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夏を記す瞳に君のかけら  作者: 大西さん
序章:灰色の空の下で
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第69話 花火の時間

「そろそろ、花火」


午後8時。


空が、完全に暗くなった。


「いい場所、知ってる」


ヒナタが、手を引く。


神社の裏手。


小高い丘。


人が少ない。


「特等席」


確かに、よく見える。


河川敷に、花火の打ち上げ準備。


「もうすぐ」


ヒナタが、隣に座る。


近い。


肩が触れる。


浴衣越しに、体温を感じる。


そして——


ドーン!


最初の花火。


夜空に、大輪が咲く。


赤、青、緑、金。


光が広がって、消えていく。


一瞬の、美しさ。


「きれい……」


また、ドーン!


今度は、もっと大きい。


音が、腹の底まで響く。


振動を感じる。


火薬の匂いが、風に乗ってくる。


懐かしい匂い。


なぜ懐かしい?


初めてなのに。


■涙の制御不能


三発目、四発目、五発目。


次々と、花火が上がる。


そして——


涙が、溢れた。


止めようとしても、止まらない。


ポロポロと、頬を伝う。


「カナミちゃん?」


ヒナタが、心配そうに覗き込む。


「ごめん、分からない」


本当に、分からない。


なぜ、泣いているのか。


きれいだから?


違う。


もっと、深い理由。


17年間、泣いたことがなかった。


感情を抑えて、生きてきた。


でも、今——


堰を切ったように、涙が溢れる。


これが、感情汚染第3段階。


涙腺の、制御不能。


でも——


気持ちいい。


泣くって、こんなに気持ちいい。


■ヒナタの告白


「泣いてもいいんだよ」


ヒナタが、優しく言う。


ハンカチを差し出す。


「きれいだから、泣く人もいる」


「違う」


首を振る。


「じゃあ、なんで?」


「分からない」


「でも、初めて」


「初めて?」


「こんなに、生きてる感じ」


ヒナタが、私の手を取る。


「カナミちゃん」


「ん?」


「俺、君が好きだ」


また、告白。


今度は、もっとはっきり。


花火の光が、ヒナタの顔を照らす。


真剣な顔。


「答えは、まだいらない」


「でも——」


「でも、伝えたい」


ヒナタが、私の涙を拭く。


優しく、丁寧に。


「君といると、俺も生きてる感じがする」


「ヒナタ君……」


「君は、特別だ」


特別。


その言葉が、胸に刺さる。


私も、ヒナタが特別。


でも、言えない。


あと、36時間で消える私が。


■共鳴現象


その時——


近くの自販機が、勝手に作動した。


ガコン。


ラムネが、出てきた。


誰も、買っていないのに。


「え?」


ヒナタが、驚く。


「故障?」


違う。


私の感情が、機械に影響している。


共鳴現象。


でも、説明できない。


「ラッキー」


ヒナタが、ラムネを拾う。


「飲む?」


プシュッ。


懐かしい音。


二人で、回し飲み。


花火を見ながら。


カランカラン。


ビー玉の音。


「この音、好き」


私が言う。


「俺も」


「ずっと、覚えてる」


「俺も」


花火が、最高潮。


連続で、打ち上がる。


夜空が、昼間のように明るい。

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