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夏を記す瞳に君のかけら  作者: 大西さん
序章:灰色の空の下で
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第73話 孤独な時間

川原に一人、残された。


膝を抱えて、流れる水を見つめる。


水は、昨日と同じように流れている。


でも、世界が違って見える。


初めて知った感情がいくつもあった。


誤解される苦しさ。


信じてもらえない痛み。


大切な人を傷つける恐怖。


そして——嫉妬。


ユイの言葉が頭から離れない。


「私は、ずっとここにいる」


そうだ。ユイは、ヒナタと同じ世界の人。


同じ時間を生きている。


私は、違う。


150年先の未来から来た、影。


ここにいてはいけない存在。


でも——


ヒナタの笑顔を思い出す。


ラムネを飲んだ日。川で遊んだ日。祭りの夜。


全部、本物だった。


演技じゃない。任務でもない。


私は、確かにヒナタが好きだ。


涙が出た。


悔しくて、切なくて、苦しくて。


これも、感情。


人間の、感情。


17年間、抑えてきたものが、次々と溢れ出す。



■タケシの助言


どのくらい泣いていたか分からない。


太陽が高くなっていた。


「泣いてる場合じゃないでしょ」


顔を上げると、タケシが立っていた。


手に、ラムネを2本持っている。


「タケシ君……」


「はい」


ラムネを差し出される。


「ありがとう」


プシュッと開ける。懐かしい音。


「陽太のやつ、神社にいるよ」


「え?」


「一人で考え込んでる。多分、後悔してる」


タケシが、私の隣に座った。


石を拾って、川に投げる。


「さっき、ちょっと脅すようなこと言って、ごめん」


「ううん」


「でも、本心でもある」


タケシが、真っすぐ前を見たまま続けた。


「陽太は、俺の親友だから」


「うん」


「でも、カナミちゃんも嫌いじゃない」


意外な言葉だった。


「変な子だけど、陽太を変えてくれた」


「変えた?」


「前より、生き生きしてる。この町のことも、新しい目で見るようになった」


タケシが、私を見た。


「それは、カナミちゃんのおかげだと思う」


「でも、私は——」


「事情があるんでしょ?」


驚いて、タケシを見る。


「顔に書いてある。『言いたいけど言えない』って」


タケシは、また石を投げた。


きれいに水切りができた。


「でもさ、事情なんて、どうでもいいんじゃない?」


「どうでも?」


「だって、今、ここにいるじゃん」


単純な言葉。


でも、真実だった。


「陽太も、本当はそれで充分だと思ってる」


「でも——」


「ただ、不安なんだよ」


タケシが、ラムネを飲む。


「カナミちゃんが、突然消えちゃいそうで」


正解だった。


完全に、正解だった。


「だから、せめて『今は一緒にいる』って、伝えてあげて」


タケシが立ち上がる。


「あ、でも無理強いはしないよ」


振り返って、いつものように笑う。


「ただ、時間は限られてるんでしょ?」


「……うん」


「なら、ケンカしてる暇はないんじゃない?」


タケシが去っていく。


その背中を見送りながら、決心した。

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