?」


「うん。この町の、ヒナタ君が好きな場所、全部見たい」


ヒナタが、嬉しそうに笑う。


「じゃあ、朝早くから出かけよう」


「うん」


「でも、たくさんあるよ」


「いい。全部」


「疲れるよ」


「平気」


最後の一日。


全部、心に刻もう。


この町の景色も、ヒナタの笑顔も。


忘れないように。


150年先の未来でも、思い出せるように。


「あ、そうだ」


ヒナタが言う。


「金魚、預かってる」


「え?」


「昨日の金魚。宿に置いてきたでしょ」


そうだった。


小さな命。


「大切に育てるから」


「うん」


「名前、つけてくれる?」


名前。


「ナツ」


「夏?」


「うん。この夏の思い出だから」


ヒナタが、優しく微笑む。


「いい名前だ」


商店街に入る。


もう、日が暮れ始めている。


マルフクの前を通る。


「明日、ラムネ買おう」


ヒナタが言う。


「最後の思い出に」


最後。


その言葉が、胸に刺さる。


でも、笑顔を作る。


「うん、買おう」


明日で、すべてが終わる。


でも、まだ明日がある。


大切な、大切な、最後の一日が。

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