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夏を記す瞳に君のかけら  作者: 大西さん
序章:灰色の空の下で
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第74話 和解

夕方、神社へ向かった。


長い階段を、一段ずつ上る。


夕陽が、西に傾き始めていた。


ヒナタは、階段の途中に座っていた。


膝を抱えて、じっと遠くを見ている。


「ヒナタ君」


振り返った彼の目は、赤かった。


泣いていたのか。


それとも、夕陽のせいか。


「カナミちゃん……」


「ごめん」


先に謝った。


「私、隠し事ばかりで」


「いや、俺こそ」


ヒナタも謝る。


「さっきは、ひどいこと言った」


「ううん」


階段に座る。


少し距離を置いて。


でも、昨日より近い距離。


蝉の声が響いている。


ミンミンゼミの声が、少し弱くなっている気がする。


夏の終わりが、近づいている。


「俺、怖いんだ」


ヒナタが、ぽつりと言った。


「怖い?」


「カナミちゃんが、突然いなくなりそうで」


横顔が、夕陽に照らされている。


オレンジ色に染まった、優しい顔。


「君は、どこか遠くから来て、また遠くへ行っちゃう気がする」


正解だった。


完全に、正解だった。


150年という時間の距離。


それ以上遠い場所なんて、ない。


「でも……」


深呼吸する。


そして、精一杯の真実を告げる。


「今は、ここにいる」


ヒナタが、私を見た。


「今、ヒナタ君の隣にいる」


「それじゃ、だめ?」


長い沈黙。


風が吹いて、木々がざわめく。


そして、ヒナタが微笑んだ。


「だめじゃない」


「本当?」


「うん。俺が、馬鹿だった」


「そんなことない」


「いや、馬鹿だ」


ヒナタが、空を見上げる。


「今を大切にしなきゃいけないのに、未来のことばかり考えてた」


「ヒナタ君……」


「ごめん、変なこと言って」


「私も、ごめん」


「何が?」


「言えないことが、たくさんあって」


ヒナタが、そっと手を重ねてきた。


温かい。


生きている温度。


「いいよ」


「え?」


「いつか、話せる時が来たら教えて」


「いつか……」


そんな日は、来ない。


でも、ヒナタは優しく続けた。


「来なくても、いい」


「……」


「カナミちゃんはカナミちゃんだから」


手の温もりが、じんわりと伝わってくる。


これが、仲直りの温度。


「でも、一つだけ約束して」


「何?」


「いなくなる時は、ちゃんと『さよなら』を言って」


胸が、締め付けられた。


さよなら。


明日、言わなければならない言葉。


「……約束する」


嘘じゃない。


これだけは、本当の約束。


「ありがとう」


ヒナタが、手を握り返してくる。


「明日で、最後なんでしょ?」


「うん」


「じゃあ、明日は朝から晩まで一緒にいよう」


「いいの?」


「当たり前でしょ」


ヒナタが立ち上がる。


私も立ち上がる。


手は、繋いだまま。

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