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夏を記す瞳に君のかけら  作者: 大西さん
序章:灰色の空の下で
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第7話 怒りの抑制訓練(8歳)

【怒りの抑制訓練(8歳)】


「今日は、怒りの制御です」


特別室。一人ずつ呼ばれる。


私の番。


部屋に入ると、机の上に、青いビー玉がある。


きれい。光に透けて、海みたい。


「これを、壊しなさい」


「え?」


「命令です」


ハンマーを渡される。


ビー玉を見つめる。青い。母の布と同じ色。


「早く」


手が震える。


でも、従わなければ、罰がある。


ハンマーを振り上げる。


ガシャン。


ビー玉が砕ける。破片が飛び散る。


「よくできました。感情指数の上昇は0.5以内」


でも、心の中で、何かも一緒に砕けた。


部屋を出る時、床に落ちた破片を、こっそりポケットに入れる。


これが、コレクションの始まり。


【体罰としての感覚剥奪(9歳)】


「また感情指数が上昇しました」


今日の訓練は、「愛情の抑制」だった。


実験用のウサギを与えられた。白い、小さなウサギ。


「一週間、世話をしなさい」


毎日、餌をやった。水を変えた。


名前を付けた。心の中で。「ユキ」。


そして、一週間後。


「処分しなさい」


「……処分?」


「安楽死させます。これは訓練です」


注射器を渡される。


できない。


手が震える。ユキが、鼻をひくひくさせている。


「できません」


感情指数、3.8。


「特別矯正室へ」


真っ白な部屋。音も光も、完全に遮断される。


72時間。


最初の24時間は、まだ耐えられる。


青い布を思い出す。触感を思い出す。


でも、布は没収されていた。矯正室に入る前に。


48時間を過ぎると、自分の心臓の音しか聞こえなくなる。


ドクン、ドクン。


これが、私が生きている証拠。


でも、それさえ聞こえなくなっていく。


60時間を過ぎると、幻覚が始まる。


青い空が見える。母が手を振っている。ユキが跳ねている。


でも、触れようとすると、消える。


72時間後、解放される。


「感情は、弱さです」


教官が言う。


「はい」


私は答える。


ユキは、もういなかった。


でも、心の奥で、小さな声が叫ぶ。


——これは、間違っている。

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